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一方的なさようなら
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海外転勤が決まり、私はその準備とプロジェクトリーダーの通常業務に追われ、忙しくなり煌と話すのを後回しにしている。厄介事からは逃げてきたので、それが今回も如実に出ただけだ。
プロジェクトが完了する2ヶ月後に海外に行くスケジュールが組まれ、その間に向こうの会社の人と話し合う必要があり、メールでのやり取りになる。それには問題なく対応できており、向こうの印象も良いと上司に言われた。書くのと話すのは違うので不安だけど、いざとなれば筆談すればいいかと私も気が楽になった。
そうして、プロジェクトを終えて海外に行く前にメンバーに報告すると食事会を開いてくれることになり、もちろん私は参加必須だ。
「都築さん、海外でも頑張って下さい。」
「海外なんて羨ましいです。」
「私も行きたい。」
なんて、後輩が言うが、私はそれに苦笑いをする。先輩に当たる人達は何も言わずにただの世間話をして、私はそれに癒やされる。
食事会はつつがなく終わり、みんなと別れて最寄り駅に向かう。寒い風に季節が巡っているのを感じながら上を見ると今日は満月だと気付かされる。
電車に乗り、自宅の最寄り駅に着く。駅から出ようとしたところで、ポケットに入れていたスマホがバイブする。長いバイブが電話であることを知らせる。その相手は煌であり、食事会でテンションが上がったからか、ちょうどいいと電話に出る。
「もしもし。」
「もしもし。伊月さん、話があるよね?」
彼の開口一番の言葉に私は首を傾げる。まるで、こちらの決心を見透かした物言いであり、そんなのは相手の機嫌を損なうだけだ。私は日常的に彼と関わらないので気にしないが、彼の友人が少ないのはこのコミュニケーション能力のせいなのではと心配になる。
「なんか失礼なことを考えてない?」
「いえいえ、全く。」
エスパーかなと思い、私は全力で否定する。
「私は煌君に話があるけど、今いい?」
「この状態でいいわけないよね。もう迎えに来たから乗って。」
「迎えって。」
私は意味がわからずに聞こうとしたが、その必要はなく、駅を出たところに見覚えのある車が停まっている。煌は運転席から出て来るとこちらに向かってきて私の手を取り助手席に押し込む。笑みを浮かべながらそんな行動をされれば、誰でもそんな相手に恐怖する。
「煌君、何かあったの?」
「今、運転してるから話しかけないでね。」
彼にそう言われて私は黙る。本当に冷静をギリギリのところで保っているようで、こんな彼は見たことがない。いつも余裕の笑みを浮かべて振舞っている姿はそこにはない。
車が走る時間がいつもより長く感じたが、やっと着いたのはいつものホテルではなく一軒家だ。古い洋館のようで夜でもわかるほどに大きな家だ。それも、車から降りてみると見えなかった山が家の背後に聳え立ち、都会では聞こえない虫の鳴き声が聞こえる。ここはどこ?と首をかしげながらも冷たい空気を出している煌について家に入る。
「おかえりなさいませ、煌様。」
出迎えたのは執事だ。今まで見たことがないが、立ち居振る舞いは湊君の友人で金持ち設定キャラの家のシーンで見ていたので妙な確信を持っている。私が驚いていたが、手を引かれて初めて見る彼を横目に通り過ぎる。もっと見たかったがそんなことを言える雰囲気でもなく、煌に案内されたのはソファのあるリビングと思われる部屋に案内される。ソファ一つ、テーブル一つの部屋なので自然と彼と隣合わせに座る。
「紅茶を用意したら下がっていいよ。遅くまでごめんね。」
「いいえ、とんでもございません。では、私はこれで下がらせていただきます。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください。」
紅茶セットをテーブルに置いた執事は部屋から出て行く。その背中から気品の良さが溢れている。
「どうしたの?伊月さん。」
「いいえ、なんでも。」
紅茶を勧められて飲むと、たまに飲んでいるティーパックでの紅茶とは全く違う味だ。後味で苦みが強く残ることはなく、むしろスッキリとしていてどれだけでも飲んでしまう。
「気に入ったならよかった。」
