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第三章 学校編

第九話 妹よ、俺は今覚悟を問うています。

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「上位鑑定」


 名前 キャロ(12)
 レベル 1
 種族 人間
 性別 女
 称号 勇者の仲間

 基本ステータス
 体力 12/12
 魔力 80/80
 筋力 10
 耐久 11
 俊敏 12
 器用 13
 知能 70
 幸運 18

 魔法
 火  D
 水  E
 風  D
 土  E

 スキル
 魔力消費軽減1 鑑定1 杖術1


 なるほど。キャロは魔法使いとして重要な基本ステータス「魔力」「知能」が本来の数値の5倍か。さらに魔法属性が追加された形跡がある。魔法を使ったことがないであろうキャロが火属性と風属性がDなのはおかしい。水属性と土属性は「勇者の仲間」の称号で追加され、元々持っていたのが火属性と風属性はワンランク上がったようだ。

「上位鑑定」


 名前 ノーラン(12)
 レベル 1
 種族 人間
 性別 男

 基本ステータス
 体力 13/13
 魔力 13/13
 筋力 12
 耐久 14
 俊敏 13
 器用 11
 知能 12
 幸運 36

 魔法
 火  E
 水  E
 風  E
 土  E
 光  D
 空間 D
 時間 D

 スキル
 勇者


 うーん・・・思っていたのと違う。基本ステータスは「幸運」のみ平均を大きく上回っているがミルの「知能」も高かったことを考えると「勇者」の恩恵ではないっぽい。そもそも、両親を早くに亡くしているノーランの「幸運」が異常に高いのは納得がいかない。ノーランだけでなく今日「鑑定」した子供達は全員平均値である年齢より「幸運」の数値が高かった。孤児院での生活を余儀なくされた子供達を幸運だと言っているようでなんだか嫌だ。
 魔法に関しては「勇者」スキルが反映されているようだ。闇属性以外の属性を持っている。たしかに「勇者」に闇属性は似合わないからこれは良し。
 そしてスキルは「勇者」のみ。しかも「勇者」スキルにはレベルが無い。早速覗いてみる。


「勇者」
 闇を除く魔法属性付与
 レベルアップ時の基本ステータス上昇10倍
 仲間の能力向上
 不屈の精神


 強烈だな「勇者」・・・というか、これスキルといより加護だろ。スキルレベルが無いのも納得だ。俺が持つ創造神様の加護と似ており、レベルアップ時の基本ステータス上昇10倍は全く同じ。それで基本ステータスは年相応だったのか。あと、仲間の能力向上と不屈の精神の二つは表示が曖昧過ぎないか。仲間は何人まで増やせる?不屈の精神ってどういうこと?謎が多いぞ「勇者」さん。



 これまでの能力鑑定では俺が「上位鑑定」をした後、すぐに本人とマザーループに開示して今後の育成カリキュラムを話し合ったが、アルバ、キャロ、ノーランのステータスは俺しか見ていない。マザーループとシスターパトリは口を出さず俺の判断を待っている。

「君達三人は冒険者を目指すのに何の支障もない。才能もある」

「やったー!」

 声を上げたのはキャロ。アルバはほっと胸をなでおろし、ノーランは微動だにしない。

「君達に一つ聞きたい。君達の目標は冒険者として生計を立てることか、それとも力を得て世界の守護者になることか、どちらだ?」

 我ながら突飛な質問だ。シスターパトリが唖然としている。アルバは思考が停止しているようだ。キャロは「えっ!」を連発している。マザーループは何も変わらず、ノーランは落ち着いた表情のまま俺の質問の意図を考えている。これも不屈の精神と関係があるのだろうか。
 考えが纏まったのかノーランが口を開いた。

「それは、俺達に世界の守護者となる才能があるということでしょうか?」

「そうだ。君達は世界の守護者となることも、冒険者として世界中に名を轟かせる才能もある」

「やったー!凄いよ、ノーラン、アルバ。慈悲の女神チセセラ様はわたし達に才能を与えて下さったんだ。やったー!」

「落ち着け、キャロ。トキオ先生は世界の守護者となることも、冒険者として名を轟かせることもできると言ったんだ。この二つは似ているようで全く別だ。冒険者として名を轟かせたくらいでは世界の守護者になんてなれない」

 落ち着いている。俺にベーゴマ勝負を挑んできた時とは全くの別人だ。普段は年相応の子供でも、ここ一番では「勇者」スキルが発動するのか?

