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獣王国ヴァイス編
予想外のターゲット
しおりを挟む「ちっ……! レンツ、レベッカ! 行くぞ!」
「おう!」
「了解ニャ!」
転移して早々、体が透けているモンスターと火の玉、骸骨に襲われる村人達の姿が目に入った。レイスが一体と、ウィルオウィスプ二体、そしてスケルトン一体だ。
前衛の三人が突っ込んで行く中、俺とオリバーとクラウディアもその後を追う。俺はいつも通り補助魔法を発動し、クラウディアも光魔法を発動した。
ただし、今回彼女が使う魔法は、少々変わり種だ。
「聖なる光よ、彼の者らの武具に宿り、邪を払いたまえ――ライト・アディション!」
前衛三人と、オリバーの武器が光り輝く。本来、彼らの物理武器は、レイスやウィルオウィスプといった、実体の無い奴らには通用しないのだが――
「おおぉぉっ!」
「はぁっ!」
「うニャアッ!」
ライト・アディション……光属性を付与する魔法によって強化された武器であれば、実体の無い闇属性のモンスターにも、物理攻撃が可能となる。
レンツとレベッカが一体ずつウィルオウィスプを斬り、アドルフがレイスを殴り飛ばした。
「最後の一体は私に任せなさい! ライト・ボール!」
さらに、クラウディアの杖から光の玉が発射される。直撃を受けたスケルトンは消滅した。……弱点属性で不意打ちしたせいか、アンデッド達を倒すのは簡単だった。
「…………出番が、無い……」
自慢の大盾を使う機会が無かったため、オリバーが少し落ち込んでいる。でもな、オリバー。
「本当なら、あんたやアドルフ達の出番が無い方がいいんだよ。……こんな襲撃で平和が脅かされることなんて、誰も望んでいない」
「む……」
「……レイモンド君」
先ほど襲われていた村人達の下へ向かいながら、俺はオリバーとクラウディアの顔を見ること無く、そう言った。
周りを見れば、倒壊している建物や火事が起きている家。鼻につくのは、誰かの血の臭いや焼け焦げた臭い。それから耳に届く、女子供の泣き声や誰かの悲鳴に怒声。……平和なんて、何処にも無い。
「この辺りは、アンデッドの生息地では無いそうだな」
「え、えぇ……そう聞いているわ」
「そして、獣王国では獣人が亡くなった場合。教会の神官が遺体を浄化した上で、火葬していると聞いたことがある。ルベル王国でもそうだった。この場合、アンデッドが自然発生することはあり得ない」
この国でも元ルベル王国でも、墓の下からアンデッドが「こんにちは」することが無い。遺体が既に浄化されて、焼かれて、灰になっているからな。墓石の下に埋まっているのはそれだ。
もちろんアドルフの母、グレースさんも例外では無い。そこは正直助かったなと思っている。
もしも彼女がアンデッドとして甦り、襲い掛かって来たらと思うと……いろんな意味でぞっとする。そんなことにならなくて良かった。
少し話が逸れたが、では何故、生息地でも無いのにアンデッドの群れが出現したのか。……俺には、その理由が一つしか考えられない。
「つまり――人為的にアンデッドの群れを生み出した、馬鹿がいるってことだろうが。失われた魔法……死霊魔法の使い手とかな」
前世で言う、ネクロマンサー。……そいつが近くにいる可能性が高い。
もしくは、何らかの形で、アンデッドを生み出す術を手に入れた者か? 何にせよ、ろくな相手ではないだろう。
「死霊魔法ですって! まさか、そんな――」
「あり得ないと、そう言い切ることができるか? クラウディア。……俺達は既に、失われた魔法の使い手を一人知っているだろう?」
「……ヒジリ、か」
「その通りだ、オリバー。失われた幻惑魔法の使い手が存在したのだから、同じように、死霊魔法の使い手が存在していてもおかしくない」
立ち止まり、後ろにいるクラウディアとオリバーの方へ振り向く。二人は険しい表情をしていた。事の重大さを分かってくれたようだ。
その時。前方で小さな悲鳴が聞こえた。そちらを見ると、アドルフ達がアンデッドに襲われていた村人達と接触していたのだが……様子がおかしい。
「ひいっ……!」
「アンデッドの後は人狼なんて、冗談じゃない!」
「行きましょう、早く!」
村人達はアドルフを見て口々にそう言うと、アンデッドがいない方へ逃げて行く。
アドルフの過去を知っている俺は大体の事情を把握したが、レンツ達は知らないようだ。今も逃げた村人達に対して怒っている。
「何なの、あの態度! アドルフさんは何もしてないのに!」
「むしろアドルフはあいつらを助けたんだぞ? 命の恩人に対して、お礼を言うどころか逃げるなんて!」
「……信じられん」
「全くね。命の恩人、それも同じオオカミ族が相手なのに、あの態度……酷過ぎるわ」
それらの声を聞いたアドルフは、苦笑いだ。村人達の態度に関して、本人はもう諦めている……いや、違った。それを通り越して、最早どうでもいいと思っているようだからな。極力、奴らとは関わりたくないようだし。
だがしかし。村人達に対するアドルフの考えを知っていても、我慢できるかどうかはまた別問題である。
「レンツ達に同感だな。あの態度には本っ当に腹が立つ!」
「だよな!」
「うむ!」
俺がレンツ達に同意すると、彼らは揃って何度も頷いた。アドルフが苦笑いを深くして、俺を見つめる。言いたいことを言って何が悪い?
