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第四章 喪失

189 お詫びの品

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 早朝の静かなガルシア公爵家で、カレンの朝の身支度の手伝いをするリゼッタに、その側で護衛につくエルザ。

 普通は使用人達すら目覚めぬ早い時間だが通常のカレンの起床時間なので、カレン専属メイドのリゼッタと、護衛のエルザは特になにか気にすることもない。

 普通貴族のご令嬢は夜遅くに寝て昼前まで寝ている事が多いが、カレンは健康的で日が沈むと寝て夜明けとともに起きる生活だ。

 カレンは朝の湯浴みを終えて化粧台の前に座っており、リゼッタによって艶やかなハニーブロンドに香油をたっぷりと染み込ますように塗られ可愛らしく編み込まれ、宝石が散りばめられた髪飾りを飾られてしまう。

 そして真珠のように淡く光を帯びたような肌にもほんのりと香油を塗られ、艶やかな唇にもほんの少し紅をさされ、遠い目をする。

 あまり華美なものを好まないカレンは、普通の令嬢達が着るものよりもだいぶ質素なワンピースをリゼッタは用意したが、やはりそれでもお気に召さないらしく、嫌そうな顔をする。

 一通りの身支度を済ませ解放されたカレンは寝台の上でいつものようにごろごろと寛ぎ、お茶を飲みながら本を読み始める。

 その頃になるとガルシア家の使用人達もやっと起き出して活動を始め屋敷は一気に騒がしくなっていく。

 久しぶりのそんな穏やかな朝に、エディがカレンの部屋に執行官を伴いやって来て。

「リゼッタ、もうすぐしたらカレンと二人で出掛ける、寒くないように防寒着の用意してくれ」

「お出かけでございますか? 一体どちらに?」

「……詳しくは話せないが、こちらの執行官の指示だ問題ない、直ぐに用意を頼む」

「まあ……、そうでございますか? かしこまりました少々お待ち下さいませ、直ぐにご用意致しますわ」

 と、エディはカレンには明らかにそれ嘘だとわかる言い訳をして、リゼッタに外出の用意をさせる。

 だがそれによってカレンはこのデートはそこの執行官も一枚噛んでるのかと少々嫌な気分になるが、アルスで未婚の婚約していない男女が二人で何処かに出掛けるのはダメらしいので仕方ないかと、納得した。

 カレンは、リゼッタの用意を待っている間に再び本でも読もうかと寝転がろうとしていると、ガルシア家の老執事がカレンの部屋を訪ねてきて。

「お休みのところ申し訳御座いません、カレンお嬢様宛にイクス国よりお届け物が届きましたが、いかがなさいましょう? 研究室にお運びすればよろしいでしょうか、それともこちらに?」

「あー、もう届けにきたのか、仕事が早いね。執事さん、ちょっとここに持ってきてきて貰える?」

「はい、かしこまりました、直ぐにお持ち致します」

 そしてガルシア家の執事によってカレンに貸し与えられた部屋に運び入れられたその大きな木製の箱。

 その木箱をカレンが寝台から降りて開ければその中には、一振の美しい剣が収められていた。

 それをカレンは手に取り、宝石が嵌め込まれ金で装飾された鞘から剣を取り出してじっくりと観察する、その刀身はとても美しく美術品と言われても納得するほどのもの。

「……うん、間違いないね」

 エディは訝しげに剣とカレンを交互に見て、次は何をやるつもりだと警戒し探るように観察していると。

「この剣をエディに貸す、本当は譲渡しようかと思ったんだけど、これ譲渡するとちょっと問題が出るらしいから貸すという形にした!」

 カレンはとても強引にその剣をエディに押し付け、契約書に署名させようとする。

「いや、貸さなくていい、それ美術品だろ?」

「いやまあ装飾は確かに美術品みたいだけど違うよ? エディのその剣さ、この前勝手に使って汚しちゃったから……こっち使って? お詫びの品です……」

「いや、この剣は汚れても別に問題はないが……」

「え、でも……! 使わないともったいないし? 遠慮なんてせず使って使って!」

「でもこれ……絶対に高いだろ……」

「え、あー……まあ、大丈夫大丈夫!」

 大丈夫、大丈夫と言いつつ目線を泳がせ、言葉を詰まらせるそのカレンの様子に絶対にそれ大丈夫じゃないヤツだとエディは嫌な予感がして。

 カレンに返却しようとしていると、執行官がピクピクと顔をひきつらせながら、その剣を指差す。

「あ、あ……なんてものを……所有してるんですか、カレン様は! それどこで売買したんです?! 私はその売買情報知りませんよ! いつどこで?! いいな!」

「……オークションで競り落とした! 上得意様専用の裏オークションだもん、そりゃ知らないだろう! これ競り落とすのすごい大変だったんだよ! さあエディ使用者として登録しようか? 登録しないと鞘から抜けないんだよねこの剣、面倒だね」
 
「そりゃ大変でしょうね?! 私もそのオークションに参加していたら絶対に競り落としますもん!」

 物欲しそうにする執行官を無視して、半ば強引にカレンはエディにその剣を握らせて、使用者として登録を行う。

「レーヴァテイン所有者カレン・ブラックバーン、これより使用者をこの者とし使用権のみ譲渡する!」

 と、高らかに宣誓し契約書に署名捺印を施した。

「レーヴァテイン……?」

「この剣の名前、ほらエディここ早く名前書いて」

「名前付いてる剣とかそれやっぱりこれ美術品……」

 嫌そうに渋々とその契約書に署名し、カレンからエディにその剣は手渡された。

「美術的な価値もあるけど、それ凄く強いから!」

「じゃあ自分で使え」

「私は錬金術師、剣など野蛮な物は使わん!」

「……それお前が言う?!」

 キリッと言いきるカレンに呆れたようにエディは、ため息をこぼし渡された美術品のようなその剣を今まで剣帯していたものを外し、諦めて持つ事にした。

 美術品のように美しい剣を腰に剣帯し、黒の騎士服に身を包んだ芸術品のような容姿を持つこの男をカレンは幸せそうに眺め、やはり良く似合うと満足そうに頷き、やはりこれを買って良かったと思った。
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