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4章 中等部後期~高等部~
4-35 本当は後に取っておきたかったのだけれども
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【‥‥‥キュル‥うっ、いたたた‥‥‥】
ずずずずっと音を立てつつ、気持ち悪い感触の地面から体を起こすハクロ。
今一つ足場が安定しないためにふらつくが、それでも何とか立った。
周囲は薄暗いが、それでも見渡せないほどではない。
あちこちの壁が脈動をうっており、不気味な怪物の腹の中だという事をすぐに思い出させられる。
【アルス、大丈夫‥?】
手の感触から、まだ大事なアルスを離していないことを彼女は感じていた。
だからこそ、確認のために手を持ったが‥‥‥妙に軽すぎる。
【…‥‥まさか】
ごしごしと目をこすり、手に持ったものを見るハクロ。
見ればそこには、確かにアルスの手はあったのだが…‥‥「右手だけ」である。
ひじから先がなくて、それでもしっかりと、ハクロの手だけを握っていた状態で…‥‥
―――ガボツ、ゴボボッ…‥‥
【…‥‥グゲゲガ‥自分ノ身体トハイエ、自由ハソコマデキカヌカ】
【ダマサレテナリハテタガ‥‥‥マァ、イイダロウ。ソコソコウゴカセルカラナ】
‥‥‥何だろうか、この浮遊感。
何かこう、纏わりつくような気持ち悪い液体の中に沈む感覚を感じ取りつつ、体が動かないながらも声が聞こえてくる。
【シカシ、カノジョヲテニイレソコナッタノハ痛イ…‥‥ドコニ流レタ?】
【ソンナノワカラン。把握デキナイ】
彼女?‥‥‥ああ、ハクロの事だろう。
必死になって手を握って離れ離れにならないようにしてたけれども‥‥‥‥駄目だったかもしれない。
なぜなら握っていたはずの右手の感触が、いや、腕そのものの感覚がないのだから。
押し流してきた触手の勢いが凄まじく、何度も直撃し‥‥‥どこかで僕の腕は千切れてしまったかもしれない。痛みはないが、失血しているせいか意識があやふやになりそうだ‥‥‥
【手ニ入レルチャンスダッタガ‥‥‥‥】
【仕方ガアルマイ。ダガ、逃ス事ハナイ。我々ノ肉体、求メテ動クカラナ】
苦々しそうに口にしている様子だが、諦めた様子は無いようだ。
というか、この会話内容はどこから‥‥‥ああ、この肉塊そのものが喋っているのか。
どこに口があるのかという疑問もあるが、多分スライムの鳴きかたと同じ理屈なのだろう。
様子を察すると、ハクロを捕らえようとして出来ていないようだが…‥‥この様子だと時間の問題かもしれない。
捕えてそうする気なのかはわからないが、どう考えてもロクデモナイ事を考えているのは分かる。
ハクロに対して邪な、いや、もはや言い表せないほどの害悪過ぎる思いを感じ取れるからだ。
ゴボッツ…‥‥
「‥‥‥そんな奴に、ハクロを渡さない‥‥‥」
体の自由がいまいちきかずとも、それでも口から言葉が出る。
ハクロに対して、彼女を悲しませるような、害するような真似はさせてたまるか。
そう思いつつも、左手の拳を握っても、力が出ない。
…‥‥それが何だ、出ないなら出して見せよう火事場の馬鹿力。
怪物の体内の得体のしれない体液に沈んでいる状況だけど、それでも何もせずにただ手をこまねいていることはしない!!
ざばぁっ!!
