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スキルについて話す
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◆ ◆ ◆
オーウェンさんに何をはなせばいいのか、俺にはよくわからなかった。
天才というやつがなんの話を求めているのかも分からなかった。
この世界において魔法は戦闘にも生活にも深く密接していることは勉強したけれどオーウェンさんの専攻が何だったかも俺は知らない。
しかも、最初にあった時に気が付いた。この人は俺と会うことを希望した訳じゃないという事に。
乗合馬車はお金がかかるため、ゆうに三倍時間をかけて王都のはずれから彼の屋敷まで歩いた。
この前の帰り道でとりあえずそれがあまりにも面倒で、けれどいつなくなってしまうか分からない仕事のため少しのお金を使う事も怖くてとぼとぼと家まで歩いた。
だからという訳ではないけれど今回の授業は交通にしようと思った。
庶民向けの馬車はヤバイ位に揺れる。
天才が何をもって天才なのか、今のところ俺にはよくわからない。
今日も案内されたのは庭園の中のガゼボだった。
ちらりと豪華なお屋敷を見る。
あの中には絶対に入れないぞという拒絶の様なものを少しだけ感じるけれど、身元の分からなさはこの世界一だろうと考えるのをやめた。
それに神殿で食べていた物より明らかに上等な菓子と紅茶が出される。
それだけでもいい仕事だと思う。
「何からおれ、いや、私の世界の説明をしたらいいのか分かりかねましたので、とりあえずこちらをお持ちしました」
図書館で借りた本をカバンから取り出しながら言う。
「敬語? とかそういうのいいよ別に」
オーウェンさんはそう言った。
「翻訳に齟齬が……いえ、付け焼刃な言葉遣いで申し訳ありません」
俺がそう言うと、今までつまらなさそうだった視線がこちらをきちんと向く。
「自分の言葉が自動で翻訳されているのに気が付いてるんだ」
「まあ、一応……」
なので、俺がオーウェンさんと呼んだ時のさんがどのようなニュアンスになるか分からず怖くて名前もおちおち呼べない。
「うん。それが分かっているならだからこそ変なへりくだりはいらない。変な訳され方をされた方が意図をつかみ損ねて面倒だよ」
オーウェンさんはそう言った。
「それでは、なるべく面倒な言葉遣いをしないよう気をつけます」
「うん、それでいい」
オーウェンさんは満足げに笑った。
「で、それは?」
「俺の元いた世界の輸送や移動の手段について書かれた本です」
「なに? サカキはそういうのの専門家?それとも好きでその本をもちあるいていたの?」
「いえ……」
全然違います。
どう説明したらいいか分からない。
けれど悪用されるような能力じゃないと思った。
収蔵されている本はほとんど日本語でここの世界の人には恐らく分からない。
「俺のスキルで故郷の本を取り出しています」
この位であれば言っていいだろうと思った。
「本を取り出せる!? それはすなわち知識を取り出せるという事だ!!すごいスキルじゃないか!!」
キラキラとした目でこちらを見てくるオーウェンさんに戸惑う。
「何故、王宮お抱えじゃなくてここへ?」
「さあ……、そもそもそんなにすごいスキルですか?
どんな本でも取り出せるって訳じゃないんですよ……」
スキル判定に参加した人たちは皆あからさまにがっかりとしていた。
一人で生きていくにしてもこのスキルの使い道もよくわからない。
「取り出せる本の種類は?」
「俺の故郷の図書館の解放部分に入っているもののみと思われます」
「へえ……」
オーウェンさんもすぐにがっかりとした顔になると思っていた。
けれど、そんなことはなく、面白そうにへえと彼は言った。
授かっただけのものなので自分の能力とは少し違うのかもしれないけれど、褒められたみたいで少し嬉しかった。
その日は取り出しておいた本を二人で読んだ。
というか、読み聞かせをするだけでするするとオーウェンさんは違う事なのに理解していっている様に見えた。
やっぱり元天才じゃなくて単なる天才なのではと思いながら彼を見た。
帰り際、次回どうするかという話になった。
「出来れば、自分で選びたいんだけどなあ。
特に語学分野は実際にみてから教科書を決めたい」
日本語の本はこの世界のオーウェン様には分からなかったらしい。翻訳がかかるのは俺と俺の発する言葉のみの様だった。
「目録とかって見れないの?」
オーウェンさんに聞かれる。
「目録というか、俺は実際に図書館に入って探しているというか……」
「それは俺も入れそう?」
聞かれても分からなかった。言葉に詰まった。
「スキルのことは持ち主が一番知っているものだよ。
自分に問いかけて? 他の人間が入れるものなのか」
そうだ。この区立第三図書館が図書館そのものだという事は誰かに教わった訳じゃない。
自分でそうだとわかっていたのだ。
俺は自分に向かって問いかけるように考えた。
「図書館は友人や家族と行くものです」
「……じゃあ今から俺とサカキは友達だな」