俺はお前の希望通り、村人達のことはできる限り話題に出さないようにするつもりだが、未だに怒っていることに変わりは無いんだからな!
すると。やれやれと首を振ったアドルフが、全員に声を掛ける。
「おい、お前ら。怒るのはその辺にして、早く原因を探しに行くぞ。ついでに、村人も救出する」
「副団長! 俺達、村人救出に関してはモチベーションだだ下がりです!」
「もうあいつら放って置いて良いと思いますニャ!」
「「――駄目だ」」
レンツとレベッカの言葉を否定したら、アドルフと言葉が重なった。最近、何故かよく被るんだよなぁ、こいつと。……それはさて置き。
「奴らがどんなに気に食わない存在でも、相手は同胞。――アルベルトを含めた王族の方々が守ろうとしている、この国の民だ。俺は自分が化け物扱いされようとも、あの方々への恩を返すために、軍人として民を守る。……俺個人としては奴らが大嫌いだが、軍人としてはそうも言ってられねぇんだよ」
おお……凄いな、こいつ。過去に散々酷い目に合わされた相手に対して、そう言い切るとは。俺も似たような考えで否定したが、アドルフのような立派な考えでは無い。
「――俺はあんた達、獣人族に恩がある。獣人族に命を救われ、獣人族を生み出した神、デファンス様からは加護とギフトを授かり、さらにはこんな俺を同胞として迎え入れてくれた。獣人族と出会ったおかげで、俺の人生は変わった。……俺は俺の同胞を一人でも多く助けることで、その恩を返す。例え、その相手が気に入らない奴でもな」
要は借りを返したいだけ。ただの我が儘だ。
「だが、お前らが嫌なら無理しなくていいぜ。その代わりに、原因を探る方はしっかりやれよ。俺とレイは村人を助けながら、そっちも探してみる。……行くぞ、レイ」
「あぁ」
走り出したアドルフの後を追う。後ろは見ない。彼らならきっと、すぐに来ると信じている。
護衛任務中の彼らの様子を見て、アドルフやヴェーラ達……第一旅団の幹部達のように、信じても良い相手だと思ったから。
すると。少し間を置いて、後ろから駆け寄って来る音が聞こえた。ほらな。やっぱり来てくれた!
「ごめん、僕達が間違ってた!」
「俺達も一緒に行く! 村人もちゃんと助けるから!」
「軍人であることを忘れるところだったわ……二人共ごめんなさい! ありがとう!」
「……アドルフ、レイモンド……すまない!」
「分かればいいんだよ! さっさと終わらせるぞ!」
「あんた達を信じて良かった! 行こう!」
その後は六人で行動し、村人を襲うアンデッドを倒しながら、周辺を探索する。
人間である俺と、忌避されているアドルフ以外の四人が、村人に対して聞き込みを行い、アンデッドが出現した原因を探ろうとした。
しかし、その全てがアドルフを見て逃げて行くか、俺を見て罵倒するため、なかなか上手くいかなかった。
八方塞がりの状態のまま、再び発見したアンデッドと戦う。奴らは数が多いが、そこまで強くない。そのおかげで、連戦しても問題無かった。
しかしその時。物陰から一体のウィルオウィスプが現れ、俺の目の前まで飛んで来た! 怪しく光る目が見え――
「えっ……?」
その言葉が聞こえた刹那、大盾を振るったオリバーによって、消滅させられた。
「レイ!」
「レイモンド……!」
「大丈夫? 何もされてない?」
オリバーがウィルオウィスプを倒すと同時に、アドルフ達の戦闘も終わっていた。皆が駆け寄って来るが、それどころではない。先程の言葉について考えなくては。
「レイモンド? どうした?」
「……あのウィルオウィスプ、俺を見てこう言ったんだ。――見つけた、って」
「何?」
「え、どういうことニャ?」
「レイモンド君を見つけた……? 待って、嫌な予感しかしないわ!」
奇遇だな、クレア。俺もそう思っている。
「……お前ら、お喋りしてる場合じゃねぇぞ! 敵の気配が近づいて来る! それも、今までの比じゃねぇ!」
「!」
「うわ、マジかよ……!」
クラウディアの嫌な予感は的中した。人間の俺には分からないが、大量のアンデッドが、俺達のいる場所を目指して集まって来ているらしい。これはもう、確定だな……
「――奴らの狙いは、レイモンドだ!」
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