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4章 中等部後期~高等部~

4-34 任せっきりはあまり意味がないのかも

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「‥‥‥っと、ようやく治った」

 明け方頃、そう僕はつぶやき、証拠を残さないように薬瓶をすべて溶解処分する。

 ハクロをくすぐって何とか緩くしてもらおうとしたが、思いっきりふっ飛ばされて天井に叩きつけられたからなぁ‥‥‥もしも全力でやられていたら、今頃潰れたトマトが天井から滴り落ちている光景があったに違いない。

 そう思いつつも、ハクロが自分の手で僕をふっ飛ばした事実を理解してしまえば、ソレはソレで罪悪感を抱かせかねないので、なんとか先に起床し治療を行っていたのである。

 いやまぁ、自業自得なので気に病むことは無いかもしれないけれども、やっぱり何事もなかった一夜だったと思ってもらう方がいいからね。彼女にくすぐりは厳禁だという事は学ばせられたが。



 とにもかくにも、適切な治療を施して傷一つない状態になったのはいいけれども、睡眠の質が悪かったせいでやや眠いなぁ…‥‥すやすやと寝息を立てているハクロが羨ましい。

【キュル‥‥‥アルス、アルス‥‥‥】

 っと、寝言をつぶやきながらもぞもぞと探すように手を動かすハクロ。

 何かこう求めるような動きだけど、僕を捜しているのだろうか?

【駄目、そっち、チキンだらけ。あっちは、マンボーだらけ‥‥‥踊り狂ったコカトリスチキン、駄目‥‥‥スピィ‥‥】
「いや、本当にどんな夢見ているの?」

 踊り狂ったコカトリスチキンとは何ぞや。確かにコカトリスが異常に怯えた性格へと変貌したコカトリスチキンというモンスターはいるのだが…‥‥なにをどうしたらそんなのが夢に出るのか。

 色々と不思議な夢にツッコミどころを感じ取りつつも、如何せん寝不足ゆえに二度寝をしようかと思っていた…‥‥その時だった。


ズゥゥン!!
「‥‥‥ん?」

 何かこう、一瞬地面が揺れたかのような、大きな衝撃があった。

 ぐらりとログハウス全体が揺れたような気がするが、地震でも起きたのだろうか?

 いや、違う。何やら遠くの方から音が聞こえてくるというか‥‥‥


ドッガァァン!!ドッゴォォォン!!バッガァァァン!!
「何か破壊しながら突き進んでいるのか?」

 まるで暴れ牛が次々に破壊して回るかのような騒音。

 この世界には暴走族とかはいないはずだし、こんな騒音を立てるような者なんぞ、学園内にはいないはず。

 いや、実は数年前に真夜中にとある新入生が騒音を立てまくって、静かに処された事件というのもあったりするがそれは置いておくとして、だんだん近づいてきているかのようである。

