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第五章 残酷な世界

237 痕と嫉妬

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 赤い血がぽたりと滴り落ちて、滲む。

 恐怖にその表情は染まり、必死に助けを呼んで、逃げ出そうと踠き暴れてもその細腕では男の力には敵わない。

 アルフレッドは離してと泣き叫ぶカレンのドレスの胸元を楽しそうに破り、その真珠のような肌に口づけて赤い痕を無数に残し柔らかな肌を楽しんだ。

 そして赤く色づく甘い唇を何度も何度も執拗に貪り、ドレスの裾から手を差し込んで、嫌がるカレンをアルフレッドが犯そうとした、その時。

 ……真っ赤な血が溢れ出した。

 カレンの身体は魔力暴走を起こし許容範囲を越えた魔力が皮膚を勢いよく突き破り外へと流れ出す。

 その激痛に踠き苦しむカレンは手をのばす。

 そしてカレンが最後に綴った言葉に。

 エディは、涙を溢す。

 『助けて……助けてエディ……』
 

 気が狂ってしまいそうになった。

 魔道具が映し出すその映像に怒りが込み上げてきて今からでも王城に戻ってアルフレッドを殺してしまいたくなった。

 エディは腕の中で眠るカレンを強く抱き締めた。

 血液が今も滴る身体をドレスを丁寧に脱がして綺麗に洗い、包帯を巻いて治癒の魔法を何度も重ねてカレンにかけた。

 だが流れ続ける血は一向に止まらずに、何度も何度も赤く染まった包帯をエディは取り替えた。

 このままでは本当に死んでしまう。

 執行官から渡された賢者の石をもうそのまま眠っているカレンに飲まそう、そのまま飲めば不老不死になると聞いていたが死ぬよりはマシだ。

 前回は何故かその効果が切れてくれてまた食事を取るようになったし、睡眠も取るようになってくれたが今回はどうなるかわからない。

 それによって人という定義からカレンが外れても、老化しなくなっても、子が産めなくなっても、絶対に失いたくない、そうエディが決意したその時。

 カレンが目を覚ました。

 魔力暴走を起こした身体が痛むのだろう苦悶の表情を浮かべながら起き上がり、自分の状態をとても冷静に確認している様はどこか他人事のような表情で。

 自分が傷付けられたのに、とても平然としてアルフレッドを俺達から守ったあの姿と重なった。

 カレンは自分を容易く犠牲にして傷付いても大丈夫と言って笑う。

 その姿はまるで自分には価値が無いと言っているようで腹立たしいし、俺があの時襲撃から守った事もカレンにとっては余計なお世話とか思っていそうで。

 大丈夫というカレンを引き寄せて抱き締めれば、途端に青ざめて拒絶反応を起こし震えだした。

 余程のアルフレッドに乱暴されたのが怖かったのだろう事がその行動でわかった。

 抱き締めて何が大丈夫なのか問い詰めれば、目線をそらし言葉に詰まるカレンは酷く怯えていた。

 そんな、カレンに賢者の石を飲ませれば。

 蜂蜜色だった髪がまた漆黒に染まっていき、サファイアの瞳は赤いルビーに変わる。

 そして傷付いていた肌は、また真珠のような美しい輝きを放ち欲を駆り立てるから眼のやり場に困った。

 ……さっきまでは傷にばかり目が行ってカレンの事をそんな風になんてエディは見ていなかった。

 どうしようかとエディが困惑していると、カレンが抱いてなんて震えながら言うから。

 男が怖いと怯え震えるカレンにいま触れてはいけないと、理解しているのに。

 アルフレッドに付けられた無数の赤い痕がエディの目に入り保っていた理性が飛ぶ。

 そして激しい嫉妬と甘く切ない愛に溺れた。
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