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第三百七十二話 鶏の竜田揚げ
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天気はいまいちだが、暑さはひとしおだ。曇天から降り注ぐ雨粒はひとつひとつが大きく、当たったら痛いくらいだ。
こんだけの荒天だと休校になる率高いが、今日は終業式だけということもあってか普通にある。まあ、午後から晴れるらしいしなあ。
「おーっす、春都。おはよー」
「よう、咲良……うわ、お前びしょ濡れじゃねえか」
昇降口で明るく声をかけてきた咲良は、そのまま水泳でもしてきたんかっていうほどに頭からずぶ濡れだった。
咲良はケラケラ笑っていたかと思えば、実に堂々と言ったものだ。
「水も滴るいい男……って言うだろ?」
「流れ落ちてんだよな。滴るっていうよりは」
「じゃあ、水も流れ落ちるいい男?」
「ただのぬれねずみだな」
いやそれはともかくとして、どうしてこんな状況になったんだ。
聞けば咲良はあっけらかんと答えた。
「家出るときは晴れてたし、傘いらねーだろって思ったら急に降ってくるじゃん? バス停から走ったんだけどなー」
「どうするんだ、それ、ほったらかしといて乾くようなもんじゃねえぞ」
「ねー、どうしよう」
咲良はとりあえず持って来ていたらしいタオルで髪を拭き、シャツを絞る。ズボンのすそは捲り上げて、靴下を脱いで靴箱に向かった。
「春都、ついてきて」
「あ?」
咲良に引きずられるようにしてやってきたのは図書館だ。
「いやなんでだよ」
「なんか、漆原先生ならなんかしてくれそうじゃん」
「……それは分かる」
「な?」
まだ薄暗い図書館に入る。
「おはようございまーす」
咲良がそう言って少しして、漆原先生が詰所から現れた。
「おう、おはよう。早いな君たち……って、どうしたんだ。ずぶ濡れじゃないか」
「いやあ、実は……」
咲良が事の顛末を説明すると、先生は苦笑した。とりあえず本とかが濡れない場所に移動させられる。
「体操服でも着とけ」
「持って来てないんすよ。保健室行っても貸してくんないし、どうしよっかなーと思って」
「で、ここに来た、と」
ふむ、と先生は腕を組んで考えこむ。ホームルームが始まるまでまだ時間はあるので、いっそのこと俺が家に着替えを取りに行くのもありだよな。
それを咲良に言えば、咲良は笑って首を横に振った。
「や、そこまでしなくていいよ」
「お前こういう時は遠慮するよな」
「えー? 俺はいつも慎ましいって」
もっとも対極にあるような気がするんだがな。
先生は、ふと何かを思いついたように提案した。
「俺の替えのシャツでいいなら、今、すぐに用意できるが」
「借りていいんですか?」
「ああ、構わんよ。ズボンはあいにくないが……」
「ズボンは大丈夫です。裾だけなんで! シャツが欲しかったんですよ~」
どうやら解決したらしい。
やっぱ漆原先生、どうにかしてくれるな。
午後からは晴れのはずだったが、いまだ止む気配はない。小雨にはなっているが、相変わらず重苦しい空だ。
「晩ご飯は、何がいい?」
早々に学校も終わり、昼食を終えて居間でゴロゴロしていたら母さんが聞いてきた。
「あ、アイス食べる? バニラ」
「食べる」
母さんからアイスを受け取り、袋を開ける。シンプルなバニラアイスだ。これ、たまに食いたくなるんだよなあ。なめらかな舌触りとバニラのコクのある風味がうまい。
「晩ご飯かあ……何がいいかな」
降る雨はパラパラ、ざあざあと不規則な音を立てている。この音、あれに似てんだよな。揚げ物の音。雨の日に揚げ物すると、雨の音と相まって結構うるさいんだ……
「なんか揚げ物食べたい」
「あ、それなら竜田揚げとかどう? 鶏の胸肉があるから、それを薄く開いて、片栗粉つけて揚げるの」
「それ。それ食べたい」
「味付けは塩こしょうでいい?」
「うん」
そういや竜田揚げとからあげって何が違うんだろ。衣か? でもうちじゃあ、から揚げも片栗粉だもんなあ……
まあ、おいしいならそれでいいか。
からあげにしてもカツにしても、揚げたての威力というのはすごい。冷めたのもうまいが、やっぱ揚げたてっていいよな。
「いただきます」
カラッと揚がった鶏肉は、少しふわふわともしている。
塩こしょうだけの潔い味付け。噛むと皮がパリパリッとして、うま味たっぷりの脂と肉汁があふれ出す。肉は歯切れよく、プリプリと食感がいい。
「おいしい」
「そう、よかった」
「味変もありだなあ」
と、父さんはマヨネーズを手に取った。
キャベツの千切りのサラダで箸休め……あ、これ、竜田揚げと一緒に食ったらうまいのでは?
