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日常
第三百七十一話 もんじゃ焼き
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ホットプレートが一度出ると、何日かホットプレートを使ってのご飯が続く。
しかし、朝から稼働するのは珍しいなあ。
「朝から何すんの?」
「焼きおにぎり。おいしそうでしょ」
なんでも、昨日の残ったご飯に醤油とゴマ油、かつお節を入れて混ぜ、おにぎりにしたものを焼くのだとか。それ、うまいに決まってる。傍らではウインナーも焼けていた。
「いただきます」
焼きおにぎりは久しぶりだなあ。表面がカリッと香ばしく、中はほわっと温かい。醤油とゴマ油の香りがよく、かつお節がうま味を増していい感じだ。
そして、ホットプレートで焼いたウインナーって、どうしてこんなにうまく感じるんだろう。いつもと同じなのになあ。切れ目が入れられているからか? それとも、焼肉気分だからだろうか。
まあとにかく、今日も朝からおいしいものを食えて満足だ。
課外こそあれど、夏休みまであと少し。頑張るとしますか。
「ごちそうさまでした」
「お、見ろよこれ。レストラン街。高級店あるぞ」
「でも高いからってうまいとは限らんだろ」
「……この店は、うまい」
「朝比奈、行ったことあるん? すっげー、うらやましいぜ」
報告会に行く四人で、図書館のパソコンをのぞき込む。今度の発表で使うデータを確認していたのだが、休憩だ、と咲良が今度行くかもしれないショッピングモールを調べだしたのだ。
立派な店内マップには、確かに父さんが言っていた通り、飲食店の名前が多く連なっていた。なんかテレビで見たことがある名前の店もあった。確かこの店、最近はやってんだっけか。
「寿司屋あるじゃん」
咲良はさっきからお高めの店ばかり見ている。
「フードコート見せてよ」
という早瀬の言葉に、咲良は素直に画面を切り替えた。
「おー、いろいろある。こっちで十分楽しめるじゃん」
咲良も楽し気に画面を見る。フードコートに慣れていない朝比奈も興味津々だ。
本当に和、洋、中、軒並み揃ってんだなあ。和定食に丼物、パスタにピザ、餃子、ラーメン。
「エスニック料理とかあるじゃん。エスニックって何、春都」
「俺もよく知らん」
「パクチーじゃね? パクチー」
「パクチー……食ったことないな、そういや」
あれこれ話していたら、後ろから声をかけられた。
「お前たちは何をしている」
「あ、漆原先生。見てくださいよ、これ。うまそうじゃないっすか」
「確認は終わったのか」
「休憩っす」
少しも悪びれない咲良に苦笑し、先生は咎めることもなくパソコンをのぞき込んだ。
「なんだ、これは?」
「フードコートっすよ」
「ふむ……ずいぶん店が多いんだな。お好み焼きとかもあるのか」
「たこ焼きもあるみたいっすよ」
タピオカやらクレープの店もあって、ここだけでちょっとしたテーマパークである。見たことのない、ファンシーな店もある。この店、何売ってんだろ。
「俺たこ焼き食いてえなあ、たこ焼き」
早瀬は頭の後ろで手を組んで言った。
「こういうにぎやかなとこで食う粉もんって、なんかうまくね?」
「それ分かる! しかも専門店のたこ焼きってうまいんだよな~」
そう賛同するのは咲良だ。朝比奈はじっとパソコンを見つめていたが、ぼそりとつぶやくように言った。
「ステーキとかあるんだ」
「ああ、目の前で焼いてくれるらしいぞ」
ハンバーグだとそこまで値は張らないようだ。お、ハンバーガーもあるじゃん。肉厚でうまそう。
「まあ好きなのを決めておくといい。きっと、行くだろうからな」
先生がそう楽しげに笑った時、図書館の出入り口が開いた。おっと、少々厳しい先生のお出ましだ。
「準備は順調か」
若干威圧的なその言葉に、四人そろってパソコン画面に視線をやる。と、いつの間にか画像と原稿が映し出されていた。
「ええ、もちろん」
