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第三章 学校編

第十話 妹よ、俺は今学校を完成させました。

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「だいぶ動けるようになったな、マーカス」

「ハァ、ハァ、そうなのでしょうか?師匠との差があり過ぎて自分ではよくわかりません」

「すぐに認識できるようになる。安心しろ、マーカスは確実に成長している」

 マーカスに稽古をつけ五日、「体術」のレベルが6に上がったが伝えていない。レベル7まで上がれば「体術」スキルは俺と同じになる。その時に成長が認識できる筈だ。

「先生、おはようございます」

「おはよう、オスカー」

 最近では俺との稽古を終えたマーカスが、今度はオスカーに稽古をつけている。男手の少ない教会で少しでも戦力になりたいと言ってくれたオスカーには感謝しかない。S級冒険者のマーカスとは比べものにはならないが、一般的に見ればオスカーの剣も十分に通用するレベルだ。

「そうだ、先生に頼まれていた動物の件ですが、取りあえず鶏20羽、山羊5頭、馬3頭の契約を昨日してきました。学校が出来次第連れて来られますよ」

「そうか、ありがとう。料金はマザーループから受け取ってくれ」

「いいえ、金など私が出しておきます」

「それをマザーループが許すと思うか?」

「ですね・・・わかりました。マザーループに報告しておきます」

 オスカーには公爵家の伝手で花壇に植える花の苗と動物の手配を頼んでおいた。どちらも俺指導の下、子供達に世話をさせる予定だ。着々と学校が完成に近付いていると実感する。

「先に来客室で準備しておくよ」

「よろしくお願いします」



 臨時の事務所になっている来客室に着くと、入口の前でシスターパトリが立っている。

「どうかされましたか、シスターパトリ」

「少々お待ちください。只今、着替え中です」

「着替え中?まさか、完成したのですか!」

「はい。昨日女子用のサイズが違う三着だけ先に届けてもらいました」

 生地集めから始めた制服作り。シスターパトリにお願いしていたのだが途中から服飾関係に就職を希望している年長組のビシェも制作に参加している。孤児院出身の女性が嫁いだ先に服の仕立て屋があったのでビシェの社会見学も兼ねて制服の制作を依頼したところ、快く協力してもらいビシェにも服作りを体験させることができた。

「ビシェ、準備出来ましたか?」

「はい、オッケーです」

 来客室に入ると年長組のビシェ、年中組のミル、年少組は7歳の女の子リゾの三人がサイズの違う真新しい制服に袖を通していた。

「トキオ先生、変じゃないですか?」

 心配そうに尋ねるビシェ。彼女が初めて制作に携わった服だ、心配になるのもわかる。ここは素直な感想を述べよう。

「ビシェ、最高だよ!」

「本当?」

「ああ、制服としてフォーマルな雰囲気を持ちつつも可愛さが損なわれていない。何より年長から年少までみんな似合っているデザイン。お世辞抜きに最高だ」

「やったー!シスター、トキオ先生に褒めてもらえました」

「おめでとう、ビシェ。がんばった甲斐がありましたね」

 これが自信になってくれればなによりだ。制服ができたのも嬉しいが、ビシェが夢に向かって第一歩を踏み出せたことはそれ以上に嬉しい。

「ミル、着た感想は?」

「うん、機能的でいいと思う。可愛いのに一目で学生だとわかるデザインもいい。ビシェ姉、なかなかセンスがある」

 おお、あのミルからも好評を得るとは。

「リゾはどうかな、制服気に入った?」

「うん。なんかね、勉強がんばるぞって気になる」

 こんな小さな子が生活にメリハリをつけられるなんて最高じゃないか。

「ビシェ、ありがとう。これでまた学校の完成に一歩近づいたよ」

「ううん、わたしの方こそありがとうございました。デザインに携わった制服が製品になっていく過程が見られて勉強になったし、職人さんの技術が素晴らしいのもわかった。益々服飾関係の仕事に興味が湧きました。孤児院のみんながこの制服を着て学校に通える日が今から待ち遠しいです」

 やはり実際に仕事風景を見られる社会見学は勉強にも刺激にもなる。今回はたまたまだったが、学校が始まったら定期的に開催して子供達に沢山の経験をさせたい。


 シスターパトリとビシェに今後必要になる体操着や夏服などの相談をし始めると、我慢できなくなったのかミルが俺の前に立ち服を引っ張る。

「トキオ先生、トキオ先生。学校はいつできるの?ミルは子供だから、もう我慢できない」

 すごい理由だな。

「安心して、もうすぐだから」

「もうすぐっていつ?リゾも子供だから我慢できないよね?早く学校行きたいよね?」

「うん。ミルちゃん、あたしも早く学校行きたい。子供だから我慢できない」

「ほらー、トキオ先生。リゾも我慢できないって言っているよ」

 いやいや。ミル、それは君が言わせているんだ。

「近いうちにマザーループから引っ越しの準備をするよう言われると思うから、もう少しだけ待っていてね。リゾは良い子だから待てるよね?」

「うん。リゾは良い子だから待てる。ミルちゃんももう少しだから我慢しなきゃダメだよ」

「・・・わかった」

 ふふふっ、ミルも自分より小さな子に言われては形無しだな。


 ♢ ♢ ♢


 ところ変わって学校建設現場。内装工事も最後の仕上げ段階、コタローとサンセラも人型で細かい作業に取り掛かっている。俺が「創造」で創り出したパーツを設計図通りに組み立てていく二人。聖獣と魔法が得意なドラゴンだけあって細かい説明はしなくても設計図を見れば大概は理解してしまうので作業が捗る。昼過ぎ、遂に新築の建物がすべて完成した。

