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獣王国ヴァイス編
家族の絆、心友の絆
しおりを挟むアドルフとアルベルトの笑いが収まった頃。
俺達三人は真ん中にアドルフを挟む形で、先王陛下……いや、イグナーツ様達の向かいのソファーに座る。
彼らからは、もっと気軽に話して欲しい、と言われたため、敬語はそのままだが、畏まった態度をやめることにした。
実際に言葉を交わしてみると、イグナーツ様の性格はアルベルトに似ていた。快活で、面白いことが好き。会話をしているとこちらまで笑顔になれる、親しみやすい人だ。
ステラ様は、物腰が柔らかい女性だった。口を開くことはあまりなかったが、それは夫を立てるため。穏やかに微笑み、母親として息子達を優しい目で見守っている。
そしてレオン様は、やはり素直ないい子だった。今は俺とアドルフが話す、魚人族と鳥人族の話を夢中で聞いている。前世で可愛い孫と過ごした時のことを思い出し、懐かしく思った。
「魚人族と鳥人族かぁ……いいなぁ! 僕も会ってみたい!」
「そうだな。もしかしたら、そのうち会えるかもしれないぞ」
「えっ? 本当ですか、アル兄様!」
「あぁ。折を見て魚人族と鳥人族の代表者を城に招き、三種族の会談を行いたいと思っている」
「何だって?」
「おいおい。初耳だぜ、そんな話」
「そりゃ、今初めて言ったからな!」
俺とアドルフが驚いていると、アルベルトがドヤ顔でそう言った。その顔、腹が立つのだが。……しかし、そのムカつく顔はすぐに真剣な表情に変わる。
「真面目な話。戦争が勃発する前に彼らと直接話をして、連携を深めるべきだと思っている。魔族と同盟を組んだ時と、同じようにな」
「そうか……分かった。この国の王はお前だ。好きにやるといい。私の手助けが必要な時は、いつでも言いなさい」
「ふふ……どんどん立派になっていくわね。私にもできることがあったら言ってちょうだい、アルベルト」
「おう! ありがとう」
「レオン。お前も兄を見て多くを学ぶんだぞ」
「はい! たくさん学んで兄様を支えます!」
「その意気よ、レオン」
仲の良い家族だ。……少し羨ましい。今世の俺の家庭はアレだったし、前世の家族団欒を思い出して寂しくなるし……
「あ、そうそう。三種族会談の時はレイモンドも呼ぶから、そのつもりで」
「……魚人族と鳥人族の間を取り持つ役割か?」
「さっすが! 話が早くて助かる。その通りだ。直接の交渉相手であるお前がいれば相手も安心するだろうし、ついでに俺と向こうの仲も取り持って欲しいな」
「了解した」
確かに、三種族の橋渡しをするのは、交渉役だった俺が適任だろう。上手くやれるといいのだが。
「……ところで、レイモンド。聞いてもいいか?」
「はい。何でしょう?」
その時、イグナーツ様が俺に話し掛けてきた。何だろう?
「お前は魚人族や鳥人族を見た時、どう思った?」
「どう、と言われても……初めて目にした時は驚きましたが……?」
「耳や尻尾があることを除けば、人間とほぼ同じ見た目である我々獣人とは違い、その見た目が人間と大きく異なることについては、どう思う?」
「……それは、差別的な問題に関する質問でしょうか? 俺が彼らに対して嫌悪感を抱くことはありませんよ」
一体、何の意図があってこんな話を? アドルフ達も訝しげな様子でイグナーツ様を見ているが、口は挟まない。
「では――初めて人狼を見た時は、どう思った?」
なるほど、これが本題か。隣から強い視線を感じる。目の前にいる両陛下と殿下も、緊張した様子で俺を見ていた。多分、単純に嫌悪感は無いと言っても納得されないだろう。
さて、どう答えようかな。……恥ずかしくて、本人がいるところで言いたくない感想なんだよなぁ、これ。
でも本人追い出したら不審に思われるだろうし、この前リアムと戦った後みたいに、拗らせるのは良くない。
仕方ない。開き直って、堂々と言ってしまえ。
「カッコいいな、と思いました」
「そうか、カッコいい――ん?」
「俺、狼好きなんですよ。動物全般が好きですけど、その中でも上位に入ります」
「そう、なのね……」
「はい。だから、人狼の見た目も好きですね。銀色っていうのも良いと思います。毛並みが光に反射して綺麗でした」
「へ、へぇ……」
イグナーツ様、ステラ様、レオン様は困惑している。大分ズレたことを言っている自覚はあるが、気にしない気にしない。平常心平常心!
