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獣王国ヴァイス編
閑話:仲良し家族
しおりを挟む「……俺、仕立屋呼んだなんて何も聞いてなかったんだけど?」
「おぉ、すまん。言い忘れていた」
「親子揃って何やってんだか……」
「あら。どういうこと? アドルフ」
「聞いてくれよ、ステラ様。アルがな、今日あんた達との面会があることを、俺とレイに伝え忘れてたんだよ」
「まぁ、アルベルト。そんなどころまでイグナーツ様に似ていなくてもいいんじゃないかしら?」
「うっ……すみませんでした」
「アル兄様もお父様も忘れん坊だね! 王様なのに!」
「はっはっは。言われてしまったなぁ……」
「レオンやめて。無邪気な一言が心に刺さる!」
レイモンドが使用人と共に退出した後。王族一家とアドルフが、和やかに言葉を交わす。護衛を担当する近衛兵達は、笑いを堪えながらその様子を見守っていた。
「というかレイモンドのあの顔! 見たか、アドルフ!」
「あぁ、見た。今までに見た笑顔の中で、一番輝いていた気がする!」
「制服作ってもらうことが、そんなに嬉しかったのか……?」
あの軍服カッコいいし、元日本人として惹かれるものがあったのか? いや、でもあいつの中身はお爺ちゃんだし、それだけであんなに喜ぶか?
アルベルトがそんなことを思っていると、レオンがはっと顔を上げる
「第一旅団でお揃いなのが、嬉しかったのかもしれません!」
「えー? まさか!」
「そんな単純なことで、あんなに喜ばねぇだろ」
実はレオンの予想が当たっていたことを、この場にいる者達は知らない。
「……で、アドルフ君。あれはどういうことかなー?」
「あれって何だ?」
「お前があの重たい過去話を、自分からレイモンドに話したことだよ!」
アルベルトは先程からどうしても、そのことを言及したかった。レイモンドがこの場にいない今なら、遠慮なく問い詰めることができる。
「お前にもイグナーツ様達にも話しただろ」
「あぁ、話してもらったな。――出会ってから十年以上も経った後で!」
「…………ん?」
「出会ってまだ半年も経ってないくせに、もうお前からの信頼を勝ち取ったんだな、レイモンドは」
そう。彼が気にしていたのはそこだ。
アドルフと出会った頃。アルベルトは既に、前世の記憶を取り戻していた。……彼がアドルフの存在を知ったのは、城内を探索している途中で、イグナーツに仕える大臣達の会話が聞こえてきた時だ。
オオカミ族の子供、化け物、処刑……そんな不穏な単語が聞こえたため、思わず盗み聞きしてしまった結果。人狼に変身したアドルフの話と、彼が牢屋にいることを知った。
このままでは、子供が処刑されてしまう!
居ても立っても居られなくなったアルベルトは、人目を盗んで牢屋に向かい……まるで野生動物のように威嚇をしてくる、アドルフと出会ったのだ。
その様子を見て怯みながらも、アルベルトは彼に話しかけた。名前は何か? 歳はいくつなのか? といった質問をして、彼のプロフィールを知ろうとする。
しかし、アドルフは何も答えず威嚇するだけだった。
初日はそんな結果で終わったが、アルベルトは諦めなかった。
当時は大臣達が、アドルフを処刑するか否かで論争している最中だったため、彼はまだ生かされていた。
その間に少しでもアドルフの信頼を得て、獣王の一人息子であることや、子供としての立場を利用し、彼と仲良くなったから処刑をやめて欲しい、と駄々をこねて、アドルフを助けようと考えたのだ。
しかし、その数日後。牢屋でアドルフに話し掛けているところを、イグナーツに目撃されてしまった。勝手にこんな場所に入るなと叱られ、もうここに来てはいけないと言われた。
そこでアルベルトは、思い切って父親にこう訴えた。
「――俺、兄弟が欲しい! こいつと兄弟になりたい!」
それは、彼の本心だった。前世で兄弟がいなかったアルベルトは、今世でも兄弟がいなかった。母親であるステラが、なかなか子宝に恵まれなかったからだ。
だからイグナーツもステラも、一人息子のアルベルトの我が儘には弱かった。彼が普段から滅多に甘えようとしない子供だったため、尚更甘やかしたくなる。
アルベルトの望みは、あっさり叶えられた。
こうして、アドルフはイグナーツに引き取られ、アルベルトと兄弟のように共に育てられた。
アルベルト、イグナーツ、ステラは、アドルフが自ら過去を語ってくれる時を待った。
大体の事情は把握していたが、できれば自分達のことを信じて、自ら語って欲しい……そう願っていた。
