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第五章 残酷な世界
244 日頃の行い
しおりを挟むたとえ怒っていても。
誤魔化されているとわかっていても。
優しく抱きしめて甘く蕩ける口づけをして、私を安心させて温めてくれる愛しい人の腕の中に収まっていると、震えもすぐに収まって。
心がその温もりで満たされて愛おしさが溢れだす。
「ん、エディ大好き」
「……それさ、普通の時にお前は言えないの?」
「ナンノコトカナ? エディ愛してるよー!」
「っく……それがさ、例えいいようにお前に誤魔化されているとわかっていても、やっぱり嬉しいっ……!」
「あははっ、エディのそうゆうとこ好き」
この言葉は全部本音で誤魔化しじゃないのに、私の愛しい人はとても疑り深い。
それらは全てエディに対する私の日頃の行いが悪いのだけど、素直になるのは難しいから仕方ない。
抱きしめあって甘い口づけを交わし他愛ない話をして、穏やかに流れる時間は私にとっては特別で。
そうしてエディと二人寝台の上で睦あっていると。
……部屋の扉が叩かれる。
いつもいつもまるで見計らったかのように邪魔しにくる人間達に、煩わしさをつい感じてしまう。
このまま無視してしまおうかとも思ったが扉の外から聞こえる声に、はたと気づいて。
「っえ……ちょっ……待って、カレン?!」
急いでエディをぺりっと引き剥がし、扉に走る。
そして開け放った扉の前には、まるで捨てられた子犬のような表情の私の可愛いホムンクルス。
「ホムちゃん! ごめんね? さみしかった?!」
「ご主人様ご無事、でした?」
ホムンクルスの身体をぎゅっと抱きしめて、安心させてあげる。
この子の精神はまだ未熟で幼児程度しかなくて、私がいないと駄目なのだ。
「大丈夫だよ、ほら私は生きてるでしょ?」
「はい、ですが……あまりご主人様の顔色がよろしくありません、身体の具合が優れないのでしょうか?」
的確に私が隠してる事を見破ってくるなんて、流石は私の作り出したホムンクルスで、褒めてあげたい気分ではあるのだが。
私の後ろで怖い顔して立っていそうな愛しい人に、絶対にコレ聞かれたよね……?!
「カレンお前、ソレには問題なく触れるんだな?」
「そんなの当たり前じゃないか! この子はね、私の分身……というか、我が子みたいなモノなんだよホムちゃんは! それに、こんなにも可愛いくて賢い! 怖いわけがないでしょう?」
「あー……うん? それでさ……体調悪いの? お前、どうしてなにも俺に言わない?」
……ほぉら、やっぱり聞いてた。
「大丈夫だよ? 気のせい、気のせい……」
「何が気のせいだ、賢者の石で回復したはず……効果切れたからか……いや、でも今回やけに早いな……?」
「……正直に白状するとあれだね? エリクサーも、賢者の石もほとんど効かなくなっちゃった、私の身体」
「……は?」
「なので、これから私は……瀕死の重傷を負いますと余裕でさくっとそのまま死にます! すごく残念だ!」
残念というかかなり不味い状況である、だって霊薬使用なしで世界樹の薬を作る事は命懸けでとても難しいからだ。
霊薬無しであの薬を作るならば週に二本が限度。
でも一日三本を世界樹に現在投与している状況で確実にそれだけじゃ足りないし、使用量も最近は明らかに増えていて。
……万事休す、後がない。
「じゃあお前……まだ身体魔力暴走の傷……」
「……痛みはないよ? ただちょっと貧血ぎみなだけ! だから心配しないで、私は大丈夫だよ」
「お前の大丈夫は全然信用ならん、安静にしてろ」
もうちょい信用をして欲しいけど、私の日頃の行いがエディをそうさせてしまうらしい。
でも、そうやって私の身体を心配してくれるのもエディの記憶が戻ったという証で。
「そうだね、今日くらいは大人しくしといてやろう」
「今日だけじゃなく当分の間は大人しくしてろ、ほらホムンクルスも心配そうにしてるぞ? 可愛い分身なんだろ、心配させてやるな」
「……ホムちゃんを引き合いに出すなんて卑怯だよエディ! ああっ、そんなつぶらな瞳をうるうるさせないでー! ざっ……罪悪感がっ! でも可愛い!」
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