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第三章 毒であり薬

118 歯がゆさ

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 ガルシア公爵に叩きつけるように、わざわざ持参した薬を手持ちのモノだと渡してカレンは生家から不機嫌そうにして出て行く。

 馬車に乗ったカレンは一息つくと気が抜けたのか、不機嫌そうな表情が少し緩む、その様子をエディは見つめ不器用な子だなと思う。

 だけど、こうやってカレンに自分もあの時に救われていたのだろうと想像してやるせない気持ちになった。

 何かある度にカレンは全てひとりで抱え込み、それに泣き言を言うでもなく誰に頼るでもなく、自分が傷つくことも全く厭わずに、笑顔で自身を犠牲にしてしまうから。

 きっと今も何かをひとりで抱え込んでいて、また隠れて泣いて居るのだろう、誰にも頼れずに。

 あれからカレンは俺から逃げている。

 あの日から必要最低限しか部屋から出てこないし、話しかけても無視してくるし、もしかしたら自分がカレンに何かしてしまったかと考えたが、帰国を引き留めたくらいで思い当たる節がない。

 それに何があっても泣いてる所など見せることが殆どないカレンが涙を隠しきれずに泣くなんて。

 愛する人に頼ってもらえない歯痒さと、支えてやれない自分の無力さにエディは自身に苛立ちを覚えた。

 それに国王陛下と再び会談が行われてからのカレンは、なにか様子がおかしくなって、考えたくない疑念が浮かんでは消えて、あのカレンの説明だけではエディには納得が出来なかった、本当に何もなかったのか?


 屋敷に戻りカレンは例のごとく部屋に籠ろうとするから、そのまま一緒に入り鍵をしめる。

「え? エディ、なにしてんの?」

「お前に聞きたい事があるんだけど?」

「なに」

「国王陛下と本当は何があった?」

「っ……なにもないよ? なんでそんな事」

 明らかに動揺するカレンのその様子に決して考えたくない、想像すらしたくなかった可能性が浮上し平常心では居られなくなる。

「お前さ、本当は陛下に抱かれたんだろ?」

「……え? エディなに言ってんの? そんな事あるわけがないでしょう?」

「……じゃあ、身体を確認させて? 何もないなら問題ないよな? ちゃんと処女か確認するだけだから大人しくしてれば直ぐに終わるから」

 その瞬間バチンと、カレンはエディの頬を手慣れた動作で平手打ちする。

「……ひとが大人しくしてりゃ調子に乗りやがって、何が確認させて? だよ、この変態! ほんといい加減にしろよ? そんな馬鹿みたいな理由で気安く触ろうとすんな! えっち!」

 久しぶりに見せた素の表情のカレンにエディはつい嬉しくなってしまう、殴られたのに。

「でも、カレン……!」
 
「あーもう! しょうがないな。……まあ、アルには好きとか求婚はされたけど? でもなにもない」

「え、陛下に求婚された?」

「一目惚れがどうこう言ってたけど知らね!」

「知らねってお前……」

「だって好きとか嫌いとかさ? 恋愛とか面倒じゃん? 私と関係ない所でして欲しい」

「それを……お前は俺に言うのか」

「だって、……私が好きなのは、好きになってしまったのは、エディだけだもの」

「っあ、お前……」

「……何を今更赤くなってるの? これでもういいでしょう? ひとりにして」

「……嫌だ」

 エディはカレンの手を掴み抱き寄せる。

 それに抵抗されない事に少しエディは安心して、息を吐くが。

「……前に言った事を忘れるの早くない? もうボケたの? 私みたいな馬鹿は知らないんじゃなかったのか? とりあえず離せ、変態」

「変態扱いしてくんな、好きな女抱きしめて何が悪い、……求婚断るよな?」

「そんなのエディに関係ないしもう離して? 私に触らないで、私はもうエディの側になんて居たくない」

 やはり、カレンのそっけない態度は緩和することなく、エディとの間に壁を作ろうとする。

 エディには、カレンの拒絶の理由がわからなくて焦りを感じた。

「……何なんだよ、この間からお前、それ傷つくんだぞ? なんで俺より先にお前に求婚してんだよ陛下は、カレンは俺のなのに」

「は? いつ私がエディのになった?!」

「俺の事好きって言ってくれてるだろ? 何かカレン、お前に俺は何かしたか? この間からどうしたんだよ、何か変だぞ? 助けてやるから少しは頼ってくれ、お前が心配なんだ」

「……っ悪いのは……全部私だから気にしないで、あ……ごめんね、……ごめんなさい」

 そういって、カレンはエディの腕の中で、エディのその自分を気遣う優しさに張りつめていた感情が勝手に溢れだし、泣き出してしまう。

 もうカレンの心は限界だった。
 
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