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第ニ章 英雄の少女
54 歓迎の宴
しおりを挟むご機嫌斜めのカレンは思った。
絢爛豪華な夜会の会場を照らす、大層ご立派なシャンデリアの輝きに。
反射する出席者達の宝飾品や衣装がその場は歓迎の宴とは名ばかりの、貴族達の見栄の張り合いが行われる滑稽な場所だと。
これ別に私が居なくても問題ないじゃん?
そんなご機嫌斜めのカレンに皇太子は、カレンの機嫌が悪いなんて事に気付く事もなく。
「こんばんは、お会い出来て光栄です、英雄様。私はこの国の皇太子の位を預かりますアルフレッド、以後お見知りおきを?」
皇太子がカレンに笑顔を浮かべ挨拶をする。
エディによってハイ、イイエ以外の発言を禁止されているカレンは
「……はい」
と、だけ答えた。
それを見ていたエディは自分のミスに気づく。
こいつまさか……?
本当にハイ、イイエしか喋らない気ではなかろうか、と。
そして、それはそのまさかだった。
それ以外喋るななんて。
……なんて楽なのだろうかとカレンはエディに小一時間ネチネチと脅されながらも、歓喜していた。
カレンにとって今回は、それは縛りではなくサボりの許可だったのだ。
だからエディはカレンに近づいて。
「カレン様……、先程のお約束は忘れて頂いて、結構です、普通にお喋りして頂いて大丈夫ですので」
そう、カレンにそっと耳打ちする。
それをカレンは聞いて、とても嫌そな顔を一切隠そうともせずに。
エディを見上げて、いつもの様に。
「あ? うぜぇ、本当めんどくさいヤツだな?」
チッ! と、舌打ちしながらエディに言う。
その姿を皇太子と、皇太子の婚約者であるカレンの血縁上の双子の妹は目撃し絶句した。
それをエディが見てしまい。
あ……、やってしまった。
と、軽く頭を抱えた。
そしてその場の空気が凍りついた。
これは粗野でガラの悪い性格と言動がカレンの庇護欲を誘ってしまうほどに愛らしい容姿と、全く一致しない弊害であった。
それを本人が全く隠そうともしないのが一番タチが悪いのだが、余計な事を言うんじゃなかったとエディはその場で猛省した。
そして皇太子アルフレッドとその婚約者のクリスティーナは、カレンのその様子に思った。
まさかあの英雄様が、お姉様がそんな粗野な言葉使いと表情をするなんて。
見た目だけならば庇護欲をそそる美少女。
なのに、中身が……まるで違う。
そんな風に運命を魔力の有る無しによって、ねじ曲げられた三人が、出会い初めて言葉を交わした。
その瞬間。
その場に。
このアルス国の国王陛下入場のファンファーレが、盛大に鳴り響いた。
英雄の歓迎の宴が盛大に開かれた夜会の会場に、居合わせた全てのもの達が国王陛下の入場に傅き頭を垂れる。
だが英雄たる天才錬金術師はその場をピクリとも全く動くこともなく、ましてや傅く事もなく。
アルス国の国王陛下を斜に構えて睨みつけた。
それはこの国に住まう全ての者達にとって、カレンのその行動は不遜な態度は完全なる不敬。
そして何も知らない国王直属の家臣たちが……。
カレンに傅くように命令をしてしまったのだ。
その事態にいち早く気づくエディだが、それはもう時既に遅しで、その言葉に反応したカレンが。
「……だまれ、たかがこんな小国の国王如きが、私に傅き頭を垂れろなど、貴様はいったい何様か」
と、言い放った。
カレンがそう言い放つのも。
特におかしな事はないのだ。
カレンはイクスでは身分制度がなく平民と同じだとアルスでは思われている。
が、錬金術師として最高位の位を国から賜るイクスでも特別待遇の国民であり。
国々の連合である国際連合が特別に保護すべきと判断し特別な特権まで与えた唯一の人間であり、誰もカレンに命令などしてはいけない。
だからカレンは本当は誰かの言葉を意見を聞く必要もないし、カレンの気持ちに反する事は全て拒否できた。
それに本当はイクスの法律にすら、縛られる必要もなかった。
でもカレンは普通に生きたかった。
だからそれをわかっていて育った国の法律を守り、大人しく国外追放された。
だが国王の家臣たちはカレンの首にかかる装飾品がそんな特別なもの、などとは気づかなかった。
それが悲劇のはじまりだった。
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