「その通りだ。君達が冒険者として大成したいのなら、学校でマーカスのもと冒険者のイロハを学び、卒業後も努力を怠らず正しい準備をすれば数年後にはS級冒険者も夢ではない。しかし、世界の守護者となる程の力を得たいのなら、それだけでは足りない」

 図書館で読んだ文献によると歴代「勇者」の中で最も広く知られているのはブルジエ王国を建国した初代国王だ。その他にも魔獣のスタンピードから街を救った「勇者」や大災害からの復興に大きく貢献した「勇者」など、後の世に名を残した「勇者」は複数いる。「勇者」はこの世界にただ一人、唯一無二のスキルだが逆に言えばいつの時代にも必ず一人は「勇者」スキルの所持者がいる。だが「勇者」の歴史は途切れ途切れ。何十年、何百年も「勇者」が現れていない時代もあった。歴史に名を残した「勇者」より、名を残さなかった「勇者」スキル所持者の方が多い。人生の選択は自由だ。「勇者」スキルを持っているからといって、必ずしも「勇者」になる必要はない。

「三人共こちらへ来なさい。これが君達のステータスだ」

 全員にステータスを開示する。冷静さを保っているのはマザーループのみ。今まで冷静だったノーランですら、自分が「勇者」スキルを持っていることに驚愕した。

 席に座らせ落ち着くまで時間をとる。「勇者」スキルを所持するノーランは勿論「勇者の仲間」の称号を持つアルバとキャロも、驚きとショック、喜びと不安が一斉に頭の中を駆け巡り混乱している。まだ12歳の子供だ、仕方がない。

 五分ほど待つとノーランが口を開く。

「トキオ先生。先程それでは足らないと言っていましたが、俺達が世界を救えるほどの力を得るには何が必要なのですか?」

「圧倒的な力を知る指導者だ」

 三人は知っている。俺とS級冒険者に圧倒的な差があることを。見たことも無いような魔法を無詠唱で使えることを。

「少し、三人で相談してもいいですか?」

「その必要はないよ、ノーラン」

 声を発したのはアルバだった。

「ノーランが決めるべきだ。そして、決めた道を共に歩める者を仲間にするべきだ」

「アルバ・・・」

「勿論、ノーランがどんな道を選ぼうと僕は一緒に行くつもりだけどね」

「ちょっと、わたしのことを置いていくんじゃないわよ。あんた達二人だけなんて危なっかしくて放っておけるわけないでしょ。ノーランがどんな道を選ぼうが、当然わたしも一緒に行くから」

「キャロ・・・」

 いいチームだ。堅実なアルバ、活発なキャロ、冷静なノーラン。性格がバラバラなのに幼いころから培ってきた深い信頼関係がある。パーティーを組むのなら性格はバラバラで上下関係が無いのに限る。間違った方に向かいかけても誰かがストップをかけられるからだ。

「ノーラン、よく考えるんだ。「勇者」スキルの所持者だからといって必ずしも「勇者」になる必要はない。今すぐ決断しなくてもかまわない。新しく出来る学校で学びながらゆっくり考えればいい。スキルなんて関係ないんだ。君も、アルバとキャロも、自由に人生を選択できる。何にだってなれるし、何処にだって行ける」

 三人はまだ子供だ。まだ時間はある。問題を先送りするのは逃げではない。

「トキオ先生、すでに結論は出ています。俺は「勇者」なんてものに興味はありません。一人で世界を救えるとも思えない。それでも目の前の苦しむ人を救えるのなら、手の届く範囲だけでも恵まれない人に寄り添えるのなら、力を得たい。その力をもってトキオ先生のような冒険者になりたいです。俺達を指導してください」

