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第三章 毒であり薬
149 熱い
しおりを挟む石畳を走る馬車の中は車輪の軋む音や、馬の蹄鉄が響くが一定の旋律で不快ではない。
だがその車内には剣呑な表情で苛立ちを隠さず、眉間に皺を寄せても無駄に美形の青年が不快感を露にしていた。
その青年の不快感の原因を作った黒髪の美少女は、その青年からの淡々としたその容姿に似合わぬオネェ言葉を駆使した追及に珍しくたじたじとなり。
苦笑いを浮かべて、嵐が過ぎ去るのを待っていた。
「いや、ほんとに私はなにも知らなかったんだよ?」
「……カレンには私が今どんな気持ちかわかる?」
イクス郊外地域にあるカレンの実家からの帰りの馬車で、先ほど聞いてしまった初めて耳にする不愉快で嫉妬心を非常に煽られる事実にエディはカレンに詰め寄る。
律儀にカレンと約束したオネェ言葉を使って。
「う……。ごめんって? いや、でもさ? 私の知らない所で打診一回されただけで別にルーカスとは何もないんだよ?」
「そういう問題じゃないでしょう? ルーカスの事だけじゃない、貴女は国王陛下にも求婚……されていたわよね?」
「……そ、そんなのどうせ冗談か嫌がらせでしょ、いちいち気にするだけ無駄だって!」
「一国の王が冗談で英雄に求婚すると、本当に思っているの? 鈍感なフリはよしなさい、わかっているんでしょう? 国王が貴女に本気な事くらい」
エディはカレンの瞳をじっと覗き込む。
それにカレンは固まって。
エディはそのままカレンの瞳を見つめて。
絶対に話をそらすなよ? と、目で語り脅す。
「いや、それは! でも……さぁ?」
「……それに貴女は自分の事を全くわかっていない、どれだけ自分が魅力的で、可愛らしいのか。貴女の美しさにどれだけの男達が魅了されているのか」
そんな恥ずかしい言葉を平然と言ってのけて熱い視線をたっぷりと注ぎ、そして正面の席からカレンの隣に座り直したエディは。
愛おしそうに微笑みカレンの頬にそっと触れる。
そのエディの言動にカレンは頬を赤く染めて、熱に浮かされたような気分になって甘い雰囲気になるが。
その自分に触れた大きな手と、エディの普段とは違うその様子にカレンは何か違和感を覚える。
「あれ、エディ? なんか……手、熱い?」
触れた手の熱にもしかしたらと思い立って。
隣に座るエディの額にそっと手をあてると、熱くてその表情は気だるそうで。
そしてエメラルドグリーンの瞳は潤み、男性なのにとても色っぽくて艶かしくて。
見てはいけないものを見てる気がするのにカレンは、そんなエディから目が離せない。
「ああ、ちょっと熱があるみたいね? でもこれくらい何も問題ないから心配しなくて大丈夫」
エディは、安心させようとカレンにそう言うが。
その熱と症状はなにか。
……カレンにはとても覚えのあるもので。
「いや、これってエディ、……魔力暴走じゃ?」
「え? っあ。 ……やべ!」
「っくそ! こんなことして遊んでる場合じゃない! 急いで出国するよ! 御者さん! 今すぐ行政府の方に行って! 急いで!」
カレンは慌てて御者に行き先の変更を急ぎ伝える。
馬車はもうカレンの自宅近くだったが急いで方向転換し、カレンの指示に従い国の主要施設が集まる街の中央に向けて走り出した。
「いや、でもお前仕事は? まだ沢山残っているんだろう? それに遊んでって……」
「ああ、仕事はとっくに終わってる! アルスに行きたくなくて引き延ばしにしていただけだしー?」
「っておま! あー……くらくらする、気持ち悪い」
口元を押さえて吐き気を我慢するエディはとても辛そうでカレンはその様子に手持ちのポーションを飲ませるが、効き目が全く見られない。
魔力暴走にはポーションでは役にたたないらしい。
「エディ大丈夫!? あの野郎……! ちゃんと改造出来てないじゃん! いつか殺す!」
そして不完全な魔力封印具を作った幼馴染みに苛立ち、ふつふつと殺意が沸いて。
次に会ったら許さないとカレンは心に決めた。
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