「…‥‥思ったよりも、浅かったのか」
ぐぐっと力を振り絞り、体を起き上らせてみたら案外あっさりと液体から這い上がる事が出来た。
浅瀬のような場所にいたようで、溺れ切っていたわけじゃない。
【‥‥ン?何カガ動イタゾ】
【彼女デハナイ‥‥‥ホウ、彼女ト共ニイル少年カ】
どうやら僕が起き上った様子に、周囲の肉塊は気が付いたようでそう口にする。
【片腕ヲ失ッテイルガ…‥‥丁度イイ。コイツノ死体デツッテミルカ】
【ソレハ良イ案ダ。大事ニシテイルソウダカラ、コロガッテイタラスグニカカルダロウ】
どうやら僕自身をこの場で亡き者にして、何処かにいるハクロを釣る気らしいが…‥‥そんな考えを思いつく輩には反吐が出る。
【サテ小僧、オマエ、エサニナレ】
【イキテイル必要ナイ。死体活用ダ】
シュルシュルと周囲の肉壁から触手が伸び始め、その形状は鋭い。
このまま勢いよく伸ばして、串刺しにしまくる気なのだろうが…‥‥そうは簡単にいかせない。
「片腕だけでも、薬は精製できる!!」
何も両腕がそろっていなければ薬が作れないわけじゃない。
片腕だと空けにくいが、そんなもの口で空ければいい話し。いや、何も飲み薬でなくとも、蓋を開ける必要がないもので十分である。
ポンッと素早く薬を生み出し、上に放り投げて片腕を振り上げて叩き割る。
触手が迫るよりも先に薬が僕の体に降りかかり…‥‥すぐにその効果を発揮する。
【ナ、ナンダト!?】
【イキナリ大キクナッタダト!?】
「本当はこの手段、使う気はなかったけど…‥‥‥あの小さな体のままだと動きが不利すぎるからね!!もうちょっと時間がかかる大人の姿かもしれないけれど、今だけは使わせてもらおう!!」
滅茶苦茶成長痛がして余計に体中が痛くなったが、今はそんな副作用を気にしている暇はない。
迫りくる触手をかわしつつ、ハクロの治癒能力の影響か成長が遅かった身体を一気に青年の姿にまで成長させ、長くなった足で素早く交わす。
「強化薬、硬化薬、義手薬…‥‥ドーピングと言えるけど、こんな状況でなりふり構えるか!!全力で抗わせてもらうぞ!!」
ぶわっと周囲に薬瓶を精製し、失った腕の代わりになる薬液の腕を生やし、硬質化させて武器へと転じさせる。
…‥‥これが、今の僕が出来る最大の抵抗手段。
疑似的に青年の姿へと転じて、成長した身体で徹底抗戦を試みる。
とはいえ、これは長くは持たない。薬でごまかせるとはいえ、精神・体力的にも結構きついし、効き目は永遠ではなく制限時間があるし、その隙を狙ってこられたら結構あっけなくやられる未来しか見えないからな!!
チートな薬を精製できるとは言っても限度はあるし、四方八方すべてが敵な状況は四面楚歌と言って良いだろう。
けれども、そんな事で心をくじけるわけにはいかない。
絶対に生き延びつつ、ハクロと再び合流して、彼女と一緒に過ごすのだから。
大事な家族であり、愛している人を‥‥‥‥互いに告白し合って、生涯を共に誓いあう相手を残して、ここで逝ってたまるか!!
【エエイ、ソンナモノ、タダノマヤカシダ!!】
【限界ハキテイルハズダ!!ココデ徹底的ニ嬲リ、コノ騒ギデ引キ寄セル罠ニ変更ダ!!】
あ、そういう考え方もあったか。騒ぎを大きくしてしまえば、どこにいるのかが分かりやすいだろうし、そこへ向かって彼女が来る可能性もある。
そう考えると、相手の思い通りになっている気もしなくはないが…‥‥今はもう、考える暇もなさそうだ。
「とりあえず、彼女がここに来るかはわからないけれど、嬲れるものなら嬲って来やがれ!挨拶代わりのハリセンボンヘッド薬でも喰らえぇぇぇ!!」
ハリセンボンのようなトゲトゲの硬い髪の毛が生える薬を投擲し、瓶が割れて周囲の触手に降りかかる。
するとかかった触手に見事に生えまくり、密集していた場所だったからこそ自分達の棘で触手同士をさしまくる。
ザスザスザス!!