「外を見てみるか‥‥‥」
 
 引き籠っている状態とは言え、何も外の景色が見れないわけじゃない。

 視線を感じないようにカーテンなどを付けているが、それでも窓は備え付けており、双眼鏡も作って用意しているので確認ぐらいはできるはず。

 そう思い、カーテンをそっとどけて双眼鏡から音の鳴る咆哮を目にして何が起きているのかを確認した。

「‥‥‥何だ、あれ?」

 そこに移っていたのは、巨大な塊。

 何かこう、大きな存在が次々に帝都の建物を巻き込んで、大きくなっているような…‥

「って、ここもろに進路上じゃん!!」

 どんどん大きくなってきている様子も驚きだが、僕らがいる場所へ向かってきているのを理解した。

 何がどうなっているのかは不明だが、このままだとこのログハウスごと正体不明の塊に潰されるのが目に見えている。頑丈に作っているとはいえ、流石にあれは許容範囲外。

「ハクロ起きて起きて!!急いで逃げるよ!!」
【キュルゥ‥‥‥んゆぅ‥どうしたの、アルス?】

 ふわぁぁっと眠そうに眼をこするハクロに対して、説明をする時間がないので直ぐに窓を開け、彼女に何とかその光景を見てもらい、無理やり理解してもらう。

 そして数秒後、その塊を見て…‥‥眠気が吹っ飛んだようであった。

【何アレ!?】
「わかんないけど、とりあえずここにいたら潰されるぞ!!さっさと逃げないと!!」
【分かった!!】

 緊急時ゆえに引き籠る意味もなく、ドアを開ける前にふっ飛ばし外に僕らは飛びだした。

【翅、全開!!直ぐに飛ぶ!!】

 ぶわっと魔力で出来た翅を広げて、僕を素早く背中に乗せて離陸するハクロ。

 ゴロゴロと転がってくる音を後にしつつ、全力で上昇し、その数十秒後には僕らが先ほどまでいたログハウスが塊に押しつぶされた。

ぐしゃぁぁぁ!!

「うわぁ…‥‥間一髪だった。というか、なんだあの塊?」
【キュルル、なんか建物めり込んでいるけど…‥‥気持ち悪い肉塊みたい】

 上昇し、距離をとって落ち着いたところで、改めて状況を確認した。

 どうやら帝都内の多くの建物が巻き添えになったらしく、塊にめり込んで表面を覆っている。

 一応、人の気配はないようで、よく見れば避難をしている人々が確認でき、到達前に情報が辿り着いたのだろう。

 それを考えると、僕らの方にも避難指示が出そうなものだが…‥‥こちらに関してはまぁ良いとして、今は目の前の肉塊に関してである。

 ドクンドクンっと、めり込んだ建物以外の場所から見える部分で、脈動を周囲へ響かせる肉塊。

 肥大化した肉の塊というか、ちょっと某風の谷の映画で出てきた奴を更に大きくさせたかのような不気味さを感じさせつつ、まだまだ転がって‥‥‥

「いや、この転がり方何か変だな?」

 何者かは知らないが、この肉塊の転がりはただ転がっているようではない。

 一直線に突き進んでいるのかと持ったが、そのコースはやや揺れ動いており、真っ直ぐに進んでいない。

 というか、僕らの方に向かって転がってきているような…‥‥そう考えた、その瞬間だった。

ぼごぅ!!びゅるるるるばっ!!
「【!?】」

 周囲を旋回しつつ様子を観察している中で、突然肉塊の上部が盛り上がり、何かが伸びて来た。

 触手というには太すぎるが、肉の繊維らしきものがさらに細かな血管を浮き上がらせ、僕らの方に伸びて来た。

「というか、どう考えても狙ってきている!?ハクロ、全力で逃げて!!」
【分かっている!!】

 ぐぃんっと一気に加速し、その場を離れ始めるハクロ。

 だがしかし、その後を追うかのように肉塊からの触手が次々に飛び出して後を追い始める。

 さらにその肉塊そのものも僕らの方に向かって勢いよく転がってくる。


ゴロゴロゴロゴロびゅるるばばばば!!
「遠心力で広がって、さらに勢い増すのかよ!!」
【何アレ、気持ち悪すぎる!!】

 僕らに向かって全力で捕らえるためなのか蠢き、しつこく追いかけてくる肉塊。

 どう見ても狙ってきており、このままではらちが明かない。

「ええっと、ええっと、とりあえずこれでも喰らえ!!」

 残念ながら慌てて飛び出してきたせいで、護身用に用意していた薬などは置いてきてしまったが、瞬時に作成できるので問題ない。

 ひとまずは強烈な爆発する薬を投げつける。

ボッガァン!!ドッガガガン!!
びゅるるるるばぁぁ!!

