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第五章 残酷な世界

236 怒りと後悔

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 執行官アンゲルスの持つ首飾りは、カレンが所有する特権所有者を表す印章が刻まれた首飾りとは対になった魔道具だ。

 その魔道具はカレンの健康状態や大まかな居場所等を執行官アンゲルスに逐一知らせている。

 そして対になる首飾りが執行官に伝えたのは、カレンの生命の鼓動が消えたという信じられない知らせ。

 カレンの持つ首飾りも魔道具であり所有者を守る為の特別な機能が備わっているのに、それが起動された形跡もない。

 執行官アンゲルスは、その信じられない知らせに動揺しつつもカレンの居場所を調べれば。

 ……そこはアルスの王城で。
 
 転移装置特有の警報音を鳴り響かせながら、執行官アンゲルスとエディは、カレンが居る可能性に賭けてアルス国の王城に緊急転移した。

 緊急転移した王城で執行官とエディの目に飛び込んできた凄惨な光景に、二人は己の目を疑い激しい怒りに駆られる。

 寝台の上で赤い血に染まり美しかったドレスが無残にも破られて、明らかに無理矢理乱暴されたとわかるカレンの姿に。

 エディの失われていた記憶が、その衝撃とアルス国王アルフレッドへの激しい怒りによって呼び起こされた。

 怒りで目の前が真っ赤になった。

 だがエディは騎士団長をその若さで任されるだけあって、どうにか冷静さを取り戻し咄嗟にカレンの側に駆け寄る。

 そして緊急時の為に執行官に持たされていたエリクサーを急いでカレンに飲ませるが……。

 どれだけ深く傷付けられているのか、エリクサーの効果はほぼ見られずに、身体全体に刻まれた無数の裂傷から溢れ出す赤い血は、止まらない。

 なぜ、まだ生きて動いているのかと不思議になるくらいカレンのドレスは赤く血に染まっていて。

 どうして目を離してしまったのか?

 側にずっと自分が居てやれば拐われる事も、こんなに傷付けられる事もなかったはずで。

 どうして守ってやれなかった?

 もっと早くカレンが消えた事はに気付いて助けに来ていれば、命に代えても守ると誓ったのに。

 傷付き血に染まったカレンの姿が、亡き姉オリヴィアと重なって大切な人をまた失ってしまう恐怖がエディの精神を蝕んだ。

 沸き上がってくる憎悪。

 煮えたぎるような怒り。

 溢れ出す殺意。

 エディはその感情に全て委ねるように、呆然と立ち尽くすアルフレッドを殺害しようと剣を抜いた。

 だがそんなエディの前にカレンが傷付いた身体で立ちはだかり、防御魔法を行使して展開するから。

 何故、傷つけられたお前がアルフレッドを庇うんだとエディはカレンを退かそうとする。

 だがカレンは一歩も譲らなかった。
 

 ……その後、執行官アンゲルスがカレンと取り引きして防御魔法を止めさせれば。

 カレンは気を失いその場に崩れ落ちて。

「カレン……!」

 その小さく力ない身体をエディは強く掻き抱いた。


「……カレン様との約束です。アルス国王、貴方を私は殺しません、ですが! 本当は今すぐに八つ裂きにしてやりたい……!」

 執行官アンゲルスは怒気を孕んだ声で、アルス国王アルフレッドに叫ぶ。

「傷付けるつもりは、なかった、ただ私のモノに、カレンに……彼女に、私の妃になって貰いたかっただけ……だったのに……」

 アルフレッドは気を失ったカレンをじっと見つめ、その場に力なく項垂れて座り込む。

「アルフレッドお前……いったい何をした?! カレンを犯した……のか……?」

「……残念ながらまだ犯してないよ? でも、そのつもりだったよ。オースティンお前から……カレンを奪ってしまいたかった」

「っ……どうしてカレンを傷付けた?!」

「抵抗出来ないように……魔力封印具を使ったら……カレンが魔力暴走を起こしてしまったんだ。封印具をつけているのに、必死に抵抗し逃げようとして……何度も何度も……高等魔法を詠唱していたせいだろうね?」

「……最低だな、お前」

「……オースティン、君はよく仕えるべき国王に向かってそんな口が叩けるね……? カレンはね、私の妃になるために産まれてきた、なのに……! なんで……!」

 アルフレッドは腹立ち紛れに、カレンを抱き抱えるエディに食ってかかろうとするが。

 執行官に遮られ殴られて床に叩きつけられた。

「……護衛の騎士君、カレン様を安全な場所で休ませてあげて下さい、あとこれ賢者の石です、気がついたら飲ませて下さい」

「……賢者の……石……」

「……それと、一体何が起きたかはカレン様の首飾りで見られます、それで確認してください。それとその姿では醜聞の的なので、その首飾り……転移が出来るのでそれで転移してください、いっそ貴方の家にでも」

「え? あ、はい」

「私はまだやることがございますので、カレン様の事よろしく頼みましたよ?」

「っはい、わかりました」
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