【【ギャアアアアア!?】】
自分でも何でこんな薬を最初に使ったのかが分からないが、これはもうこの場のノリと勢いだけだ。
「さぁどうした?僕を嬲って死体にして餌にするんだろう?そんなこともできない、ただの肉塊ども!!恐れないのならばかかってこいやぁぁぁぁ!!」
【【オノレオノレオノレェェェェ!!】】
彼女が近づいてきても僕の方にしか目が向かないように、挑発をしておく。
先ほどの攻撃で見事にかかり、僕に向かって触手をあちこちから伸ばし始める肉塊ども。
そう簡単にやられないように、僕は必死に抵抗を始めるのであった…‥‥‥
ずずずずっと音を立てつつ、気持ち悪い感触の地面から体を起こすハクロ。
今一つ足場が安定しないためにふらつくが、それでも何とか立った。
周囲は薄暗いが、それでも見渡せないほどではない。
あちこちの壁が脈動をうっており、不気味な怪物の腹の中だという事をすぐに思い出させられる。
【アルス、大丈夫‥?】
手の感触から、まだ大事なアルスを離していないことを彼女は感じていた。
だからこそ、確認のために手を持ったが‥‥‥妙に軽すぎる。
【…‥‥まさか】
ごしごしと目をこすり、手に持ったものを見るハクロ。
見ればそこには、確かにアルスの手はあったのだが…‥‥「右手だけ」である。
ひじから先がなくて、それでもしっかりと、ハクロの手だけを握っていた状態で…‥‥
―――ガボツ、ゴボボッ…‥‥
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‥‥‥何だろうか、この浮遊感。
何かこう、纏わりつくような気持ち悪い液体の中に沈む感覚を感じ取りつつ、体が動かないながらも声が聞こえてくる。
【シカシ、カノジョヲテニイレソコナッタノハ痛イ…‥‥ドコニ流レタ?】
【ソンナノワカラン。把握デキナイ】
彼女?‥‥‥ああ、ハクロの事だろう。
必死になって手を握って離れ離れにならないようにしてたけれども‥‥‥‥駄目だったかもしれない。
なぜなら握っていたはずの右手の感触が、いや、腕そのものの感覚がないのだから。
押し流してきた触手の勢いが凄まじく、何度も直撃し‥‥‥どこかで僕の腕は千切れてしまったかもしれない。痛みはないが、失血しているせいか意識があやふやになりそうだ‥‥‥
【手ニ入レルチャンスダッタガ‥‥‥‥】
【仕方ガアルマイ。ダガ、逃ス事ハナイ。我々ノ肉体、求メテ動クカラナ】
苦々しそうに口にしている様子だが、諦めた様子は無いようだ。
というか、この会話内容はどこから‥‥‥ああ、この肉塊そのものが喋っているのか。
どこに口があるのかという疑問もあるが、多分スライムの鳴きかたと同じ理屈なのだろう。
様子を察すると、ハクロを捕らえようとして出来ていないようだが…‥‥この様子だと時間の問題かもしれない。
捕えてそうする気なのかはわからないが、どう考えてもロクデモナイ事を考えているのは分かる。
ハクロに対して邪な、いや、もはや言い表せないほどの害悪過ぎる思いを感じ取れるからだ。
ゴボッツ…‥‥
「‥‥‥そんな奴に、ハクロを渡さない‥‥‥」
体の自由がいまいちきかずとも、それでも口から言葉が出る。
ハクロに対して、彼女を悲しませるような、害するような真似はさせてたまるか。
そう思いつつも、左手の拳を握っても、力が出ない。
…‥‥それが何だ、出ないなら出して見せよう火事場の馬鹿力。
怪物の体内の得体のしれない体液に沈んでいる状況だけど、それでも何もせずにただ手をこまねいていることはしない!!
ざばぁっ!!