漆原先生は愛想よく笑うと、俺たち四人にちらっと視線を向けて小さく頷いた。先生がやってくれたのか。
「集中して、やってくれていますよ」
さっきまで集中していたのは当日の飯についてなのだが……
とりあえず俺たちは、それっぽい表情を作るのに集中したのだった。
今日の晩飯は、余ったキャベツでもんじゃ焼きだ。
「いただきます」
もんじゃ焼きを焼いている間は、おにぎりを食っておく。少し冷えたおにぎりにはのりが巻いてあっておいしい。
「春都、よく食べるねえ」
母さんがもんじゃ焼きの様子を見ながら言う。
「おにぎり作っててよかったよ。もんじゃ焼きだけじゃ足りないもんね」
「まあ、うん」
「ほぼ野菜だもんな」
と、父さんも笑う。心が満たされることと、腹が満たされることはまあ、イコールじゃないよな。気持ちが満足しても、量が足りない、みたいなことってある。
さて、もんじゃ焼きもそろそろいい感じだ。
スプーンですくって、皿に移す。少し冷まして食べないと口の中が大惨事だ。もう見た目と香りだけでもうまい。
そろそろいいだろうか。キャベツとラーメンスナック、とうもろこし、青のり。とろりとした口当たりで、ソースの香りが鼻に抜ける。うむ、まだ熱々だが、それがいい。
じゃくじゃくとしたキャベツの食感にみずみずしさ、ほのかに香る青い風味、ラーメンスナックの塩気とサクサクとした歯触り。すこしやわらかいところも味がなじんでうまい。とうもろこしはプチッとはじけて甘くておいしい。あおのりの磯の香りも、食欲が増す。
これとおにぎりが結構合うんだ。粉ものとご飯というのは、どうしてこんなに相性がいんだろう。
カリカリに焼けたところはせんべいみたいにして食べる。香ばしくてうまい。少し柔らかいところが残っているところもいい。しっかり焼けたところで包めばモチモチッと、トロッとして、いろんな風味や食感を楽しめる。ラーメンスナックのうま味もにじみ出ていいのだ。
出汁の香り、ソースの味、具材の味。全部が合わさって、最高にうまい。
やっぱもんじゃ焼き、粉ものの中でもかなり好きだ。
「ごちそうさまでした」
しかし、朝から稼働するのは珍しいなあ。
「朝から何すんの?」
「焼きおにぎり。おいしそうでしょ」
なんでも、昨日の残ったご飯に醤油とゴマ油、かつお節を入れて混ぜ、おにぎりにしたものを焼くのだとか。それ、うまいに決まってる。傍らではウインナーも焼けていた。
「いただきます」
焼きおにぎりは久しぶりだなあ。表面がカリッと香ばしく、中はほわっと温かい。醤油とゴマ油の香りがよく、かつお節がうま味を増していい感じだ。
そして、ホットプレートで焼いたウインナーって、どうしてこんなにうまく感じるんだろう。いつもと同じなのになあ。切れ目が入れられているからか? それとも、焼肉気分だからだろうか。
まあとにかく、今日も朝からおいしいものを食えて満足だ。
課外こそあれど、夏休みまであと少し。頑張るとしますか。
「ごちそうさまでした」
「お、見ろよこれ。レストラン街。高級店あるぞ」
「でも高いからってうまいとは限らんだろ」
「……この店は、うまい」
「朝比奈、行ったことあるん? すっげー、うらやましいぜ」
報告会に行く四人で、図書館のパソコンをのぞき込む。今度の発表で使うデータを確認していたのだが、休憩だ、と咲良が今度行くかもしれないショッピングモールを調べだしたのだ。
立派な店内マップには、確かに父さんが言っていた通り、飲食店の名前が多く連なっていた。なんかテレビで見たことがある名前の店もあった。確かこの店、最近はやってんだっけか。
「寿司屋あるじゃん」
咲良はさっきからお高めの店ばかり見ている。
「フードコート見せてよ」
という早瀬の言葉に、咲良は素直に画面を切り替えた。
「おー、いろいろある。こっちで十分楽しめるじゃん」
咲良も楽し気に画面を見る。フードコートに慣れていない朝比奈も興味津々だ。
本当に和、洋、中、軒並み揃ってんだなあ。和定食に丼物、パスタにピザ、餃子、ラーメン。
