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第五章 残酷な世界

203 やり場のない憤り

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「リゼッタ、指輪ってなに?」

「……そのお話は少々置いといて頂きまして、カレンお嬢様から離れて下さいませ?」

「いや、置いとける訳がないだろう? なあ教えろよ、この子と俺って本当に恋仲……だったのか?」

「エディ坊っちゃん? その事についてはリゼッタからは何とも言えません。私は今、カレンお嬢様のメイドでございます」

 リゼッタは取って付けたような笑顔で話をそらし明らかにその失言を隠そうとするから、先程の言葉が真実だと確信した。

 腕の中で泣き疲れて眠る、傾国の美姫かと思える程に愛らしいこの少女と恋仲だと知り嬉しくなったが、それと同時にどうして無視された挙げ句大嫌いとまで自分はなぜ言われなければいけなかったのかと疑問を持つ。

 だが、今それをこの子を起こして聞くのも違う気がして抱きついてくる腕を起こさないようにほどき、寝具をかけてやる。

 すやすやと眠る姿は大変庇護欲を刺激してとても離れがたかったが、リゼッタが睨み付けてくるので諦めて離れた。

「それでリゼッタ、何の用だ?」

「此度の件で国王陛下がこちらに参られております、エディ坊っちゃんもご一緒に話し合いをと、お呼びでございます」

「その間のこの子の護衛は? 一人にしてはおけないぞ?」

「お部屋の外にイーサン様がいらっしゃいますが……」

「イーサン……一人だけか?」 

「はい、エルザ様は……その、泣いておられまして」

「……そうか」

 俺に記憶がないだけで、オスカーとは短期間でも共に護衛をしていたた仲、その間に情が沸いていたとしても不思議ではない。

 嫌味を言われたくらいしか記憶に残っていない赤の騎士団の団長、どうしてこんな事をしでかしてしまったのか不思議でならない。

 
 アルス国王陛下を交えた話し合いは終始重苦しい雰囲気に包まれて、集まった騎士達はオスカーの最後に立ち会ったエディの言葉に食い入るように聞き入った。

「護衛対象カレン・ブラックバーンが研究室から自室に戻る途中に、異音がガルシア公爵家に鳴り響き、玄関ホールで遭遇した赤の騎士団オスカー団長が護衛対象に抜刀し剣を振り上げた為にこちらも抜刀し防ぎました、その後国際連合の執行官の魔法によりオスカー団長は絶命致しました、それが私が目撃した事の顛末です」

「……なにか、オスカーは言っておったか?」

 白の騎士団ガスパルが悲痛な面持ちでエディに問う。

「そうですね、護衛対象の事を魔女だと罵倒してましたが、その程度の事しか……いってませんでした」

「そうか、どうしてこんな馬鹿な事を……、あいつは……!」

「だが、今回もよくぞ英雄様を守ってくれた、よくやったな、オースティン騎士団長」

「え……はい……」

「ああ、そういえば……先の襲撃の負傷で、記憶に混乱があるとか言っておったな、早く記憶が戻るといいな」
 
「あー、はい、お気遣いありがとうございます……」

 ガスパルは肩を落としため息をつき、他の騎士達も酷く動揺し何故だと口々に言って悔しそうにしていた。

「オースティン騎士団長、引き続きカレン様の護衛をよろしく頼みます、何があっても必ずお守りして下さい」

「……はい、国王陛下」



 綺麗に片付けられた玄関ホールは何事もなかったかのようで、今日起こった事が信じられなかった。

  ……慌ただしくガルシア家の使用人達が動き回る中で、エルザは一人涙を流しオスカーの死を受け止められずにいた。

 所属する騎士団は違えど共にカレンを護衛して大切に見守っていた仲で、少なくない時間を共に過ごした。

 カレンがアルスに帰国した時も、一緒に転移装置まで迎えに行ってその帰国を喜んだばかりじゃないか。

 そんな人間がどうして急に……!

 ……本当にどうしてと、やり場のない憤りが込み上げた。
 
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