「…‥‥思ったよりも、浅かったのか」
ぐぐっと力を振り絞り、体を起き上らせてみたら案外あっさりと液体から這い上がる事が出来た。
浅瀬のような場所にいたようで、溺れ切っていたわけじゃない。
【‥‥ン?何カガ動イタゾ】
【彼女デハナイ‥‥‥ホウ、彼女ト共ニイル少年カ】
どうやら僕が起き上った様子に、周囲の肉塊は気が付いたようでそう口にする。
【片腕ヲ失ッテイルガ…‥‥丁度イイ。コイツノ死体デツッテミルカ】
【ソレハ良イ案ダ。大事ニシテイルソウダカラ、コロガッテイタラスグニカカルダロウ】
どうやら僕自身をこの場で亡き者にして、何処かにいるハクロを釣る気らしいが…‥‥そんな考えを思いつく輩には反吐が出る。
【サテ小僧、オマエ、エサニナレ】
【イキテイル必要ナイ。死体活用ダ】
シュルシュルと周囲の肉壁から触手が伸び始め、その形状は鋭い。
このまま勢いよく伸ばして、串刺しにしまくる気なのだろうが…‥‥そうは簡単にいかせない。
「片腕だけでも、薬は精製できる!!」
何も両腕がそろっていなければ薬が作れないわけじゃない。
片腕だと空けにくいが、そんなもの口で空ければいい話し。いや、何も飲み薬でなくとも、蓋を開ける必要がないもので十分である。
ポンッと素早く薬を生み出し、上に放り投げて片腕を振り上げて叩き割る。
触手が迫るよりも先に薬が僕の体に降りかかり…‥‥すぐにその効果を発揮する。
【ナ、ナンダト!?】
【イキナリ大キクナッタダト!?】
「本当はこの手段、使う気はなかったけど…‥‥‥あの小さな体のままだと動きが不利すぎるからね!!もうちょっと時間がかかる大人の姿かもしれないけれど、今だけは使わせてもらおう!!」
滅茶苦茶成長痛がして余計に体中が痛くなったが、今はそんな副作用を気にしている暇はない。
迫りくる触手をかわしつつ、ハクロの治癒能力の影響か成長が遅かった身体を一気に青年の姿にまで成長させ、長くなった足で素早く交わす。
「強化薬、硬化薬、義手薬…‥‥ドーピングと言えるけど、こんな状況でなりふり構えるか!!全力で抗わせてもらうぞ!!」
ぶわっと周囲に薬瓶を精製し、失った腕の代わりになる薬液の腕を生やし、硬質化させて武器へと転じさせる。
…‥‥これが、今の僕が出来る最大の抵抗手段。
疑似的に青年の姿へと転じて、成長した身体で徹底抗戦を試みる。
とはいえ、これは長くは持たない。薬でごまかせるとはいえ、精神・体力的にも結構きついし、効き目は永遠ではなく制限時間があるし、その隙を狙ってこられたら結構あっけなくやられる未来しか見えないからな!!
チートな薬を精製できるとは言っても限度はあるし、四方八方すべてが敵な状況は四面楚歌と言って良いだろう。
けれども、そんな事で心をくじけるわけにはいかない。
絶対に生き延びつつ、ハクロと再び合流して、彼女と一緒に過ごすのだから。
大事な家族であり、愛している人を‥‥‥‥互いに告白し合って、生涯を共に誓いあう相手を残して、ここで逝ってたまるか!!
【エエイ、ソンナモノ、タダノマヤカシダ!!】
【限界ハキテイルハズダ!!ココデ徹底的ニ嬲リ、コノ騒ギデ引キ寄セル罠ニ変更ダ!!】
あ、そういう考え方もあったか。騒ぎを大きくしてしまえば、どこにいるのかが分かりやすいだろうし、そこへ向かって彼女が来る可能性もある。
そう考えると、相手の思い通りになっている気もしなくはないが…‥‥今はもう、考える暇もなさそうだ。
「とりあえず、彼女がここに来るかはわからないけれど、嬲れるものなら嬲って来やがれ!挨拶代わりのハリセンボンヘッド薬でも喰らえぇぇぇ!!」
ハリセンボンのようなトゲトゲの硬い髪の毛が生える薬を投擲し、瓶が割れて周囲の触手に降りかかる。
するとかかった触手に見事に生えまくり、密集していた場所だったからこそ自分達の棘で触手同士をさしまくる。
ザスザスザス!!
【【ギャアアアアア!?】】
自分でも何でこんな薬を最初に使ったのかが分からないが、これはもうこの場のノリと勢いだけだ。
「さぁどうした?僕を嬲って死体にして餌にするんだろう?そんなこともできない、ただの肉塊ども!!恐れないのならばかかってこいやぁぁぁぁ!!」
【【オノレオノレオノレェェェェ!!】】
彼女が近づいてきても僕の方にしか目が向かないように、挑発をしておく。
先ほどの攻撃で見事にかかり、僕に向かって触手をあちこちから伸ばし始める肉塊ども。
そう簡単にやられないように、僕は必死に抵抗を始めるのであった…‥‥‥
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