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第五章 残酷な世界
213 交差する想い
しおりを挟む予想外の突然の告白に赤面しカレンは狼狽えた。
だってエディは記憶を失くしているはずで、昨日キスしようとしてきたのもただの悪戯か性欲だと思っていたから。
まさか好きだと言われるなんてカレンは全く予想しておらず、言葉を失い睨み付ける事も止めて呆然とエディを見上げるだけで。
それについ告白してしまったエディもまさかここまでカレンが狼狽えるとは思っておらず、釣られるようにして赤面した。
そして先に気を取り戻したのはカレンで、慌ててクリスティーナに退室を告げて足早に部屋を出た。
それを執行官が直ぐさま後を追いかけた。
その表情は純白のローブで隠されて見えないが、きっとニマニマと笑っている事だろう。
そしてクリスティーナの部屋に残されたエディも気を取り直して退室を告げると。
「……まって! あのっ! オースティン様」
「……クリスティーナ様?」
「お姉様の事っ! ……好きって、本当に?」
「……ええ、彼女との記憶は失いましたし、たった数日しか彼女と関わる事がまだ出来ませんでしたが、お慕いしていますよ」
「そう、ですか……」
エディはクリスティーナの気持ちになんとなくだが昔から気付いてはいた、だがそれに応えるつもりは端から無かった。
彼女がアルフレッドの婚約者だという事も応えない理由の一つだったが、決定的なのはクリスティーナを女性としてエディが見ていなかった事。
幼い時からよく知る同じ五大公爵家の令嬢ただそれだけの存在で、ハッキリ言ってしまえば彼女はエディの好みではなかった。
カレンに出会ってからはその妹という存在に変化はしたが特になにか感じる事はなく、記憶を失っても特に何も変わらなかった、だからエディは熱く見つめてくるクリスティーナに何も気付かぬフリをして、部屋を出た。
その後、部屋に戻ったカレンを待ち受けていたブラックバーン夫妻は、赤面し押し黙る娘のその様子にどうしたのかと怒る気も失せて心配するが本人はもう答える気すらないのか沈黙し誰とも目すら合わせない。
そして後から戻ったエディに何があったのかブラックバーン夫妻は問い詰めるがこちらも言葉を濁し答えない。
なんともいえない雰囲気の二人にブラックバーン夫妻は、顔を見合わせてにんまりと微笑み、 『ここはお若いお二人で!』 という言葉を残し部屋から出ていく。
カレンは、また余計な事を……と閉じられた扉を一瞥するだけで、諦めたのか寝台にごろりと横になって本を読みだした。
そんなカレンをエディはどうしたもんか……と眺め見て、カレンのいる寝台に座り、話しかけた。
「カレン? さっきの言葉、本気だから……好きだから」
だが何ひとつ反応を返さず無視するカレンにエディは。
読んでいた本をサッと取り上げて横になっていたカレンの上に押さえ付けるように乗り、本を取り上げられた事に驚いたカレンに強引にキスをした。
「んぅ? やっ……な、に……して……?!」
「やっとこっち見たな?」
エディが強引にカレンに迫る事は今まで多少はあったが、押さえ付けて無理矢理キスしてくる事なんて一度もなかった。
それに押さえ付けてくる手が……痛い。
雑に扱ってくる事は時折あったが、痛みを伴うような乱暴をしたことなんて今まで一度もなかったのに。
「痛いっ、はな……して……」
「カレン、無視すんなって言ってるだろ?」
どうしてこんな事をするのかと見上げれば、見下ろしてくるエメラルドの瞳が熱を持ち欲を孕んでいて。
……カレンはとても嫌な予感がした。
「どうしてこんな事……」
「恋人同士……だったんだよな? なんでそんなにお前は冷たいんだよ、俺の事も好きになれよカレン」
「乱暴なヤツなんてイヤ! 馬鹿な事してないで早く記憶戻してよ、それにこんな早く惚れるとか……あり得ないから!」
「記憶……いつ戻るんだろ? 別に困ってないからいつでもいいけど……とりあえずカレン、抱いていい?」
「なっ……、良くない! どうしてあんたは記憶なくてもとりあえずヤろうとすんの?! 退け馬鹿ー!」
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