 ノーランの言葉に大きく頷き笑顔を見せるアルバとキャロ。子供達の将来に力を貸すため俺は学校を作り先生になる。だが、今回だけは簡単に協力する訳にはいかない。力を得るには責任と覚悟が必要だ。

「マザーループ、シスターパトリ。これから教会で言ってはならない発言をします。お二人には耳を塞いでいてもらいたいのですが、よろしいですか?」

「わかりました」

 マザーループはそう言って瞳を閉じる。それを見たシスターパトリも同じ行動をとった。本当に耳を閉じて欲しいのではない。聞かなかったことにして欲しいだけだ。二人にはその意図が伝わっている。

「力を持つ者には責任が伴う。力を正しく使う責任だ。同時に力を与えた者も責任を負う。君達が俺から得た力を悪しきことに使えば俺は責任をとる必要がある」

「責任・・・」

「そうだ。俺の指導で力を得た君達がもし悪しき心に飲まれるようなことがあれば、当然俺が責任をとる・・・俺が君達を殺す」

 三人の顔がいっきに青ざめる。俺が怖いのなら、少しでも俺に殺される可能性があると思うのなら、人の枠を超えた力を欲するべきではない。たとえ子供でもこれだけは譲れない。

 暫しの沈黙。そして、ノーランが口を開く。

「俺は教会の子供です。マザーとシスターを悲しませることなんて絶対にしません。慈悲の女神チセセラ様に誓います」

「僕も教会の子供です。マザーとシスターを裏切るようなことは絶対にしません。慈悲の女神チセセラ様に誓います」

「わたしだって教会の子供です。マザーとシスターを悲しませたりなんてしない。慈悲の女神チセセラ様に誓います。あと、こいつらが悪いことに力を使おうとしたら、わたしがぶっ飛ばします」

 三人の力強い瞳が俺を見据える。知っていたさ、君達が優しいことは。
 カミリッカさん・・・あなたが無謀な賭けを平然として見せた気持ちがようやくわかりました。俺も同じです。この子達が悪しきことに力を使うなんて微塵も思わない。
 ただ、俺が善行だと思っていても神様が悪行判定するかもしれないので「誓約」だけは解除してくださいね。

「マザーループ、シスターパトリ、もういいですよ。ノーラン、アルバ、キャロの三人は俺とマーカスが責任を持って指導します」

「冒険者希望の子供達はトキオさんとマーカスさんにお任せします。ビシビシ鍛えてください」

「はい、任せてください」

「「「やったー!」」」

 喜びを爆発させる子供達。今の内に喜んでおくといい。修行が始まれば喜んでいられらくなる。

「勉強もしっかりやらないと修行はさせないからな」

「「「えぇぇぇぇ」」」

「当たり前だ!」


 ♢ ♢ ♢


 初めての能力診断を終え来客室にて緊急会議を開くことになった。現在教会に居るマザーループ、シスターパトリ、オスカー、俺の四人で紅茶を飲みながら念話で呼んだサンセラとコタローに呼びに行かせたマーカスを待つ。

「私、ノーランの話を聞いていて涙が零れそうになりました。子供達はちゃんと見ているのですね」

「パトリ・・・それは私も同じです。子供達に心配をかけるなんて、我々もまだまだ修行が足りません」

 イレイズ銀行の一件で心を痛めていたのはマザーループとシスターパトリだけでない。二人を母、姉と慕う教会の子供達も二人の心労を感じ取っていた。マーカスを嘘の依頼で騙し俺の調査をした時点で完全に俺の敵となったイレイズ銀行とはこれで終わりになりそうもない。次に奴らが仕掛けてくるようなことがあれば決着をつける。

