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第ニ章 英雄の少女
52 英雄としての凱旋
しおりを挟む王宮の馬車停めから数十人の騎士達に厳重に警護されながら、貴公子と化したエディにエスコートされ夜会会場となるメインホールへと向かう。
星屑を散りばめた様な漆黒のドレスに錬金術師の式服と呼ばれる黒衣を纏い、産まれた国の王城の中をゆったりと歩む。
そのあまりの厳重すぎる警護体制に通路で立ち止まり談笑していた者達も、なにごとかと話を止めてその光景に見入ってしまう。
そして警護された夜の女神のような愛らしい少女の姿に足を止め、話を止めたその者達も魅了された。
そうしてエディとカレンの二人は夜会会場へと続く、大変大きく立派な純白の扉の前に到着した。
両開きの二枚扉を騎士達が開く。
騎士のひとりが。
『英雄、カレン・ブラックバーン様の、おなりです!』
と、高らかにホールに向かい宣言した。
すぅっ……と息をひとつ吸い込み。
死ぬほど行きたくないと思っていた貴族達の社交の場に、英雄とうたわれる天才錬金術師は元騎士団長であり専属護衛のエスコートのもと。
華々しく華麗に、登場した。
そしてこの歓迎の宴に参加することを許された貴族の皆が待ちに待ったその英雄たる少女の華々しい登場に振り向き、そして見惚れ目を見開き驚愕してしまう。
その美しいかんばせに、その堂々たる表情に、そのあまりの優雅さに、
そして、その一見ただの地味な黒衣は
よくよくみてみればその端切れでさえ金貨が積み上がる最高級の生地をふんだんに、おしげもなく床に引きずるまでたっぷりと使われた特別なものだということに気付きあまりの豪勢さに驚愕する。
あの大公爵家の悲運の令嬢。
皇太子妃となる為に産まれ落とされた少女は、この国で一番に大事とされる才能を魔力を完全に、もち得ずに産まれてしまった。
そして魔力を持たぬ者にこの国に住む権利などはない。
あまりに幼くして、国外追放された罪のない幼子は
その類い稀な才能を追放された地隣国イクスで開花させ、世界を救ってみせた。
そして産まれた時は一切もち得なかった大事なものを魔力を奇跡のように突如として取り戻し、母国に舞い戻られた。
なんと素晴らしい事かと、アルスの貴族や王家は国民は歓喜した。
その凱旋をここに祝福せんと、皆がこぞってこの歓迎の宴の招待状を競い欲した。
そしてその、宴に華々しく登場した、
あの公爵夫妻の娘だとよくわかるその、かんばせに、美貌に見惚れてしまうのも無理はなかった。
そして、驚いた事に。
皇太子の婚約者の双子の姉にあたる、その英雄の少女は魔力がなかったなどとは全く信じられないほどに一目見ただけでも、膨大な魔力がオーラとなり、王族にすら匹敵し越えるものも感じさせた。
その事実を肌身で感じてしまった貴族や、王族達は……期待してしまった。
この少女をもし……
国母につかせることができたならば?
姉妹をすげ替える事ができたならば?
この国は、王家は今よりもっと繁栄するのではないかと抱いてはいけない望みを。
そんな馬鹿げた望みなんて、叶わないと言うことを貴族達は知らない。
その胸元で輝きを放つ青く美しい宝石が使われたネックレスの意味になど誰も気づけない。
隣に立つエディですら本当の理由なんて、知らぬままで。
ここに英雄と世界から称賛されてしまった悲運の錬金術師は産まれた国に、今ここに凱旋した。
そしてこれから引き起こされる悲劇など。
英雄の凱旋に歓喜するこの場の誰が。
予想し得たのだろうか?
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