キャベツの上に肉をのせ、ネギをのせ、ポン酢をかけて食べる。ああ、やっぱり、思った通りよく合う。カリジュワッとあふれる肉のうま味に、ネギのさわやかさ、キャベツのみずみずしさ、そしてポン酢の酸味。これ、うまい。
マヨネーズをかけてみる。どうして鶏の脂身とマヨネーズってこんなに合うんだろう。マヨネーズのまろやかさと、鶏肉のうま味は間違いない組み合わせだと思う。
からあげもうまいが、竜田揚げもいい。衣は片栗粉で同じだが、確かに違うのだ。
どちらもご飯が進むことに、変わりはないけどな。
「ごちそうさまでした」
こんだけの荒天だと休校になる率高いが、今日は終業式だけということもあってか普通にある。まあ、午後から晴れるらしいしなあ。
「おーっす、春都。おはよー」
「よう、咲良……うわ、お前びしょ濡れじゃねえか」
昇降口で明るく声をかけてきた咲良は、そのまま水泳でもしてきたんかっていうほどに頭からずぶ濡れだった。
咲良はケラケラ笑っていたかと思えば、実に堂々と言ったものだ。
「水も滴るいい男……って言うだろ?」
「流れ落ちてんだよな。滴るっていうよりは」
「じゃあ、水も流れ落ちるいい男?」
「ただのぬれねずみだな」
いやそれはともかくとして、どうしてこんな状況になったんだ。
聞けば咲良はあっけらかんと答えた。
「家出るときは晴れてたし、傘いらねーだろって思ったら急に降ってくるじゃん? バス停から走ったんだけどなー」
「どうするんだ、それ、ほったらかしといて乾くようなもんじゃねえぞ」
「ねー、どうしよう」
咲良はとりあえず持って来ていたらしいタオルで髪を拭き、シャツを絞る。ズボンのすそは捲り上げて、靴下を脱いで靴箱に向かった。
「春都、ついてきて」
「あ?」
咲良に引きずられるようにしてやってきたのは図書館だ。
「いやなんでだよ」
「なんか、漆原先生ならなんかしてくれそうじゃん」
「……それは分かる」
「な?」
まだ薄暗い図書館に入る。
「おはようございまーす」
咲良がそう言って少しして、漆原先生が詰所から現れた。
「おう、おはよう。早いな君たち……って、どうしたんだ。ずぶ濡れじゃないか」
「いやあ、実は……」
咲良が事の顛末を説明すると、先生は苦笑した。とりあえず本とかが濡れない場所に移動させられる。
「体操服でも着とけ」
「持って来てないんすよ。保健室行っても貸してくんないし、どうしよっかなーと思って」
「で、ここに来た、と」
ふむ、と先生は腕を組んで考えこむ。ホームルームが始まるまでまだ時間はあるので、いっそのこと俺が家に着替えを取りに行くのもありだよな。
それを咲良に言えば、咲良は笑って首を横に振った。
「や、そこまでしなくていいよ」
「お前こういう時は遠慮するよな」
「えー? 俺はいつも慎ましいって」
もっとも対極にあるような気がするんだがな。
先生は、ふと何かを思いついたように提案した。
「俺の替えのシャツでいいなら、今、すぐに用意できるが」
「借りていいんですか?」
「ああ、構わんよ。ズボンはあいにくないが……」
「ズボンは大丈夫です。裾だけなんで! シャツが欲しかったんですよ~」
どうやら解決したらしい。
やっぱ漆原先生、どうにかしてくれるな。
午後からは晴れのはずだったが、いまだ止む気配はない。小雨にはなっているが、相変わらず重苦しい空だ。
「晩ご飯は、何がいい?」
早々に学校も終わり、昼食を終えて居間でゴロゴロしていたら母さんが聞いてきた。
「あ、アイス食べる? バニラ」
「食べる」
母さんからアイスを受け取り、袋を開ける。シンプルなバニラアイスだ。これ、たまに食いたくなるんだよなあ。なめらかな舌触りとバニラのコクのある風味がうまい。
「晩ご飯かあ……何がいいかな」
降る雨はパラパラ、ざあざあと不規則な音を立てている。この音、あれに似てんだよな。揚げ物の音。雨の日に揚げ物すると、雨の音と相まって結構うるさいんだ……
「なんか揚げ物食べたい」
「あ、それなら竜田揚げとかどう? 鶏の胸肉があるから、それを薄く開いて、片栗粉つけて揚げるの」
「それ。それ食べたい」
「味付けは塩こしょうでいい?」
「うん」
そういや竜田揚げとからあげって何が違うんだろ。衣か? でもうちじゃあ、から揚げも片栗粉だもんなあ……
まあ、おいしいならそれでいいか。
からあげにしてもカツにしても、揚げたての威力というのはすごい。冷めたのもうまいが、やっぱ揚げたてっていいよな。
「いただきます」
カラッと揚がった鶏肉は、少しふわふわともしている。
塩こしょうだけの潔い味付け。噛むと皮がパリパリッとして、うま味たっぷりの脂と肉汁があふれ出す。肉は歯切れよく、プリプリと食感がいい。
「おいしい」
「そう、よかった」
「味変もありだなあ」
と、父さんはマヨネーズを手に取った。
キャベツの千切りのサラダで箸休め……あ、これ、竜田揚げと一緒に食ったらうまいのでは?
キャベツの上に肉をのせ、ネギをのせ、ポン酢をかけて食べる。ああ、やっぱり、思った通りよく合う。カリジュワッとあふれる肉のうま味に、ネギのさわやかさ、キャベツのみずみずしさ、そしてポン酢の酸味。これ、うまい。
マヨネーズをかけてみる。どうして鶏の脂身とマヨネーズってこんなに合うんだろう。マヨネーズのまろやかさと、鶏肉のうま味は間違いない組み合わせだと思う。
からあげもうまいが、竜田揚げもいい。衣は片栗粉で同じだが、確かに違うのだ。
どちらもご飯が進むことに、変わりはないけどな。
「ごちそうさまでした」
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