 十分ほどでサンセラ、さらに十分ほど待つと最後の一人マーカスが来客室のドアを開く。

「ハァ、ハァ、ハァ、お、お待たせしました」

 よほど慌てて来たのか額に大量の汗をかくマーカス。

「すまんマーカス、急に呼び出して。そんなに慌てて来なくてもよかったのに」

「コタロー殿のプレッシャーが・・・いえ、なんでもありません」


『お前なぁ・・・マーカスが可哀想だろ』

『弟子が師匠を待たせるなどあってはなりません。全力で駆けてくるのは当然です』

 厳しすぎる・・・気軽に聖獣様を使った俺のミスだ。そう思うことにしよう。


「これから今日の能力診断を踏まえた緊急職員会議を行います。プライバシーに関わる問題もありますので内容を外部へ流出させないよう皆様には守秘義務が課せられます。ご了承ください」

 先ずはネル、バート、ビシェ、クーニャ、それぞれの育成カリキュラムと担当を決めていく。ネルは教会での活動が中心になるためシスターパトリが受け持つことに、バート、ビシェ、クーニャは年長組を受け持つ予定のオスカーが中心となり、専門的な知識を他の職員で補うことに決まった。
 そして本題。ノーランが「勇者」スキルの保持者でありアルバとキャロが「勇者の仲間」であることを能力鑑定に同席していなかった者に伝える。同時に、三人が一人前になるまで「勇者」スキルに関わる全て口外を固く禁じた。ギルド長にも公爵家にも秘密とする。

「冒険者希望のノーラン、アルバ、キャロは俺が責任を持って修行させます。冒険者に必要となる座学はマーカスに任せる。「勇者」スキルを持っていようが関係ない。一から冒険者の基本を叩き込んでほしい」

「畏まりました。しかし「勇者」スキルを持った少年が師匠の前に現れるとは、なんという幸運だ」

「んっ!どうしてノーラン達が幸運なんだ?」

「師匠、本気で言っていますか?」

 なぜマーカスは驚いているんだ。あれ、オスカーとシスターパトリまで、お前は何を言っているのだって顔をしている。マザーループまで首を小さく振り始めた。俺、そんなにおかしなことを言ったか?

「おかしいだろ。マザーループとシスターパトリに保護してもらったとはいえ子供達は保護者を失ったんだぞ。それなのに今日能力鑑定をした子供達は全員平均より「幸運」のステータスが高かった。ノーランなんて平均の三倍だ。どう考えても「幸運」のステータスは間違っているとしか思えない」

 ミルも「幸運」のステータスは平均以上だった。この世界の「幸運」ステータスはバグっているんじゃないか?

「師匠、孤児院の子供達が総じて「幸運」のステータスが高い理由を私は知っていますよ」

「嘘をつけ。どうしてサンセラが知っているんだ」

「私自身が体現したからです。私は師匠と出会えました。最初の弟子にしていただきました。私以上に「幸運」な者がこの世界に居るとするなら、それは幼いうちから師匠と出会い、師匠が作る学校で学べる孤児院の子供達をおいて他には居りません」

「親や肉親を失った子供達が「幸運」だと。滅多なことを口にするな!」

「いいえ。たしかに親を失ったことは不幸です。ですが、師匠と出会えたことは「幸運」です。ステータスは所詮数値に過ぎません。長い人生において幼くして師匠のような方と出会えたのはそれ程「幸運」なのです。しかも子供達はマザーループとシスターパトリ、師匠が尊敬するお二方に育てられました。「幸運」のステータスが高いのは当然です」

 フン、所詮はドラゴンだ。家族の温かみを理解できないのだろう。

「サンセラ先輩の言われる通りです。私も子供に戻って先生の学校で学べるのならどれ程幸せか」

 オスカー、お前もか。公爵家生まれのボンボンに孤児の気持ちがわかってたまるか!

「特にノーランの「幸運」が別格なのは頷ける。「勇者」スキルを持った者を正しく指導できる方など世界中で師匠しか考えられない。彼は世界にたった一人しかいない最高の指導者と幼くして出会えたのだからな」

 剣術馬鹿は剣のことしか考えていない。マーカス、強くなることだけが幸せではないぞ!

「トキオさんが教会を訪れてくれたことを、慈悲の女神チセセラ様に感謝いたします」

 マザーループ、あなたまで・・・

 んー、解せん。

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