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第一章 二度目の国外追放
27 ガルシア大公爵家
しおりを挟む私達の愛する娘が、世界を恐怖の底に落とし入れていた死病カトレアの特効薬を開発し。
史上最年少で錬金術師になった天才錬金術師だって遠隔映像装置水晶が届けてくれたあの日から。
そして娘の成長した可愛いらしい姿を声を、私達の元へ届けてくれたあの時から。
私達夫婦の。
家族の世界に彩りが取り戻された。
悲しみに暮れていた日々からは、想像も出来ないような幸せな日々。
特効薬発表の会見でリュスティーナを見つけた時から、止まってしまっていた時間が流れ出した。
あの映像を一目みて、この子は私の可愛いリュスティーナだと直ぐにわかったわ。
名前は今はカレン・ブラックバーンと名乗っているみたいで、カレンもリュスティーナによく似合っていて私達はすぐに気に入ったの。
私のリュスティーナを大事に育ててくれたとわかる血色の良さそうな肌に、一言一言しっかり話す立派なその姿に彼女を育ててくれた養父母様へ感謝のお祈りをしたくらい。
それからは娘の会見映像を何度も何度も見返して、カレン・ブラックバーンという名前を新聞で探す毎日。
リュスティーナの妹のクリスティーナも一緒になって探してくれて、私はとても嬉しかった。
夫も王宮でリュスティーナの開発した薬がどんな風に世界の人々を救っているのか聞いてきてくれて、家に帰ると私に話して聞かせてくれた。
それから数年。
リュスティーナが私達の元を離れてから家に籠りきりだった私はリュスティーナの話がしたくて、聞きたくて社交界にまた顔を出すようになったの。
全てはリュスティーナのおかげ。
あの子が頑張って私達の為にその姿を見せてくれるなんて、嬉しくて嬉しくて。
今は水晶越しにしか会えないけれど、いつか会いにきてくれるって思っていたら。
なんという奇跡なのでしょう……!
私のリュスティーナに、魔力が発現したという素敵な報せを夫が持ち帰ってくれて。
そのリュスティーナを迎えにオースティン公爵家の嫡男であるエディ・オースティン騎士団長が職務を辞してまであの子のもとへ向かったと!
まあまあまあ!
公爵家嫡男ならリュスティーナの伴侶にも相応しい家格だし、あの方は剣神とまで呼ばれるようなとても強い方。
きっとリュスティーナを命に代えても、絶対に守ってくれるって確信したわ!
ああ!
私のリュスティーナが私達の元へ、このアルスに戻ってくる!
いつ会えるのかしら?
お部屋の準備をさせなければ!
ドレスや飾り物の手配も必要だし?
やることがいっぱいじゃない!
……なのに、どうして?
我が家に帰ってくると思っていたのに。
どうしてどうしてどうして……?
名前もね、リュスティーナに戻してあげようと思っていたのに。
お部屋の準備もさせているのに。
王宮からリュスティーナは私達に会うことは望んでいない、もちろん一緒には暮らせないと夫が聞いてきたの。
もしかして私達が貴女を捨てたと思っているの?
違うの!
貴女は奪われたのよイクスに。
そして国王陛下への謁見も、アルスに入国したのになくなったと。
その場に駆けつけて抱きしめてあげようと、そしてそのまま一緒に家に連れて帰ろうと思っていたのに。
でも、それはリュスティーナの照れ隠しだったの!
だって!
リュスティーナの住む屋敷が、我が家の隣になったのだから!
隣の屋敷に見学に来たリュスティーナの姿に。
神の奇跡だとおもうのだけれど、馬車越しだったけれどあの子に会えたわ!
とても愛らしい淑女に成長をしていて、馬車を降りて抱きしめて家に連れ帰ろうと思ったのだけれど。
何故か一緒に乗っていた夫に止められたわ……?
でももうすぐ貴女に会えるの!
早く会いたいわ、私のリュスティーナ!
「そうだわ、ねぇカレン」
「なーにー?」
昼ご飯にサンドイッチとベリーソースのミルクアイスを軽く三人前食べてご機嫌にゴロゴロを満喫しつつ注文してた古代書の書物を読む素敵な午後。
「ちょっと、私ね隣のガルシア公爵家にご挨拶いってくるわ、貴女も、行く?」
「いってらっしゃーい! 絶対行かないよ? 貴族となんて仲良くしたくない!」
「……言うと思ったわ。大人しくしてなさいね? 使用人に迷惑かけにいっちゃだめよ?」
「私をなんだと思ってんだよ? ったく……こんなイイコ他にいないよ? ん?」
「はあ。いってくるわ」
「はい、いってらっさい!」
ため息をつきながら部屋を出ていくエディ。
ため息ついてると幸せ逃げちゃうぞ?
「……やだよ、アイツらになんて会うの」
「お久しぶりでございます。隣の屋敷に、……我が主人が居を移されましたのでそのご挨拶に伺いました」
「やぁ、わざわざありがとう? 先月の定例会議以来だね、いろいろあって君も大変だろう?」
「いえ、英雄様にお仕えさせて頂き感謝する毎日でございます」
「そうかい? まぁ、なんだありがとう。彼女を、うん。私達はなにもしてやれないから、本当にありがとう」
「はい、こちらこそありがとうございます、色々便宜を図って頂いたみたいで」
「そんなことないさ、私にできるのは些細な事だけだ」
バンっ!!
そう荒々しく扉を開けるのは、カレンと同じ癖のあるハニーブロンド。
その美貌は傾国とまで言われ、今でもその美しさだけは変わらない。
「貴方! リュスティーナ! あら? リュスティーナは、どこ……?」
「マリアンヌ……!」
「公爵夫人……」
「あの子は来て居ないの? 会えると思っていましたのに! あらオースティン騎士団長、私のリュスティーナを護衛して頂いてるとお聞きしましたけれど……?」
だが。
子の一人が国外追放となり心が壊れてしまった。
「ガルシア公爵夫人、申し訳ございませんが主人は屋敷におりますのでお会いすることはできません」
「あら! 屋敷に一人でいるの? それは寂しがっていることでしょう! 私が母のわたくしが! いまから会いにいってさしあげましょう! そうね、それがいいわ!」
「公爵夫人、それはできません。主人にカレン・ブラックバーン様にお会いさせることはできません」
「え……あ。なにをいっているの騎士団長? あの子はリュスティーナは私の娘なの! 私に会いに私と暮らすためここまできたのよ!」
「……カレン様は、ガルシア公爵家に、ご両親にも妹君様にもお会いなさるつもりもございません」
「なにを! お前っ! 私とリュスティーナを、引き離すつもりね?! なにを企んでいるの?!」
掴みかかってくるが、その細腕は簡単に公爵に止められた。
「マリアンヌ! 止めなさい!」
「貴方? どういたしましたの? 私達のリュスティーナをこの男は監禁しているやもしれないのに!」
叫び取り乱し始める公爵夫人に、どう接すればいいのか。
「マリアンヌ止めなさい。オースティン君挨拶ありがとう。また何かあれば私に出来る事ならなんでもしよう。今日はすまないね」
「貴方! イヤ! その男を捕まえて! リュスティーナが! 私のリュスティーナが!」
泣きじゃくり暴れだす夫人を公爵は抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だよ、あの子はリュスティーナは大丈夫だから、ほら、マリアンヌ落ち着いて……?」
一礼し、ガルシア公爵家の応接間を後にした。
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