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第五章 残酷な世界
298 『ありがとう』は?
しおりを挟む「なんでこの私が神なんかに『ありがとう』とか言ってあげないといけないの? え、お爺ちゃん何様?」
「まあ一応、神様じゃな」
泉の水でびちゃびちゃと水遊びして遊んでいたカレンは、最高神相手にいちゃもんをつける。
「……それで、私の為になにをしてくれたって? ほーれ言ってみ? カレンちゃん優しいからお爺ちゃんの戯言暇だし聞いてあげるよ、それと事と次第によっては褒めてあげてもいいけど?」
そしてこの上から目線である。
そろそろカレンの神への不敬とかそれ以前な気がする酷い態度に、最高神は怒ってもいいと思う。
だが当の最高神は孫を見る祖父のような顔で朗らかに笑っている、この神にとってはカレンのそんな所も面白いらしい。
「そうさなぁ……? ほれ、そんな所に隠れていないでこっち出てきなさい」
オーディンが好々爺然とした雰囲気で、朗らかに木立の方に向かって声をかけた。
「んー?」
なんだろな、とカレンが訝しげな目でオーディンが声を掛けた木立の方を見やれば。
かさり、かさり。
葉の擦れる音がした。
「あ、の……」
大変見覚えのあるプラチナブロンドに人懐っこそうな整った顔立ち、聞き覚えのある声。
そして最後にカレンが見た時は真っ赤に染まっていた騎士服は、元通りの真っ白なものに戻っていて。
「え……イーサン!? うそ、なんで……こんな所にいんの? これ、どゆこと……」
カレンはイーサンの元へと駆け寄って行く。
「……なんで? それはこっちが言いたい言葉です!」
「え……?」
イーサンに怒鳴られたことなんて今まで一度もないのに、まるで怒った時のエディみたく怒鳴られて。
カレンは何事かと首を傾げる。
「どうして逃げなかったんですか! 僕を助けるなんて馬鹿な真似をして……殺させるなんて……」
「あ……ごめん、でも置いて逃げるなんて出来なくて。でも、イーサンが生きていてよかった……!」
よかった、本当によかった。
巻き込む事がなくてと、カレンは微笑む。
「……残念ですが、僕も死んでます」
「え……でも、だって。イーサン……そこにいるじゃん? ほら、こうやって……触れるよ?」
イーサンの腕をカレンは、グイグイと引っ張ってちゃんと身体があると確認する。
「これはそちらの方に作って頂いた仮初めの身体です、僕はあの時……カレン様と一緒に死んでいます」
「っ……ごめん、イーサン。謝って済む事じゃないけど……巻き込んでごめん」
「カレン様? 貴女に謝って欲しいわけではありません、僕はただ……どうして本当の事を話してくれなかったのかと、あの時逃げてくれなかったのかと憤っているだけです」
「それは……」
「僕は騎士なので死ぬ覚悟は最初から出来ています。護衛対象である貴女を守って死ねるなら、唯一の主人と認めた貴女を守った結果なら、その死を喜んで受け入れられたのに」
「そんかもん受け入れんなよ、くそが……! 何かを守って代わりに死ぬなんて、ダサすぎるんだよ……」
「それ、カレン様にだけは言われたくないです。貴女がしてきた事、全部聞きました、こんな世界守る為に自分を犠牲にして……馬鹿じゃないですか?」
むぅ……っと口を尖らせて、カレンは頬をぷっくりと膨らませ拗ねた。
だってイーサンの言葉は自分でもわかっていたことで、言い返す言葉が見つからないから。
「イーサン、言うようになったね?」
「僕って、最初からこんなんでしたよ? カレン様はもう忘れましたか? あのポーションの酷い味、未だにトラウマなんですけど……?」
「ふ、ふふ……! そういえばそうだった、あの糞不味ポーション私の自信作なんだよ?」
「あれ、本当……不味かった……」
そして笑い合うカレンとイーサンの側に。
ヨチヨチと覚束ない足取りで寄って来たのは、小さな黒猫の赤ちゃんで。
「ん、黒猫? うわ、可愛い……」
「猫さんですか? どうしてこんな所に……」
すりすりとカレンに擦り寄って、エメラルドのような緑の瞳で見上げた。
「ああ、それがワシが掬い上げてやったお前さんの大事なもんじゃよ、カレンちゃん?」
猫を抱き上げて首を傾げたカレンにオーディンは、声をかけた。
「え……? いや私、猫なんて飼ってないよ?」
「……それは猫ではないよ。人の形をまだ取れんから、その形を取らせているだけじゃよ?」
「人の形……?」
「それ、お前さんが大事に抱えとった赤子じゃよ? もしかして……気付いておらんかったか? 自分の身体じゃのに……以外に鈍感な子じゃのう?」
「え……? 赤子……? は!?」
「そして特別に、その子はわしが神にしてやったぞ! さぁ『ありがとう』はまだかの?」
「はあぁぁ……!?」
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