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第五章 残酷な世界

209 双子の姉妹

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 朝のガルシア公爵家の図書室で、生き別れた双子の妹に面と向かってきっぱりと 『嫌い』 と言われたカレンは、驚いた。

 なんとなくだったが態度や声音、雰囲気で嫌われていそうだなと気付いてはいたし、元々カレンはクリスティーナとは仲良くするつもりが無かったから、それに衝撃を受ける必要もないのだが、直接言われると嫌われているとわかっていても胸に響くものがあった。

 それに例えそう思っていたとしても、お貴族様感満載で淑女の鏡のようなクリスティーナならば建前を重視して誤魔化してきそうだなとカレンは予想していた。

 なのにクリスティーナにカレンは 『嫌い』 だと宣言されてしまい、ついぽろりと涙が溢れた。

「え……お姉様?! どうして泣いて?!」

 ぷるぷると小刻みに震えサファイアの瞳から大粒の涙を溢すカレンは、同い年とは思えないほど幼くてクリスティーナは猛烈に罪悪感に駆られてしまう。

「っう……ごめんー! 私……クリスティーナになんかした?! 最初から名前すら呼ばれなくて、嫌われてそうだなって思ってたけど……」

「う……それは……、貴女が……国外追放なんかされたせいで……、私は自由を奪われました! 私はアルフレッドなんかと婚約なんてしたくなかった……!」

「え……、もしかしてクリスティーナもアルの事、生理的に受け付けない系?! 私と一緒だね? お揃いだね! なんか双子っぽいね?!」

 皆無だった双子の妹との初めての共通点が見つかって、カレンは双子っぽいと面白がって途端に笑顔になる。

「……いや、それ喜ぶ所じゃないと思いますけど?!」

 つい姉にツッコミを入れてしまうクリスティーナは、カレンとは違い一般的な常識があったし、生理的に無理だと言われているアルフレッドの事が少しだけ不憫に思えた。

 それは婚約者であるアルフレッドがカレンに惚れている事実をクリスティーナが既に把握していた為である。 

 普段はクリスティーナ自身がアルフレッドに対し辛辣な言動をしているが、その事実を知っているとちょっと可哀想かなと生まれて初めて大嫌いな婚約者に同情したのだった。

「いやでもさー、そんなに嫌なら婚約破棄しちゃえばいいんじゃね?!」

「そっ……そんな事できる訳がないでしょう?! これは五大公爵家が持ち回りで王家に嫁ぐという古くからの慣習で、大公爵家としての義務なのです!」 

 なんでもない事のように気軽に 『婚約破棄しちゃえば?』  明るくそう言って来るカレンにクリスティーナはとても驚く。

「えー? そんな慣習とか守る必要性……ある? 貴族って言ってもさ、クリスティーナは別に爵位とか持ってないじゃん?」

「それはそうですが、……出来れば私だってアルフレッドとなんて今すぐ婚約破棄したいです! でも……そんな事は許されません。この結婚はこの国の貴族としての義務なのです!」

「ふーん、義務ねえ? クリスティーナがね、何かその婚約によって利益を得ていたならばそれは守らなければいけない責任があると思う、けど同意なく婚約させられたのでしょう? 権利もない義務なんて糞食らえだよ」

 『嫌なら辞めればいい』 それはクリスティーナがずっと誰かから言って、助けて欲しかった言葉だった。

 それをまさかカレンに言われるとは思っていなかった。

 一度、姉であるカレンと二人で話してみたかったが中々その機会に恵まれず今日たまたま図書室に入っていく所を見掛けてクリスティーナは急いで追い掛けてきた。

 図書室に入って姉を見つければぴょんぴょんと、本をとろうとして跳ねる小さな後ろ姿にどうしてか笑いが溢れた、笑う事なんて最近は全くなかったのに。

 そして可哀想だと思って蔑んだり勝手に嫉妬して憎んだりしていた姉は、話してみれば想像とはまるで違った。

 見た目とはまるで違うサバサバとした明るい性格に頼りがいのある包容力は話していてとても楽しいし、心地いい。

 つい 『嫌い』 だと発言してしまった事をクリスティーナは取り消したくなった、本当はそんな事を言うつもりなんてなかったのに……。

「……っごめんなさい! お姉様、嫌い……だなんて……私、自分の境遇をお姉様のせいにして……好きで国外追放なんてされた訳じゃないのに!」

「あー……まあ、びっくりしたけど別にいいよ、辛い状況をさ? 他人のせいにしたくなる気持ち私もわかるもん、大丈夫だよクリスティーナ、そんな顔しないで?」

 そう言って明るくにっこり笑ってくれる姉カレンにクリスティーナは、なぜかとても安心して張り詰めていた気持ちが溢れだす。

 クリスティーナはそのアイスブルーの瞳からぽろぽろと涙を溢して縋りつくようにカレンに抱きついた。

「お姉様ぁっ! ごめんなさい……!」

「ええ?! く、クリスティーナ?! うわ、ちょ……なんで泣いて……え、私なんか不味い事、言ったか? えーどうしよ……」

 誰かに泣きつく事はあっても泣きつかれる事など初めての経験であるカレンは、妹に抱きつかれ泣かれてしまいどうしたらいいのかわからなくて最初狼狽えたが。

 だが、そういえばこういう時エディは頭を撫でてくれたなと思いだし、クリスティーナの頭を優しく優しく撫でてやれば。

「お姉様ぁっ! 本当は大好きですぅ!」

 と、妹に言われて悪い気はしなかった。

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