「全然効果なーい!?」
【何でー!?】

 多少怯みはすれども、そんな爆発なんぞ恐れる事もないというかのように、触手が次々伸ばされてくる。

 どう考えても捕まったら絵面的にもよろしくないだろうし、ロクデモナイ未来しか見えない。

「毛玉薬、爆裂薬、溶解薬!!眠り薬、痺れ薬、笑い薬、落ち武者ヘア薬!!」

 次から次に投擲して試すも、どれもこれも足止めにすらならない。

 いや、そもそもあんな肉塊に毛が生えるのかという想いもあったが、毛玉薬の箇所にヘア薬で見事に再現されたので、毛に関しては発育できるのか。

「でも役に立たない!!」
【キュルルル、どうすればいいのこれ!!】

 ハクロの飛ぶ速度もかなり速いはずなのに、追いつかれそうな状態。

 徐々に距離を詰められており、もうちょっとで触手が届きかねない。

「あれでもないこれでもない!!何か無いか何か無いか!!」

 ポンポンっと次々に思いつく限りの薬を精製し、投げつけるもどうしようもない。

 あんな追いかけてくる肉塊に、どうやって…‥‥

「あ、そうだ!!追いかけてくるならこの勢いを利用できないか!?」
【どうやって!?】
「ええっと、これだ『採掘薬』!!」


 相手がすごい勢いでやってくるのであれば、一旦立ち止まって貫いてしまえば良い。

 相手の中身を突き進むことになるが、急ブレーキをかけられないだろうし、貫いた後に素通りしてそのまま向こうまで行くか、気が付いて何とか方向転換するなどが考えられるが、それでも隙ができるはずである。

 とは言え、そんな作戦を行うという事は、どうしても相手の体内を通過する覚悟をしなければいけないが‥‥‥あんな肉塊の中を通ることはぞっとする。

「でも、捕まったら更にヤヴァイだろうし、ここは一瞬だけ我慢しよう!!」
【その作戦、のる!!やるしかなさそう、キュル!!】

 一か八かの作戦だが、採掘薬を使用する。

 とはいえこれは塗り薬タイプで、使用するとドリルのように回転する渦が表面に発生し、掘り進むことが出来る薬なのだ。

…‥‥作った意味?鉱山などがないか、発掘する方法の一つとして考えて試作したんだよね。結果としては普通につるはしで地道にやったほうが粉砕する危険性がないってことになったけど、この状況だとこれが使える。

【キュルルルルル!!突っ込む!!】

 塗り薬を塗りたくり、僕らの周囲に渦が浮き上がる。

 そして素早くハクロが方向転換して、突き進む。

 相手の触手も向かってくるが、この採掘薬の渦の前には切り裂かれるしかなかったようで、捕らえることはできない。

 そしてだんだんとその肉塊そのものがすごい側で迫り、僕らに触れる前に渦へ振れて瞬時に抉れていく。

「このまま進んで、中身を突破!!」
【キュルルルル!!】

 抉りながら突き進み、勢いを利用して通過しようとしていた…‥‥その時、急に気色が切り替わる。


ズボバァァァアン!!
「っと、外‥‥‥じゃなくて、肉塊の中身?思ったよりもスカスカなのか?」
【キュルル?】

 壁を突き破ったかと思えば、何か不気味な色合いをした肉壁がある空間に出た。

 どうやら肉塊の中にあった空間に突っ込んだようだが、このまま素通りをさせてくれるのかと思いきや、そうではなかった。


ごばばばばばばあ!!
「いっ!?上!?」
【キュルゥ!?】

 壁に到達しないと思った次の瞬間、上から妙な音がしたので見れば、触手が壁をぶち破って飛び出してきていた。

 どうやら中身の方にも同様のものを用意出来たようで、真上から落ちてくる形で迫ってくる。

 採掘薬があるので、直ぐに捕らえられはしなかったが…‥‥それでも流石に限界が来たようで、僕らは一気に触手の滝に押し潰される。

「うわあああああああああ!?」
【きゃあぁぁぁぁぁ!?】

 互いに悲鳴を上げつつ、離れないようにしっかり手を取りあって、そのまま流されていくのであった‥‥‥‥
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