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第五章 残酷な世界
229 沈む
しおりを挟む沈んでいく。
境界線が曖昧になる。
失われていく。
視界がぼやけて身体がだるい、熱い。
知らない香水の香り、アイスブルーの瞳……?
「全てを焼き尽くせ業火」
朦朧とした意識の中で、扱いの難しい高等魔法を詠唱するなど正気の沙汰ではないが、人の上に無断で乗っかってる野郎をどうしても燃やしたかった。
だがその魔法は顕現されなかった。
「あれ……もう起きちゃった?」
「どうして……?! っかここどこ?」
「……君の魔法の腕前は知ってるからね、魔力封印具つけさせてもらったよ? かなりの骨董品だからちゃんと封印できるかどうか不安だったけど……うん、ちゃんと出来てるね、それとここは王城の私の部屋」
「王城……封印具……アル貴方いったい何を考えてんの?」
首に付けられた魔力封印具に触れると、ゴツゴツとしていて重厚感があり手で引きちぎるのは無理そうだった。
「それにしても君はやっぱりすごいね、精神に干渉して眠らせたから数時間は目が覚めないはずだったのに……」
「私にこんなことして、それに誘拐なんかして、馬鹿じゃないの? いくら国王でもそれ、ただじゃ済まないよ? 貴方よく知ってるでしょ?」
「うん知ってるよ、それでも君が欲しかったんだ。だから手に入れた、でも、……君が私の子を孕めば……婚姻してしまえば執行官でも無下には殺さないでしょ?」
「……は?」
「少し大人しくしててカレン、私は君に乱暴なんてしたくないんだ、本当は眠ってる間に済ませようと思ってたけど……起きてる方がやっぱり私も楽しめるし、それはそれで良かったかな……?」
「っなに……言って……?」
寝台の上でアルフレッドは私の上に覆い被さっていて、その綺麗な顔を歪めて嬉しそうに笑うから。
ぞわりと背筋が凍るような嫌な感覚がした。
「君の初めて私が欲しかったのに、君は私のモノなのに、ほんと手の早い男だなオースティンは……やっぱり腹が立つね、私ねあの男嫌いなんだよね、小言ばかり言ってくるし」
アルフレッドの手が私の身体に触れる。
ドレス越しに触れただけなのに、その不快感で鳥肌が立つ。
「やだ、やめて、アルフレッド!」
寝台に身体を押さえつけられて。
逃げられない。
身体強化の魔法が使えなければ。
男の力には敵わない。
「ん、可愛いねカレン、こんなに美しく着飾って私を待っていてくれたの? 脱がすのもったいないな……」
首筋にキスしてくるアルフレッドを押し退けたいのに、どんなに力を込めて押してもピクリとも動かない。
「そんなわけないでしょ! 離してよ!」
肌に触れる手が気持ち悪い。
「君はね私の妃になる為にこの世界に産まれてきたんだ、最初から君は私のモノだったんだよ、知ってるでしょ?」
魔法が使えない。
「知るか馬鹿! アルなんて大嫌い!」
「……大丈夫、君は直ぐに私の事が好きになるよ、アイツにはもう会いたくなくなるから」
「離せっ! 触んな! エディ助けて! 誰か!」
「……カレン叫んでもそれ、無駄だよ? 誰もここには助けになんて来ないからね」
身体が熱い。
「業火っ……六花っ……いや、なんで?!」
首につけられた封印具が魔法の邪魔をして、身体の中の魔力は動かせるのにそれ出すことが出来ない。
「ああカレン無理だよ、それ罪人用だから絶対に外れないよ? 終わったら外してあげるから少しの間だけ我慢してね……」
「顕現せよ、燃やせ、凍てつかせろ」
アルフレッドの手が私に触れる。
「……え、カレン、これ血? どうして……」
気持ち悪い、熱い、痛い、痛い……!
「六花、凍らせて、やだ……触らないで」
「っ……詠唱をやめるんだ、魔力が! 魔力が暴走してる、カレン! だめだ!」
身体中に刺すような激痛が駆け巡り、視界がぼやけて赤く赤く染まって沈んでいく。
「業火、燃やせ、全て……を」
痛い。
熱い。
気持ち悪い。
助けて。
助けてエディ。
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