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第三章 毒であり薬

104 ぶれない

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 たっぷりとお湯を張ってもらってバスタブに、ゆったりと肩まで浸かる。

 そしてふわふわに泡立てられた石鹸で、優しく丁寧に頭を洗いあげられる。

「あはは……なんか、コレ懐かしいね? イクスで初めて会った時も、エディに頭洗われた」

「ああ。お前その辺で寝るから汚かったし? ……カレン? イクスに帰国するっていうやつ、考え直せよ」

「え、やだよ? 私はイクスに戻るんです」

「え、お前……俺の事捨てる気?」

「捨てるって、人聞きの悪い。エディただの護衛じゃん? 私の所有物ではないし?」

「え? いや、お前……俺の事好きって言っただろ?」

「ん? それとこれと、いったい何の関わりがあるの?」

「え……いや、え? 俺ら、これから付き合ったりとかさ? ほら」

「ん? そんなの初耳なんだけど。付き合うって、それ何」

「え? あれ? 好き同士なら……さ? 付き合ったり婚約したり結婚したり子ども作ったりとか……ほら? 色々あるだろ」

「えー? そういう面倒なの私は一生する気はないけど? 独身主義者だよ私は」

「え、嘘だろ!?」



 
 朝靄に包まれる屋敷に戻り。
 静かに屋敷の裏からカレンを研究室に帰す。

 さすがにこの時間まで、カレンを外に連れ出すつもりはエディにはなかった。

 それに成人したカレンに、キス程度の事ははするつもりだったが。
 家にカレンを連れ込んで、あそこまでなんて無理にするつもりはなかった。

 だけど色々と聞きたかった言葉も聞けたし、これはもう仕方ないし?

 カレンはとても可愛かった。

 知りたくないこれから起きる現実も、聞きたくない言葉も最後の最後で言いやがったけど。

 正直今は生殺し状態でエディは死ぬほどキツイ。

 けど無駄に人の事振り回してくる天然魔性のカレンに、気合いと根性で耐えて我慢した。

 そして好きって一言だけど言ってくれたから。

 今回の外出は研究室に籠ると話しかけても無視して扉を開けないカレンの、腹が立つ習性を今回は利用した。

 これなら中にカレンが居なくても、研究室の外で待機する護衛にはわからない。

 ……あれ? 
 これ普段カレンがもし抜け出してても
 だれも気づかないのでは?

「無事帰還! さーて研究しよ……!」

「なにを徹夜します! 宣言してんだよ、大人しく寝ろよ?」

「やだよ? 私は忙しい、出てけ、さっさと帰れ」

「ほんとお前は何があってもぶれないね? ……なぁ? お前さ、たまに一人でこっそり抜け出してたりとか、……してないよな?」

「え、なに? 今さら気づいたの? 遅くね……?」

「おまっ!? 馬鹿じゃないのか!」

「エディ……ちょっと五月蝿いよ?」




 研究室の扉の外で。
 そこにいるはずのないエディの怒鳴り声を聞いたオスカー。

 そしてオスカーが研究室の扉を激しく叩く音が、屋敷中に響き渡って。

 それをリゼッタが聞き付けて。
 カレンとエディが密室に二人きりという状況を心配し、騒ぎだして。

「あー……やべっ」

「あーあ。 エディ大変だね?」

 そしてこの後。
 研究室の扉を開けたオスカーとリゼッタは、何故こんな早朝に休みのはずのエディが私服姿で私の研究室にいるのかと質問攻めにして。

 そして街を歩けそうなワンピースを着用する私を見て、私達が屋敷から抜け出していたことを敏感に察知し。
 何の相談もなく私を勝手に単独で連れ出したエディに、それはもう大激怒。

 そして私も怒られた。
 いくらエディでも、護衛でも男性と二人きりになるなんて危ないと。

 もう大人なんだから少しは自覚を持ちなさいと、懇切丁寧にリゼッタにお説教された。

 まあ実際リゼッタの忠告を無視してエディにほいほい付いて行って、好き勝手色々されちゃったし。
 私は言い返せなかった。

 そしてその日の昼。
 イクスに一時帰国までに魔力封印具の試験運用をするということで。
 イクスから使者が派遣されるとアルス国から通達が来て、みんなに帰るのがバレた。

 私はアルスにずっと居ることは出来ない。

 とりあえずの一時帰国だし、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
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