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第三章 毒であり薬
107 残された時間
しおりを挟む「とりあえず、退いて?」
「え、……嫌だけど? 男の部屋に夜ノコノコやってきて、なにもされず無事に帰れると思うなよ?」
「……やっぱり怖いかも?」
「なんでお前は男の部屋に夜に一人で来てるんだよ? それ襲ってくれって言ってるようなもんだぞ? 頼むから警戒心をちょっとはもってくれ」
「だって、エディ、んぅ……」
まだ喋ってるのに、勝手にキスしてくるなんて、護衛の自覚はあるのかと問いただしたい。
けど、触れるだけのキスなのに優しくて甘くて頭の芯が痺れる。
「ん、可愛い、なあ、もう抱いていい?」
「ちょ、離せ! これ以上指一本でも触ったら、攻撃魔法撃つからね?」
「あーあ、なんでこんな女に惚れたんだろ?」
「……今日はポーションあるから多少の怪我なんて大丈夫! 一回私と本気で戦ってみる?」
「だれが好きな女と戦うんだよ、お馬鹿め」
渋々と私の上から退くエディだけど、本気で襲う気ないのバレバレだよ?
……この間と雰囲気が全然違うし。
「……なあカレン、帰国は絶対か? そんなにアルスが嫌か? 俺は」
「……私もねアルスの事、今はそんなに嫌いじゃないんだ。でも私はずっとここには、この国には居られない、イクスに帰らなきゃ」
「……なんでだよ」
「ごめんね? エディ」
そう言ったらエディは私から目を反らし、少し苦しそうな表情をした。
やっぱりここに居ると言うのが正解なのはわかっていたけど、それは私には出来なくて。
私は、私から目を反らしたままのエディを残し部屋を後にした。
ずっとは一緒に居られない、私は幸せになんてなれない、ほんとうは愛されても愛してもダメだと思って生きてきたけど。
残されたアルスでの最後の少しの時間だけ、一生に一度だけ、好きな人に好きって言いたいとあの日私は思ったんだよ。
眠くならない身体。
あの日エディの側で寝たふりをしたら、髪を優しく撫でてくれた。
それがとても心地よくて、私は泣きたくなった。
……眠れないわけじゃないけど、眠る必要もない、眠くもならない、そしてお腹も空かない時が止まった身体じゃ、今はよくても数年もすれば気づかれてしまう。
もう私とエディじゃ、流れる時間が違うから、それならば傷が浅い内に、まだ引き返せる内にお別れしたほうがエディの為だ。
エディには未来があるから、私のいない未来が、エディには平穏に生きて欲しい。
罪を犯してしまった私にはきっとそのうち罰が下るだろうから私の側にはいないで欲しい。
それにエディは結婚して子どもが欲しいと言っていたから、私はそれを叶えてあげられないし? ……きっとエディの赤ちゃんは可愛いのだろう! いつか抱っこさせて欲しいな?
まあ、私はこの不老不死の身体のおかげで、好きなだけ研究して怠惰な生活ができるし、皆が心配する魔力暴走しても、もう死なないし?
……なんだ最高じゃん?
エディを残して研究室にやって来た私は、イクスに戻る前に髪の色と瞳の色隠蔽しないと、錬金術師達には絶対バレると隠蔽工作に使えそうな薬品を調べる。
……絶対に気づかれる賢者の石の副作用だと、私の知り合いめざといから。
バレたら絶対にややこしいことになることは確実で、だって賢者の石は作るのも所有するのも、ましてや使うのも禁忌の中の禁忌……。
別に私が裁かれるわけじゃないけれど。
だけど絶対にネチネチ言われそう!
「あー……なんかいい、レシピなかったっけなあ? あー、だるっ」
カレンは研究室のソファに寝転がり、古代語で書かれた錬金術の書を朝まで眠くならない身体で読みふけった。
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