それが叶った時には、既に出会ってから十年以上が経過していた。
アルベルトは、長かった! ようやくか! と、内心で呆れながらも、信頼してもらえたことに達成感を覚えた訳だが――
長い年月を掛けてようやく信頼してもらえた自分とは違い、早くもそれを成し遂げたレイモンド。……正直に言って面白くない。
「……つまり、お前はレイに嫉妬してんのか」
「べ、別に嫉妬なんてしてないんだからねっ!」
「何だそれ、気色悪い」
「ごめん、自分でもそう思ったわ」
前世のツンデレのセリフを、大の男が言っても気持ち悪いだけだなと、落ち込むアルベルト。……実際は、見た目が中性的な美人である彼が言うと、非常に様になっていたのだが、それはさて置き。
「……アル兄様やお父様、お母様はいいですよね。アドルフ兄様から昔の話を教えてもらえて。僕はまだなのに」
「悪いな、レオン。あんな話をお前に教えるには、まだ早いんだ。せめてあと四、五年経った後でな」
「そうね……レオンは、もう少し大きくなってから聞いた方がいいわ」
「……僕はまだ、頼りないということですか?」
レオンに涙目で睨まれたアドルフは、頭を振って否定した。
「違う。……レオンと、ついでにアルベルトにも言うがな。俺は早い段階で、お前らのことを信用していた。もちろん、イグナーツ様とステラ様のこともな」
「えっ? それなら――」
「あぁ。あの話をしても構わないと思っていた。だが、踏ん切りが付かなくて……気がついたら十年以上経っていた。それだけだ」
「無理もない。今とは違い、当時のアドルフはまだ若かった。自身の過去と向き合うまでに時間が掛かっても、おかしくないだろう」
「あっ。……あー、そうだよなー……ごめん、アドルフ。お前のこと考えずに文句言っちゃって……」
イグナーツの言葉を聞き、アルベルトは素直に謝った。アドルフはそれを受け入れ、気にするなと伝える。
「まぁ、その……レイを信じることができたのは、お前のおかげでもある」
「俺の……?」
「アルと出会ったから、人間と言葉を交わす気になれたんだ。『獣人に良い奴と悪い奴がいるように、人間にも良い奴と悪い奴がいる。人間だからという理由だけで、相手の全てを否定するな』……お前は俺に、何度もそう言ってたよな。その通りだったよ」
「……アドルフ」
「ガキの頃よりはましになったが、やはり人間は好きになれない。……でも、レイモンドだけは違った」
レイモンドのスキル、境界を越える親愛の影響もあったかもしれないが、アドルフはそれを抜きにしても、初対面の時点で彼に強い好感を持った。
だが。もしも自分が子供の頃と変わらず、全ての人間に対して敵意を抱いたままだったら?
きっと、人間であるレイモンドに興味を持つことは無かっただろう。アドルフはそう思った。
「お前の言葉が、人間への敵意や憎しみを和らげてくれたんだ。お前がいなかったら、レイと出会っても、今のように仲良くなれなかったかもしれない。だから――ありがとう。アルベルト」
「…………」
「レイは俺の心の友だが……俺にとって、獣人族の中ではアルが最も親しい友で、大切な兄弟だ」
ふっと笑ったアドルフの表情は、あまりにも優しく、それを目にしたアルベルトは、とっさに目頭を押さえる。
実は、お礼を言われた時点で既に危なかったが、次の言葉とその笑顔で、止めを刺されたような気持ちになっていた。
昔から滅多に笑わなかったアドルフが、徐々に笑顔を見せるようになり、耳や尻尾で分かりやすく感情を示すようになった。そして今、アルベルトに初めて見せた、柔らかな微笑み。
それを見た瞬間。アルベルトは、喜びで胸が一杯になった。
不幸な境遇に置かれた友人が、優しい笑みを見せてくれるようになった。自分がいたおかげで、心友と仲良くなれたと言ってくれた。
――自分のことを、最も親しい友であり、大切な兄弟であると認めてくれた!
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて……涙が出そうになる。
「アル?」
「いや……悪い、ちょっと……ちょっと待って。落ち着くまで待ってくれ! 今お前の顔を見る余裕が無いから……!」
首を傾げるアドルフと、両手で顔を隠すアルベルト。彼らの微笑ましい様子を見守る、イグナーツとステラ。仲の良い兄達を見て嬉しくなり、ニコニコと笑うレオン。
さらに、一連の流れを見て、ほっこりとした気分になった近衛兵達。
採寸を終えたレイモンドが戻って来るまで、その空間は暖かい空気に包まれていた。
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