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第四章 喪失
173 魔力無しの錬金術師
しおりを挟むガルシア公爵が用意した部屋は、一階の図書室横の陽当たりのとても良い客室で。
現在は急務で家具などが運び出しが行われていて、いつもカレンが利用している商会からは大量の素材がガルシア家に搬入されていた。
そしてカレンはいつも着用していた錬成用の服は、アルスの気候があまりにも寒すぎて着用が困難となった為に。
仕方なく最高位だけに着用が認められるという大変高価な生地をふんだんに使用した黒衣を着用する。
それには防御の陣等が施されており一見すると漆黒だが角度によって色彩が変わるとても美しいモノ。
だが本人は着用するのをあまり良しとはしないが、とてもよく似合っているし普段着用している物と比べてアルスで着ていても違和感がない。
「やっぱりこれ常時着用はしたくないな、引きずって歩くのってさ、肩が凝るんだよね……!」
「ですがもしもという事がありますからね? 安全策は講じておいて何も損はありません。あとカレン様、今回の錬成は私もお手伝いをさせて頂きますね」
「……私仕事してる所を見られるのすごく嫌なの知っているよね? 気が散るからやめてくんない?」
「カレン様、それは重々承知の上でございますが、今回ばかりは立ち会わせて頂きますよ、確認致したい事もございますのでね?」
「うげぇ……!」
心底嫌そうな顔をしてカレンは執行官を睨む。
「……カレンあのさ? 今回は俺も一緒に錬成に立ち会ってもいいか? 一度お前の仕事を、錬金術をちゃんとこの目で見てみたいんだ」
「は……? エディも!?」
「……いっそガルシア家の方にもカレン様の勇姿を見て頂きましょう! カレン様がいかに素晴らしく崇高なのかを周知徹底致しましょう! 善は急げです!」
「あ? こら! てめえっ! 余計な事ばかり考え付くんじゃねぇ!」
良いことを思い付いたとばかりに執行官は一度手をパンッと軽快に打ち、キラキラとした笑顔でそう言ってウキウキと弾む様に何処かに行ってしまう。
残されたカレンは苛立たし気に舌打ちし、用意された部屋の寝台にごろりと寝転がり本を読み出す。
「なあカレン? お前さ、どうしてそんなにも仕事している所を見られるのが嫌なんだ……?」
「……錬金術は穢らわしい愚行で、錬金術師は神の領域を犯す不届き者、そして魔力無しは異端っていうのが世界の一般的な認識だったのエディは知ってる? たまたま私が世界にとって有用な存在になったから少しは改善したけど魔力無しである錬金術師達はね差別対象だったんだよ、まあその差別は今もなお続いているんだけどね?」
「いや……知らない、そんなこと初めて聞いた」
「きっとエディの周りの人達は人を妬んだり、憎んだり、ましてや蔑んだりするような下劣な人間なんて一人もいないんだろうね? でもアルスからイクスが独立し、戦争を起こした理由がそれなんだよ」
「カレン……」
「だから私だけじゃなくて錬金術師は仕事を人に見せたがらない、あと錬金術の製造法は基本的に隠匿するんだよ、それは財産だからね? 書物に記して公開されてるものもあるけど錬金術師達はそれを独自に改良して自分だけの技法にする」
「……やっぱり、見ない方がいいか?」
「んー本当はあまり見せたくないけどね? まぁ今回は特別に錬金術師のお仕事を見せてあげる。どうせあの執行官が余計な事を今しているだろうし……ね?」
語られたその事実は、魔力無しと鑑定されて国外追放されたカレンにとって忌まわしい現実で。
今まで一度もそれに触れた事がなかった。
事実としてはそれを知っていても、カレンがアルスから魔力無しの烙印を押されて追放されていたという過去がエディにとっては現実味が全く無かった。
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