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第五章 残酷な世界

258 撤収

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「撤収ー! 撤収だー!」

「ほら、最高位達が帰るぞー!」

「転移装置起動しろー!」

 バタバタと慌ただしく錬金術師達がストゥルトゥスとの国境から引き上げ始めた。

 転移装置の警報音がけたたましく鳴り響く。

 その錬金術師達の様子を横目に、序列二位と一位がその場に座り込んで酒を飲み宴会を始めるから。

「……帰ってから飲んで下さい、ここストゥルトゥスとの国境ですよ? なに宴会しようとしてるんです?」

 ストゥルトゥスとの国境で宴会を始めた二人を、冷ややかな視線でカレンは見下ろす。

「え……ダメ? 祝杯あげたい……」

 序列一位が捨て犬のように瞳を潤ませ、冷ややかに見下ろすカレンに悲しそうな顔をしておねだりする。

「そんな顔をしてもダメに決まっているでしょ! 帰ってからして下さい? ほら皆が用意しています、撤収しますよ? 私は先に転移しますねー!」

 それだけを序列一位に言い捨てて、さっさとカレンは転移装置の魔方陣に乗る。

「そんなに早くアルスに行きたいなんておチビちゃんその恋人とやらにご執心だね? 恋する乙女は大変だ、でも……まだ帰りたくないのにー」

「……仕方ねぇだろ爺さん、帰ってから飲もうぜ?」

 嫌々と言う序列一位を仕方なく序列二位がずるずると引きずって、転移装置の魔方陣に放り込む。

 そして次々に転移していく錬金術師達を見送り、ルーカスと、序列二位が最後に残された。

「俺とカレンが来る前に一位様を説得して置いて下さいよ、休暇中だったのに呼び出すな……!」

「たまにはさ会いたかったんだよ、チビッ子にも、お前にもな、ルーカス?」

「……俺は貴方になんて会いたくありませんが?」

「なんつーの? あいつに似てお前冷たいよな! 俺との関係もまるっと隠してるだろ、チビッ子に!」

「貴方と俺は無関係の他人です、今さら親父面しないで戴きたい……だから母さんに捨てられるんですよ?」

「なあアイツ……俺とより戻したいとか、言ってなかった? そろそろ許してくれても……!」

「母さんが許すわけないだろうが糞親父! 録に家に帰りもしないで! ……ほーら帰りますよ、仕事して下さいねー? あーあ、せっかくの俺の休暇が! ほんと余計な事しかしない……」

「え、そんな怒らなくても……チビッ子と引き離した事そんなに恨んでる?! あの子に彼氏出来たのはお前が兄貴ポジションで満足してるから……あ、」

 怒気を孕んだ瞳を見開いて、ルーカスは序列二位を睨み付ける。

「……それ以上言ったら親子の縁切るからな?」

 そう言い放つルーカスの瞳は冷やかで。
 
「息子が冷たい……久し振りに会ったのに」

 そしてルーカスと序列二位アロイスの二人が転移した後に残されたのは、ストゥルトゥス兵の無残な亡骸だけ。

 

 ……転移独特の浮遊感。

 一日に何度も転移なんてするもんじゃない。

「うっ……吐きそう……!」

「うわ、カレン大丈夫か? もう深夜だし、今日の所は家で休んでからあっちに行けば……?」

 後から転移してきたルーカスが、吐き気に蹲るカレンの背中を擦って介抱し、近くにあった椅子に抱き上げて座らせた。

「ルーカス大丈夫、のんびり寝てたなんてエディに知られたら……後が怖いよ! 監禁は絶対にいやだ!」

「……お前さ、あの優しそうだった彼氏君に、一体なにをしたら、あそこまで拗らさせる事が出来んの?」

「私は一体何をしてしまったのだろう……? 全く覚えがないんだけど、何が駄目なのか?」

 全く覚えがないとカレンは首を傾げる。

 カレンのその表情は本当に身に覚えが無さそうで。

「……自分が何をしたのか全く覚えが無い所が一番悪いんだろうな、お前は」

「そんな分析はいらん、早く帰らなきゃ……」

 アルスに帰ると言って、ふらふらと椅子から立ち上がるカレンをルーカスが支える。

 カレンの顔は転移酔いで青ざめていた。

「だからもう今日は休んで帰れ、序列一位と二位はどっかに酒を飲みに行ったし……家、送ってくから」

「……仕方ないか、朝いちで帰る事にする、ルーカスはよく平気だね……? 酔わないの?」

「まあ、慣れてるし? ほらカレン抱っこしてやるからおいで、家に帰るぞ」

 ルーカスがカレンを慣れたように軽々と抱き上げて、ゆっくりと転移装置から離れて歩きだした。

「ありがと。でも絶対に揺らすなよ、吐くぞ?」

「……怖いこと言うな」
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