オーウェンさんはそう言うと、次回が楽しみだと明るい声で言った。
オーウェンさんに何をはなせばいいのか、俺にはよくわからなかった。
天才というやつがなんの話を求めているのかも分からなかった。
この世界において魔法は戦闘にも生活にも深く密接していることは勉強したけれどオーウェンさんの専攻が何だったかも俺は知らない。
しかも、最初にあった時に気が付いた。この人は俺と会うことを希望した訳じゃないという事に。
乗合馬車はお金がかかるため、ゆうに三倍時間をかけて王都のはずれから彼の屋敷まで歩いた。
この前の帰り道でとりあえずそれがあまりにも面倒で、けれどいつなくなってしまうか分からない仕事のため少しのお金を使う事も怖くてとぼとぼと家まで歩いた。
だからという訳ではないけれど今回の授業は交通にしようと思った。
庶民向けの馬車はヤバイ位に揺れる。
天才が何をもって天才なのか、今のところ俺にはよくわからない。
今日も案内されたのは庭園の中のガゼボだった。
ちらりと豪華なお屋敷を見る。
あの中には絶対に入れないぞという拒絶の様なものを少しだけ感じるけれど、身元の分からなさはこの世界一だろうと考えるのをやめた。
それに神殿で食べていた物より明らかに上等な菓子と紅茶が出される。
それだけでもいい仕事だと思う。
「何からおれ、いや、私の世界の説明をしたらいいのか分かりかねましたので、とりあえずこちらをお持ちしました」
図書館で借りた本をカバンから取り出しながら言う。
「敬語? とかそういうのいいよ別に」
オーウェンさんはそう言った。
「翻訳に齟齬が……いえ、付け焼刃な言葉遣いで申し訳ありません」
俺がそう言うと、今までつまらなさそうだった視線がこちらをきちんと向く。
「自分の言葉が自動で翻訳されているのに気が付いてるんだ」
「まあ、一応……」
なので、俺がオーウェンさんと呼んだ時のさんがどのようなニュアンスになるか分からず怖くて名前もおちおち呼べない。
「うん。それが分かっているならだからこそ変なへりくだりはいらない。変な訳され方をされた方が意図をつかみ損ねて面倒だよ」
オーウェンさんはそう言った。
「それでは、なるべく面倒な言葉遣いをしないよう気をつけます」
「うん、それでいい」
オーウェンさんは満足げに笑った。
「で、それは?」
「俺の元いた世界の輸送や移動の手段について書かれた本です」
「なに? サカキはそういうのの専門家?それとも好きでその本をもちあるいていたの?」
「いえ……」
全然違います。
どう説明したらいいか分からない。
けれど悪用されるような能力じゃないと思った。
収蔵されている本はほとんど日本語でここの世界の人には恐らく分からない。
「俺のスキルで故郷の本を取り出しています」
この位であれば言っていいだろうと思った。
「本を取り出せる!? それはすなわち知識を取り出せるという事だ!!すごいスキルじゃないか!!」
キラキラとした目でこちらを見てくるオーウェンさんに戸惑う。
「何故、王宮お抱えじゃなくてここへ?」
「さあ……、そもそもそんなにすごいスキルですか?
どんな本でも取り出せるって訳じゃないんですよ……」
スキル判定に参加した人たちは皆あからさまにがっかりとしていた。
一人で生きていくにしてもこのスキルの使い道もよくわからない。
「取り出せる本の種類は?」
「俺の故郷の図書館の解放部分に入っているもののみと思われます」
「へえ……」
オーウェンさんもすぐにがっかりとした顔になると思っていた。
けれど、そんなことはなく、面白そうにへえと彼は言った。
授かっただけのものなので自分の能力とは少し違うのかもしれないけれど、褒められたみたいで少し嬉しかった。
その日は取り出しておいた本を二人で読んだ。
というか、読み聞かせをするだけでするするとオーウェンさんは違う事なのに理解していっている様に見えた。
やっぱり元天才じゃなくて単なる天才なのではと思いながら彼を見た。
帰り際、次回どうするかという話になった。
「出来れば、自分で選びたいんだけどなあ。
特に語学分野は実際にみてから教科書を決めたい」
日本語の本はこの世界のオーウェン様には分からなかったらしい。翻訳がかかるのは俺と俺の発する言葉のみの様だった。
「目録とかって見れないの?」
オーウェンさんに聞かれる。
「目録というか、俺は実際に図書館に入って探しているというか……」
「それは俺も入れそう?」
聞かれても分からなかった。言葉に詰まった。
「スキルのことは持ち主が一番知っているものだよ。
自分に問いかけて? 他の人間が入れるものなのか」
そうだ。この区立第三図書館が図書館そのものだという事は誰かに教わった訳じゃない。
自分でそうだとわかっていたのだ。
俺は自分に向かって問いかけるように考えた。
「図書館は友人や家族と行くものです」
「……じゃあ今から俺とサカキは友達だな」
オーウェンさんはそう言うと、次回が楽しみだと明るい声で言った。
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