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第五章 残酷な世界

287 辻褄

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 怒号が飛び交っていた。

 私を殺せと。

 火炙りにしてしまえと喚く女性の声。

 未だに異音は鳴り響いていて耳障り、騎士達が私をこの場から逃がそうと必死になって道を作る。

 どこに逃げても、もう無駄なのに。

 それでもその気持ちがただ嬉しくて。

 嘘をついて私はずっとこの人達を騙していたのに、守ろうとしてくれるのが申し訳なくて。

 ……胸が苦しかった。



「カレン様、大丈夫ですからね……!」

 イーサンが私を励ます。

「そこを退け! 斬り伏せられたいか!」

 エルザが逃げ道を作る。

「カレン、絶対にお前は俺が守る」

 エディが身を挺して私を守る。

 きっとあのまま研究室で世界の不条理に不貞腐れていたら、出会えなかった人達。

 エルザが作った道を進む。

 だけど人が波のように押し寄せてくる。

「殺せ! 逃がすな!」

「お前が私の子を殺したのか……!」

「魔女は火刑にしろ!」

 大広間から出る事すら難しいこの状況で、外に逃げ出した所でどこに私を逃がすというのだろうか。

 イクスに帰れば。

 私の巻き添えを食らってイクスが戦果に見舞われてしまうだろう、だからもう帰れない。

 ガルシア家も。

 私を匿えば巻き込んでしまうから。

 でも私を逃がそうと必死になる騎士達に、なんて言葉を私は言うことが出来ない。

「カレン様……!」

「執行官……」

 執行官アンゲルスがカレン達に群がった群衆を一人掻き分け、合流する。

「ここから外に出たら直ぐに転移しますよ……」

「……いったいどこに?」

「世界樹へ」

「それは……止めておいたほうがいいんじゃないかな? 私を追って大勢の人が世界樹にやって来てしまう、そうしたら余計に世界樹が弱ってしまうよ?」

「……そんな事は関係ありません! カレン様、貴女さえ生きていてくれたら……もう私達はそれでいい」

 悲痛な表情。

 それは今にも泣き出してしまいそうな。

「執行官、世界樹の番人がそれじゃダメでしょ?」

「世界樹なんかよりも、私達は貴女が大事なのです、カレン様がいない世界なんて……守る価値もない」

 執行官と話している最中も、私への罵声は一向に止まる気配がみられない。

 それもそのはずで、私が引き起こした死病の犠牲になった人の数がアルスは飛び抜けて多いから。

 エルザが作る道を、出口へ向けて一歩ずつ進む。

「……まって、エディお兄様!」

「リティシア……」

 エディに声が掛かる。

「どうして、お兄様はその人を守るの? オリヴィアお姉様を……その女は殺したのに」

 声。

 聞き覚えのある声。

「リティシア、今はそんな事を言っている場合じゃない! そこを退きなさい!」

 どうしてエディは気付かないのだろうか。

「魔女……その偽りに騙されること無かれ、それは英雄など崇高な者などではなく人殺しの魔女。国際連合は世界に嘘をついている」

「え……リティ……?」

 ほら、やっぱり。

「貴女が仕組んだのね……リティシアちゃん?」

「カレン……何、言って……」

「そうだよ、カレンお姉様? やっと気付いた? でももう今さら気が付いても遅いと思うんだよね……?」

 にっこりと可愛らしくリティシアは微笑む。

 それは初めて会ったあの日のように。

 これで全てに辻褄が合ってしまう。

「……赤の騎士団長オスカーに問題なく近付けて、オースティン公爵家の領地にある別荘にあの日私が宿泊していることを知る事が出来て、国立魔法学院に私がお忍びでやって来たことを知り得る事が出来た。そしてこの夜会に私を招待した、それは全部貴女だったね、リティシアちゃん?」

「うん、そうだよ? ……この人殺し」

 そしてリティシアから可愛らしい笑顔は消え去って、激しい憎悪をその表情に浮かべた。


「あああああっ! その少女は……!」

 リティシアを指差して執行官が大きな声を出す。

 ちょっと急に発狂するのは止めて欲しい。

 今、結構大事な場面だと思うんだ。

「え、なに執行官? 今すっごい大事な場面だよ!? ちょっと五月蝿いから、黙れー?」

「カレン様! その少女! その少女……若木! 世界樹の若木です! やっと見付けました!」

「え……?」

 
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