「怖い、とは思わなかったのか?」
「思いましたよ。見た目は好きですが、同時に怖いと思ったことは事実です。目付きも鋭い牙も怖かったですね。それに、ギフトを発動している最中は、俺が人狼の力を制御していたので、その本能の恐ろしさを知りました。しかし、それが何か?」
「……どういうことだ?」
「見た目は人狼でも、その中身はアドルフ――俺の心友です」
凄惨な過去を持つアドルフは、人狼の力を嫌っている。俺もイルミナルでの戦いで人狼の力を抑えるのに必死だったから、あれが暴走してしまったらと思うと怖い。
だが、その力を持つのは俺の心の友だ。
「例え見た目が怖くても、恐ろしい力を持っていたとしても、自分の命の恩人でもある心友を拒絶するわけがない」
「…………」
「昨日、アドルフから聞きました。幼い頃、スキルが原因でとても酷い目にあったことも。母親の死後、彼がどうなったのかも――」
「えっ! アドルフが、自分から?」
「あぁ」
アルベルトが驚きの声を上げた。そちらを見ると、腕を組んで我関せずといった様子のアドルフと、そんな彼をまじまじと見つめるアルベルトがいる。
何故驚いているのかは分からないが、とりあえず話を続けよう。
「とにかく。俺は、アドルフが過去に酷い仕打ちを受けていたことを知っているので、徒に彼の心を傷付けるつもりはありません」
「――そういう訳だから、心配すんなよイグナーツ様。レイは他の人間とは全く違うんだ。人間という種族ではなく、レイモンド・ベイリーという一個体なんだよ」
「その言い方だと、俺が人間とは違う別の生き物のように聞こえるんだが……?」
「おお、それはいいな。種族名を人間からレイモンド・ベイリーに変えておけ」
「嫌だよ?」
「じゃあオオカミ族で」
「無理だよ?」
何を言っているのかな? この馬鹿犬は。冗談も大概にしなさい。
「……なるほど、そうか。杞憂だったのか。……すまない。余計なことを聞いてしまった」
「全くだ。俺の心友を疑いやがって」
「悪かった。心から謝るから、機嫌を直してくれないか? アドルフ。私はお前が心配で仕方なくて……」
「イグナーツ様なんか、もう知らねぇ」
「アドルフ……!」
思わず笑ってしまった。アルベルトも、ステラ様も、レオン様も笑っている。
アドルフの不機嫌はそういうポーズなのだと、分かっているからだ。対して、子煩悩な父親様は涙目だ。
「レイモンド。お前にも謝る! 試すような真似をしてすまなかった。だからアドルフに機嫌を直すよう言ってもらえないか! 頼む!」
「……やれやれ。アドルフ、もう良いんじゃないか?」
「くくっ……! はいよ」
笑ったアドルフが、イグナーツ様を簡単に許した後。部屋の扉がノックされた。近衛兵の一人が応対する。……相手は男性の使用人だった。
「ステラ様。仕立屋が到着致しましたので、いつもの部屋にお通ししました」
「あら、ありがとう。……それじゃあ、レイモンド。彼について行きなさい」
「はい?」
何故俺が? ……また何か言い忘れていたのかと、アルベルトを睨む。しかし彼は首を横に振り、ジェスチャーで何も知らないと伝えてきた。おや?
「勝手ながら、私が手配させてもらったわ。あなたは既に私達の同胞。それなら、今身に付けている人間の服よりも、獣人の民族服を着てもらいたいと思って、今日に合わせて仕立屋を呼んだの」
「費用はこちらから出そう。安心して行ってくるといい」
「えっ? いや、わざわざ作ってもらうことも、費用についても申し訳ない――」
「遠慮はいらん。第一旅団の一員になったお前には、制服が必要だからな。それを国から支給するついでに、普段着も作らせるだけだ」
「第一旅団の制服……!」
それって、アドルフ達が着ていたあのカッコいい軍服か!
「ありがとうございます! お言葉に甘えさせていただきます」
イグナーツ様とステラ様に笑顔でお礼を言い、使用人と共に退出した。
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