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第四章 喪失
179 イクスの最高位
しおりを挟むふんわりとした薄紅色のロングワンピースに触り心地の良い温かな白のカーディガン、美しく繊細に編み込まれたハニーブロンドをサイドで色とりどりの宝石が散りばめられた髪飾りで止めて、靴は可愛いお花があしらわれた白のショートブーツ。
いつの間にこんな可愛らしいワンピースや靴をこの男は用意しているのか、それは大いなる謎である。
「……エディが私の服選ぶとさ? 何故こんなに可愛らしくお姫様みたいにされてしまうのか。絶対に趣味だよね? それに相変わらず髪弄るの上手いね?!」
「何をいまさら言ってんだ? うん、可愛い!」
人の髪を楽しそうに丁寧に編み込み、そして結いあげて満足気にその可愛らしい出来上がりを眺めひとり頷き納得するのはこれでも一応騎士団長である。
エディに選ばせると可愛くされてしまうから苦手だが、私にアルスの標準的な服装などわからない。
鏡に映るそのあまりにも可愛らしいお姫様のような出来上がりに顔がひきつるのは許して欲しい。
「まあ……いいや、行くか! 終わったら肉! エール! お洒落なコース料理はもうお断りする!」
「肉とエールなんて組み合わせはこの屋敷だと無理じゃね? まあどうにかするか」
うんざりするほど歩きにくい可愛らしい靴を履いて、スカートの裾を蹴り上げながらふんわりと揺らせば、どこぞのお嬢様に今なら見えるかも知れない。
そしてエディにエスコートされてやって参りましたのは本日二度目のガルシア家の応接室で。
その応接室の扉の前には白い騎士服を着用した若い騎士達が数人ほど控えていてエディとなにやら目配せをして、その扉は開かれた。
騎士達によって扉が開かれるとそこにはガルシア公爵夫妻と我が双子の妹である公爵令嬢のクリスティーナ、その隣にアルス国の国王陛下アルフレッドが座っていて、高貴でやんごとない気品漂うその雰囲気にさすが王侯貴族だなと自分との違いを見せつけられた。
若き国王アルフレッドの後ろには狩猟大会で私に押し付けられた老騎士ガスパルやイーサンの父親ジョーンズか控えていて、部屋の中を見渡せばエルザとイーサンがニコニコと笑顔で手をこちらに振っていて、執行官がつまらなさそうにあくびしていた。
アルフレッドとクリスティーナの向かいの席に座れば私の後ろにエディが控える、隣に座ってくれないのは寂しいがこういう場だとアルスではこうなるのは仕方ないと一応わかっている。
「突然訪ねてしまいすまない。君に大事な話があってね? それでこちらに滞在していると聞いて会いに来たんだ。出来ればカレンと二人で話したいのだが、いいだろうか?」
私が席に着くや否や挨拶もなしに、アルス国王アルフレッドは提案とは名ばかりの要求を繰り出してきて、ガルシア公爵夫妻や婚約者のクリスティーナや護衛達は何故とその真意を掴めない。
だが私には大体予想が付いた、だが今回私にはその要求に応じるつもりがない、前回それで求婚なんぞされたので私はとても警戒している。
「その提案は残念だけど、実現は出来ない。でもアルス国王である貴方には私も話があるからここで話そうか、あとこれは公式的な会談ということでいい? 」
「え? カレン、公式的って、どういう……?」
二人きりで話したいというアルフレッドの願いを拒絶すれば、まさか私に断られると思っていなかったのか驚いて目を見張って悲しそうに眉を寄せる。
「さて、アルスの国王は私に話があると仰られましたが、それは友人として? または国賓として? それともイクスの最高位の私に? それによってこちらの対応も返答も変わりますが、それはよろしいでしょうか?」
「……ああ、うん、いいよ」
「では、まずは私から公式的にアルス国の国王にイクス国の最高位として発言させて頂きますが、今回の三国同盟の軍事会議がアルスで行われる件について我が国と致しましては大変遺憾に思っております、これ以上我が国を無駄に刺激されますと再びこの地が戦火に見舞われることを重々お見知りおき下さい」
「っそれは! 仕方なかったんだ……!」
にっこりと笑顔でそう言ってやればアルフレッドはその美しい顔を歪めるがこれはアルスが悪いので仕方ない、だってその軍事会議の内容や演習ってどう考えても対イクスなのだから、こちらとしては絶対に黙ってはいられないのだ。
周囲が私達の会話に唖然としてるのが手に取るようにわかる、そりゃ突然そんなことを言い出すなんて予想外だろうし、なぜ私がそれを言うのかここにいる一部の人間しかそれを知らないだろう。
「それで、アルスの国王のお話というのはどういったご用件でしょうか? 」
「あ、いや……その、皇女の件で、貴女には多大なる迷惑をかけた、その事について謝罪したくて……」
「……そちらの謝罪は受け取りましょう」
そして私が作り出した殺伐とした会話がぷつりと途切れて、その場を気まずい重苦しい沈黙が流れた。
「……最高位とは一体なんだい?」
それを打ち破ってきたのはガルシア公爵で一部の人間以外がきっと気になっているであろう事をさらりと質問してきたが、答えたくはないので私は沈黙を貫く。
「イクスの国家元首みたいなものですよ、イクスの場合それが複数人いらっしゃいますがカレン様はそのお一人ですね? 正直言いますと国家元首を国外追放するなんてあの国ほんと頭がおかしいんですよ! しかももう一人は幽閉されてますし、もう一人は現在行方不明中でね、何がしたいのか私もわかりませんね」
「娘が……国家元首……?」
「ええ、あとは国軍の元帥でしたっけ?」
「……え? カレンが国軍?!」
だけどそんな事なんてやっぱり空気を読む気が全くない執行官には関係なくて、余計な事をペラペラと喋ってガルシア公爵だけじゃなくてエディまで反応し始めて。
「それをね他国でほったらかしにしておいて、都合が悪くなれば直ぐに引き戻し利用しようとするんですよあの国! すごい腹が立つでしょ?!」
「いや、別に私は利用されてないし? 帰りたくなったからちょっと帰ってついでに仕事してきただけだし?」
「……そしてそれがこうやって普通だと思うように幼少期から教育するんですよ、国に個人で貢献するように階級制度なんて作って……ね?」
……そして痛い所ついてくるからやっぱり嫌いだ。
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