「エスニック料理とかあるじゃん。エスニックって何、春都」
「俺もよく知らん」
「パクチーじゃね? パクチー」
「パクチー……食ったことないな、そういや」
あれこれ話していたら、後ろから声をかけられた。
「お前たちは何をしている」
「あ、漆原先生。見てくださいよ、これ。うまそうじゃないっすか」
「確認は終わったのか」
「休憩っす」
少しも悪びれない咲良に苦笑し、先生は咎めることもなくパソコンをのぞき込んだ。
「なんだ、これは?」
「フードコートっすよ」
「ふむ……ずいぶん店が多いんだな。お好み焼きとかもあるのか」
「たこ焼きもあるみたいっすよ」
タピオカやらクレープの店もあって、ここだけでちょっとしたテーマパークである。見たことのない、ファンシーな店もある。この店、何売ってんだろ。
「俺たこ焼き食いてえなあ、たこ焼き」
早瀬は頭の後ろで手を組んで言った。
「こういうにぎやかなとこで食う粉もんって、なんかうまくね?」
「それ分かる! しかも専門店のたこ焼きってうまいんだよな~」
そう賛同するのは咲良だ。朝比奈はじっとパソコンを見つめていたが、ぼそりとつぶやくように言った。
「ステーキとかあるんだ」
「ああ、目の前で焼いてくれるらしいぞ」
ハンバーグだとそこまで値は張らないようだ。お、ハンバーガーもあるじゃん。肉厚でうまそう。
「まあ好きなのを決めておくといい。きっと、行くだろうからな」
先生がそう楽しげに笑った時、図書館の出入り口が開いた。おっと、少々厳しい先生のお出ましだ。
「準備は順調か」
若干威圧的なその言葉に、四人そろってパソコン画面に視線をやる。と、いつの間にか画像と原稿が映し出されていた。
「ええ、もちろん」
漆原先生は愛想よく笑うと、俺たち四人にちらっと視線を向けて小さく頷いた。先生がやってくれたのか。
「集中して、やってくれていますよ」
さっきまで集中していたのは当日の飯についてなのだが……
とりあえず俺たちは、それっぽい表情を作るのに集中したのだった。
今日の晩飯は、余ったキャベツでもんじゃ焼きだ。
「いただきます」
もんじゃ焼きを焼いている間は、おにぎりを食っておく。少し冷えたおにぎりにはのりが巻いてあっておいしい。
「春都、よく食べるねえ」
母さんがもんじゃ焼きの様子を見ながら言う。
「おにぎり作っててよかったよ。もんじゃ焼きだけじゃ足りないもんね」
「まあ、うん」
「ほぼ野菜だもんな」
と、父さんも笑う。心が満たされることと、腹が満たされることはまあ、イコールじゃないよな。気持ちが満足しても、量が足りない、みたいなことってある。
さて、もんじゃ焼きもそろそろいい感じだ。
スプーンですくって、皿に移す。少し冷まして食べないと口の中が大惨事だ。もう見た目と香りだけでもうまい。
そろそろいいだろうか。キャベツとラーメンスナック、とうもろこし、青のり。とろりとした口当たりで、ソースの香りが鼻に抜ける。うむ、まだ熱々だが、それがいい。
じゃくじゃくとしたキャベツの食感にみずみずしさ、ほのかに香る青い風味、ラーメンスナックの塩気とサクサクとした歯触り。すこしやわらかいところも味がなじんでうまい。とうもろこしはプチッとはじけて甘くておいしい。あおのりの磯の香りも、食欲が増す。
これとおにぎりが結構合うんだ。粉ものとご飯というのは、どうしてこんなに相性がいんだろう。
カリカリに焼けたところはせんべいみたいにして食べる。香ばしくてうまい。少し柔らかいところが残っているところもいい。しっかり焼けたところで包めばモチモチッと、トロッとして、いろんな風味や食感を楽しめる。ラーメンスナックのうま味もにじみ出ていいのだ。
出汁の香り、ソースの味、具材の味。全部が合わさって、最高にうまい。
やっぱもんじゃ焼き、粉ものの中でもかなり好きだ。
「ごちそうさまでした」
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