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第一章 二度目の国外追放
44 命令
しおりを挟む屋敷の一階にある大広間を大改装した研究室兼作業部屋で、薬剤の下処理及び錬成作業が一段落し、流石に疲れたので少々研究室に置かれている大きめのソファで仮眠をしようとしていると。
研究室の扉がノックされた。
深夜なのになんだろう? と開けてみるとそこには疲れた表情のエディがいた。
「あれ? 私と接近禁止ってリゼッタさんに怒鳴られてなかった?」
「あー……いや。……まぁそうなんだけど。ちょっと話があるからさ中に入っていい?」
「え? ……まぁ、いいけど?」
まだあまり会いたくなかったが、仕方ないなぁと、研究室にエディを招き入れた。
そうしたらエディがなぜか部屋の扉を閉めて、カチャリと扉に鍵をかけた。
……あれ? いつもは絶対扉を開け放つのに、私の為とか言いながら。
どうしたんだろう? と、エディを観察していると。
「全てを遮断せよ」
そして、扉の前でなにか魔法を詠唱している。
「え、なにしてんの……?」
聞いてみたが答えるつもりがないらしく無言で、エディがゆっくりと、いつともとはまるで違う表情で私に近づいてくる。
つい、なにか嫌な感じがして思わず後ずさってしまうのは仕方ないと、思う。
「二人でちゃんと話がしたくて」
「話って……なに? 私は……えーと、今忙しいんだけど、薬剤の注文が滞ってて……さ?」
そのまま、エディから逃げるようにしていたら、壁に追い詰められてしまって。
「なぁ……、俺の事どう思ってる?」
「え……? 護衛でしょ? というか、また男言葉出ているよ? この間も出てたし? 爪が甘いぞ? そんなんじゃ真の乙女は程遠い……なんて。 あはは」
と、どうしたらいいかわからなくて、いつものように冷やかしていると。
ダン!!っとエディが、苛立ち紛れにのように、強く壁を打った。
「なぁ、カレン? もうさ、はぐらかすなよ? いい加減」
ああ、これは危険だと私の中の何かが警鐘を鳴らし始める。
そして動揺し混乱する私にエディは空いてる方の手で私の頬を撫でてきて、その冷たい大きな手にビクリとした。
「なにいって……? ちょ、やめ、触らないで……」
そして、突然エディの大きな腕ですがり付くように、強く私は抱きしめられてしまった。
「ちょ、エディやめて?! え? なんか変だよ?!」
「なぁ俺の気持ち、カレンお前わかってんだろ?」
……そりゃあね? 私はなかなかに察しの良い、頭もなかなか良い人間なので、そんなことは薄々は気づいてわかってはいましたよ?
だからリゼッタさんには、私とエディの間に物理的な壁を築いてくれてとっても感謝しているし。
だがしかし、好いた惚れたなんてそういう感情は、私にとっては、……邪魔なだけだった。
なのにさ? エディはそんな私の事を本当に愛しいと大切な人だと訴えるように微笑んでずっと接してきて、正直どうしていいかわからなかった。
今もその気持ちを私に訴えるように抱きしめるのはやめて頂きたいんだけどな?
本当にね? 大変残念ながら私はそれにお答えすることが……できないんだよ?
「……カレン、俺はお前の事が、」
だから、私は、初めての命令を、貴方に下す。
「……エディ・オースティン、それ以上、公私混同した発言をするならば、私に何の許可もなく私の身体に勝手に触れ続けるならば、貴方を私の護衛から外すように、この国アルスに申請致します。……私の騎士をこれからも続けたいならば今すぐにその手を離しなさい。これは命令です。」
「カレン? 何を言って……?」
ああ、そんなまるで追い縋る様に、本当に好きだと、愛しいと叫ぶようなそんな必死な声音で、表情で私の名前を呼ばないで頂きたいね?
決意が揺らいでしまいそうになるからさ?
「私に、そういった私的な感情を、性的な行為を、肉体関係を望まれても私は、お答えできません。貴方は私の護衛の騎士でしょう? 騎士として、主人に対する分別のある行動のみを私は望みます。それ以外は必要ありません。」
「……ごめん」
私を抱きしめていたエディの腕の力が次第に緩み、そしてそっと私をその腕の中から解放する。
……どうしてだろうね?
そう私が貴方に命令をして、そうなる事を望んだはずなのに。
エディの腕の中の安心感と、その温もりが離れる事を、私は寂しいと思ってしまう、そんな自分がどうしようもなく嫌いだ。
エディの表情が歪む、……ごめんね?
だからね私は笑顔で。
「エディ? 勘違いしないでね? 今まで通り騎士としてだけなら私のそばにずっと貴方が飽きるまで置いてあげる。でも、それ以上を望むなら、さよならだよ?」
「っ……わかった」
「そう? それは良かった。……じゃあもう出てけ? 私はね忙しいのだよ? エディと遊んでる暇なんてないんだよね! 私はね売れっ子錬金術師様なんだよ?」
「……ああ」
そして私から少しずつ離れて、彼は部屋をゆっくりと、出ていく。
これでいい。
私を好きになっても、エディにとって良いことなんて何一つも存在なんてしないのだから。
私は誰かに好きだと言って、大事に優しく抱きしめて貰えるような価値などはない。
それに恋人を作り幸せになる権利なんて
……無いのだから。
エディの居なくなった静かな研究室の椅子にゆっくりと息を吐き腰をかける。
私の身体にほんのりと残った、エディのコロンの香りが胸を締め付けた。
「ほんとうはね? 私も貴方のことが……」
紡げないその言葉。
もっと早く出会えていたら?
何か変わっていたんじゃないかな?
何度も何度も考えた。
考えたところで今さらどうしようもない現実。
それは私が犯した罪の対価。
英雄だなんて、何かの笑い話か。
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