ティーカップにがっつく私を彼は笑って言う。彼しかいないのでどんなことを言われても私は恥ずかしくない。
「それで、話があるんだろう?」
ティーカップを置いて長い足を組んだ彼は私の顔を見て言う。私もまたティーカップを置いてから彼の視線に受けて立つ。
「まずは言わせて。ごめん。」
私は頭を下げて言う。それは予想外なのか、彼が息をのむ。
「その謝罪は何?」
「契約を破ることへの謝罪です。」
「へえ、”契約を破る”ね。」
彼は私の言葉をわざとらしく強調して言う。それに怯むことなく私は続ける。
「理由は私が海外転勤になったから。」
「海外転勤ね。それで?海外ならどこへだって行けるよ。」
「私は仕事で海外に行くの。慣れない海外生活に加えて仕事もあるの。そんな中、今みたいに一緒に過ごす時間なんてないわ。」
「そうかな。俺と一緒にいたくないだけじゃないの?」
煌に嫌な部分をつかれて私は一瞬口を閉じるが、それを否定する意思を示すために頭を左右に振る。
「そんなわけないでしょ。私はただ海外転勤になったからあなたと遊べないと思っただけ。」
「そう。それで、どうしたいの?」
「ごめん。最後まで契約を全うできなくて。」
「そう。」
頭を下げる私を見ながら彼はお茶を飲む。しばらく沈黙の後に、彼は口を開く。
「契約を無くしても俺と会わないとはならないよ。」
「いいえ、私はもうあなたと会わない。」
「どうして?」
私が確固たる意志を伝えると彼は全く動じることなく尋ねる。それに私は拳を握り込む。
「もう会うことはやめよう。あなたが何を言ってももう私には止められない。でも、これまで見ていて、煌君は私が困ることを言わないと思ったからそれを信じわ。それと、私はあなたに会って欠けた記憶を思い出したし、色々と分かったことがあった。あなたに会えてよかったけれど、それで十分。本当にありがとうって勝手に思っているの。」
「そんなこと。」
「君がどう思っているのかってことではなくて、私が思っていること。本当にありがとう、そして、さようなら。」
私は彼が何か言う前に慌てて部屋から出る。
慌てて出て玄関で執事に送りだされる。彼はのそっと出てきたので驚きながらも「さようなら」と伝えたら、彼は笑みを浮かべていた。彼のその笑みはどこか困ったような笑みを浮かべる。
私はこの日相手からの承諾なしだけど、とりあえず私はこの日煌との関係を終わらせた。
プロジェクトが完了する2ヶ月後に海外に行くスケジュールが組まれ、その間に向こうの会社の人と話し合う必要があり、メールでのやり取りになる。それには問題なく対応できており、向こうの印象も良いと上司に言われた。書くのと話すのは違うので不安だけど、いざとなれば筆談すればいいかと私も気が楽になった。
そうして、プロジェクトを終えて海外に行く前にメンバーに報告すると食事会を開いてくれることになり、もちろん私は参加必須だ。
「都築さん、海外でも頑張って下さい。」
「海外なんて羨ましいです。」
「私も行きたい。」
なんて、後輩が言うが、私はそれに苦笑いをする。先輩に当たる人達は何も言わずにただの世間話をして、私はそれに癒やされる。
食事会はつつがなく終わり、みんなと別れて最寄り駅に向かう。寒い風に季節が巡っているのを感じながら上を見ると今日は満月だと気付かされる。
電車に乗り、自宅の最寄り駅に着く。駅から出ようとしたところで、ポケットに入れていたスマホがバイブする。長いバイブが電話であることを知らせる。その相手は煌であり、食事会でテンションが上がったからか、ちょうどいいと電話に出る。
「もしもし。」
「もしもし。伊月さん、話があるよね?」
彼の開口一番の言葉に私は首を傾げる。まるで、こちらの決心を見透かした物言いであり、そんなのは相手の機嫌を損なうだけだ。私は日常的に彼と関わらないので気にしないが、彼の友人が少ないのはこのコミュニケーション能力のせいなのではと心配になる。
「なんか失礼なことを考えてない?」
「いえいえ、全く。」
エスパーかなと思い、私は全力で否定する。
「私は煌君に話があるけど、今いい?」
「この状態でいいわけないよね。もう迎えに来たから乗って。」
「迎えって。」
私は意味がわからずに聞こうとしたが、その必要はなく、駅を出たところに見覚えのある車が停まっている。煌は運転席から出て来るとこちらに向かってきて私の手を取り助手席に押し込む。笑みを浮かべながらそんな行動をされれば、誰でもそんな相手に恐怖する。
