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第ニ章 英雄の少女
65 ホムンクルス
しおりを挟むこれから起きる悲劇を簡単に想像できてしまった。
ーー直後。
カレンへと炎の塊が直撃し炎上した。
攻撃魔法によって作り出されたその火炎は、無慈悲にもカレンに放たれ彼女の全てを飲み込んだ。
その火炎は熱風を放ち赤く赤く燃え盛り、不快な破裂音をあげながら、その炎は全てを余すことなく全てを焼き尽くすように轟々と嫌な音を立てて炎上する。
これでは今さら助け出した所で、彼女はもう助かりはしないと人々に認識させた。
王城の謁見の間に今回の騒動の謝罪の為に集まった王族や騎士達数十名と国際連合の執行官達やその場に集まる者達は、皆その悲劇の瞬間を目の当たりにする。
護衛であるオスカーは謁見の間は安全だろうと油断して、カレンの安全を最優先せずに己の体裁の為に側から離れていた。
それは謁見の間で警護するなど、国王陛下に対しての不敬になると勝手に判断して。
「お嬢様……」
友人に娘をお願いと頼まれていたのに、カレンの事をただの護衛対象としてしか見ていなかった。
アルスの王族達は英雄と称賛される少女を、イクスから直々に保護を任されていた錬金術師を。
自国の貴族が殺めてしまったという国の信用が破綻し世界から糾弾され、そして国の終わりを告げるだろう事実に呆然となる。
国際連合の執行官達だけはカレンの居る場所を軽く一別し、攻撃魔法を打ち出した令嬢を取り押さえていた。
騎士の隊列にいたエディは、なにが起こったのか一瞬のことで理解できなかった。
なぜカレンが、こんな無慈悲な暴力に晒されなければならないのか?
守ると、あの日誓ったのに……。
「……か、れん……?」
もし自分が警護から離れなければ?
エディはもうカレンは助からないと頭ではわかっているのに、必死になって魔法を何度も何度も放ち火を消そうとする。
だが火の手はなかなかに衰えず他の騎士達も水魔法を使い燃え盛る炎を消そうと奮闘するが、鎮火するまでに幾分かの時間を要した。
火の手は次第に弱まり鎮火した。
そしてカレンが居た場所には無惨な亡骸ではなく、人の大きさほどの赤黒く粘液を滴らせた異様でおぞましく身の毛もよだつ……なにかがいた。
ぬちゃり……と、とろみのある粘液を滴らせたそれは全体が赤黒くそれでいてピクピクと痙攣し
まるで血管のようなものが脈打ちそして張り巡らされているようでそして、ぐちゅ、ぐちゅ…と変化し始め床にどろりと、崩れ落ちた。
その異形な存在が崩れ落ちたその中央には。
火炎に晒されたとは思えないほど無傷の、カレンがそこにはいて。
カレンは慈しむような表情でそれを、異形の気味の悪いそれを見ていた。
そしてなんともおぞましい異形のそれを、まるで犬か猫のようにカレンの小さく繊細な手はそれに躊躇なく触れぬちゃぬちゃと水音をたてながら小さな手を粘液で汚しそれを撫でた。
それを騎士達が目撃し。
「ひいぃぃ! ばっ……化け物!!」
「魔獣か……!」
「なんだあれは……どうして、死んでない?!」
カレンとその異形に、対する恐怖が騎士達の間で駆け巡る。
「貴様ら! 我らが錬金術師様になん足る言い草! 暴漢からカレン様を守ることもせず、出来ずに何が騎士だ! 恥を知れ! それにこのゴミは先日処刑した貴族の血縁とは……なんたる怠慢か! やはり連座させろ! アルスは英雄を殺す気か!」
国際連合の執行官達が憤り、騎士や王族を糾弾し始める。
「申し訳ございませぬ。此度の責任は全てを私どもにあります。謹んで処罰を全て受け入れさせて頂く所存でございます……」
国王が平伏し謝罪する。
それに、騎士達が歯噛みしている。
「そんなものは当たり前だ!!」
「五月蝿いな」
カレンがそう発した声により、騒然としていたその場は静まりかえる。
「カレン様、よくぞご無事で!」
「無事だってわかっててソレ……ちょっときもい」
カレンは、ぬちゃぬちゃとそれを撫でていた手をぴたりと止めて。
「王城来てもやっぱ、いいことなんもねぇな……」
「っ……化け物……!」
一人の騎士が叫ぶ。
「化け物……か。それを勝手に英雄と騒いでる癖に? よく言う」
カレンが、その騎士に答えた。
「っ……!」
騎士はまさかカレンに返答されるなど思っては居なかったらしく、動揺する。
「素晴らしい……! これは正に神の御業……」
恍惚とした表情で、異形のそれとカレンを見つめる執行官達。
「……謝罪とかそういう雰囲気でもないみたいだし、私は帰るわ。もうこんな茶番に付き合わせないで?」
すっとカレンが立ち上がればぐちゅぐちゅ音をたてながらそれはまたカレンの影に消えていく。
「化け物……魔獣? それはなんだ?」
先ほどの騎士が問うが。
カレンはその騎士に興味がないのか振り向く事もなく謁見の間から、出ていく。
その問いに答えたのは国際連合の執行官
「作られた命、錬金術師の神業、女の腹を使わずに産み出されたモノ。フラスコの住人だったもの」
「なにを言って……?」
「……では、この一連の馬鹿な茶番劇についての審理を行いましょう、ああ、大丈夫です。直ぐに……結審と処刑は行いますので! お時間はとらせませんよ? ああ、……せっかくのカレン様の温情が無駄になってしまいましたね? 残念ですねぇ?」
と、わかりやすい作り笑顔で執行官の一人が告げた。
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