「よし。あとは中庭の整備と植樹だな」

「木はどれくらい植えるのですか?」

「グラウンドの周りと道の両端。あと、武道場の裏の空いている土地に小さな森を作る」

「森ですか」

「そうだ。小さくても森を作っておけば鳥や動物、虫なんかも来るだろ。それもまた子供達の好奇心に繋がる。子供は虫が好きだからな」

「なるほど。師匠は本当に色々考えていますね」

「楽しいんだよ。子供達の為にあれこれ考えるのは俺にとっても充実した時間なんだ。つき合わせて悪いな」

「何をおっしゃいます。私も楽しいですよ。師匠の考えた建物を造るのも、子供達の授業内容を考えるのも、こんなに楽しいなんて思いもしませんでした。最近では人間の世界も悪くないなと思い始めています。コタロー様もそうでしょう」

「うむ。聖獣として生まれ殆どの時を森で過ごしてきたが、トキオ様と行動を共にして人生観が変わってきた。最近ではトキオ様に言われたからではなく自らも幼き者は守ってやらねばと思い始めている自分が居る」

「それ、わかります。人間もドラゴンも同じで子供は可愛いですよね」

「ああ。特にトキオ様に懐いているミルなど見ていて微笑ましいぞ。今朝のトキオ様とミルのやり取りなど最高だった」

「えっ、それ詳しく教えてくださいよ」

 こいつらマジか!聖獣とドラゴンなんて普通の人間からしたら恐怖の対象でしかないのに、まさかこんな会話をしているなんて俺以外の人間に話しても絶対信用しないぞ。本当に愛すべきおかしな奴らだ。

「そうだ、コタロー。これをやるよ」

 マジックボックスから出したのは長さ30cm、金属製の筒。勿論ただの筒ではない。

「それは、もしや!」

「ああ。コタロー用に俺が作った武器だ」

「おおー。ということは、ただの棒ではありませんな!」

「当然」

 早速使い方を説明する。この筒は魔力を流すことで大きさを自在に変えられる。まずは俺の身長と同じくらいの長さにして振り回す。いわゆる、如意棒だ。

「流石は師匠、様になっていますね」

「このように棒としても十分に武器となるが、面白いのはここからだ」

 期待に目を輝かせるコタロー。その期待、応えてやろうじゃないか。魔力を流し元の大きさしてマジックボックスから小さな玉を取り出し筒の空洞部分に装填。勢いよく天に吹き出す。

 ドカーン!

 俺の結界に当たり爆発。

「トキオ様。そ、それは、吹き矢ですね!」

「正解。ただの吹き矢じゃないぞ。球は今のファイアーボールの他に敵の意識を刈り取るテイザーガン、拘束用の結界、それとノーマルの矢の四種類作っておいた。他にもいいアイデアが浮かんだらその都度作ってやる。コタロー、こんなの好きだろ」

「はい、最高です。トキオ様、感謝いたします」

 これは完全なネタ武器。手裏剣やまきびしに異常な興味を示すコタローなら吹き矢も喜ぶだろうと作ってみた。本当は元から強いコタローに武器など必要ない。吹き矢を使わずとも魔法をいくらでもぶっ放せるだけの魔力をコタローは持っている。

「コタロー様の「隠密」とその武器の愛称は抜群ですね。気取られることなく遠距離からひと吹きで敵を無力化する。まさに忍びの武器です」

「わかるか、サンセラ殿!」

「ええ、勿論。かっこいいですよ、コタロー様」

 キャッキャ言いながら棒を振り回すコタロー。それに拍手喝采するサンセラ。この姿を見て二人が聖獣とドラゴンだと思う人間は居ないだろう。本当に愛すべきおかしな奴らだ。



 午後からの作業も上機嫌なコタローとそれにつられたサンセラが働く、働く。聖獣とドラゴンのパワーを遺憾なく発揮して中庭の整備と植樹はあっという間に終了。あとは教会を移築するだけとなった。

「師匠は何処に住まわれるのですか?」

「丸太小屋をそのまま持ってこればいいだろう。武道場の横にサンセラが使っているのと並べるスペースがあるからそこでいいよ」

「丸太小屋は師匠が住むのに相応しくないですよ」

「なんだよ、相応しくないって。住む場所なんてなんだっていいよ、俺は」

「本当に師匠は欲がありませんね。まあ、師匠らしくはありますが・・・」

「だろ、住む場所で見栄を張ってもしょうがないって。ただの若造には丸太小屋で十分だ」

 完成した学校を見渡す。教室で授業を受ける子供達、グラウンドを駆け回る子供達。想像するだけで嬉しさが込み上げる。

「いよいよですね、師匠」

「ああ。コタロー、教会に帰ってマザーループ達に完成の報告だ。サンセラも一緒に来い」

「「はい!!」」


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