「煌君、何かあったの?」
「今、運転してるから話しかけないでね。」
彼にそう言われて私は黙る。本当に冷静をギリギリのところで保っているようで、こんな彼は見たことがない。いつも余裕の笑みを浮かべて振舞っている姿はそこにはない。
車が走る時間がいつもより長く感じたが、やっと着いたのはいつものホテルではなく一軒家だ。古い洋館のようで夜でもわかるほどに大きな家だ。それも、車から降りてみると見えなかった山が家の背後に聳え立ち、都会では聞こえない虫の鳴き声が聞こえる。ここはどこ?と首をかしげながらも冷たい空気を出している煌について家に入る。
「おかえりなさいませ、煌様。」
出迎えたのは執事だ。今まで見たことがないが、立ち居振る舞いは湊君の友人で金持ち設定キャラの家のシーンで見ていたので妙な確信を持っている。私が驚いていたが、手を引かれて初めて見る彼を横目に通り過ぎる。もっと見たかったがそんなことを言える雰囲気でもなく、煌に案内されたのはソファのあるリビングと思われる部屋に案内される。ソファ一つ、テーブル一つの部屋なので自然と彼と隣合わせに座る。
「紅茶を用意したら下がっていいよ。遅くまでごめんね。」
「いいえ、とんでもございません。では、私はこれで下がらせていただきます。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください。」
紅茶セットをテーブルに置いた執事は部屋から出て行く。その背中から気品の良さが溢れている。
「どうしたの?伊月さん。」
「いいえ、なんでも。」
紅茶を勧められて飲むと、たまに飲んでいるティーパックでの紅茶とは全く違う味だ。後味で苦みが強く残ることはなく、むしろスッキリとしていてどれだけでも飲んでしまう。
「気に入ったならよかった。」
ティーカップにがっつく私を彼は笑って言う。彼しかいないのでどんなことを言われても私は恥ずかしくない。
「それで、話があるんだろう?」
ティーカップを置いて長い足を組んだ彼は私の顔を見て言う。私もまたティーカップを置いてから彼の視線に受けて立つ。
「まずは言わせて。ごめん。」
私は頭を下げて言う。それは予想外なのか、彼が息をのむ。
「その謝罪は何?」
「契約を破ることへの謝罪です。」
「へえ、”契約を破る”ね。」
彼は私の言葉をわざとらしく強調して言う。それに怯むことなく私は続ける。
「理由は私が海外転勤になったから。」
「海外転勤ね。それで?海外ならどこへだって行けるよ。」
「私は仕事で海外に行くの。慣れない海外生活に加えて仕事もあるの。そんな中、今みたいに一緒に過ごす時間なんてないわ。」
「そうかな。俺と一緒にいたくないだけじゃないの?」
煌に嫌な部分をつかれて私は一瞬口を閉じるが、それを否定する意思を示すために頭を左右に振る。
「そんなわけないでしょ。私はただ海外転勤になったからあなたと遊べないと思っただけ。」
「そう。それで、どうしたいの?」
「ごめん。最後まで契約を全うできなくて。」
「そう。」
頭を下げる私を見ながら彼はお茶を飲む。しばらく沈黙の後に、彼は口を開く。
「契約を無くしても俺と会わないとはならないよ。」
「いいえ、私はもうあなたと会わない。」
「どうして?」
私が確固たる意志を伝えると彼は全く動じることなく尋ねる。それに私は拳を握り込む。
「もう会うことはやめよう。あなたが何を言ってももう私には止められない。でも、これまで見ていて、煌君は私が困ることを言わないと思ったからそれを信じわ。それと、私はあなたに会って欠けた記憶を思い出したし、色々と分かったことがあった。あなたに会えてよかったけれど、それで十分。本当にありがとうって勝手に思っているの。」
「そんなこと。」
「君がどう思っているのかってことではなくて、私が思っていること。本当にありがとう、そして、さようなら。」
私は彼が何か言う前に慌てて部屋から出る。
慌てて出て玄関で執事に送りだされる。彼はのそっと出てきたので驚きながらも「さようなら」と伝えたら、彼は笑みを浮かべていた。彼のその笑みはどこか困ったような笑みを浮かべる。
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