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<きっかけ>

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セトが塔に登っていた頃。獅獣王国の港では、いつもの様に積み荷が入り乱れ。
獣人達が慌ただしく、運搬に追われている。

「その樽はそっちで、そっちの木箱はそこだ。 中は割れ物だから気を付けろよ」

「オイ、新入り早くしろ」

時おり、怒声すら飛び交う中。
樽を運んでいた新入りの獣人は、指示通りテンポ良く運んでいた。

だが次の樽を運びだして、数分後に異変が起きる。

新人は突然フラフラとよろめき、樽を倒したと同時に自身も倒れてしまう。

「何やってんだ新人! 」

駆け寄る上司が新人を抱え起こそうとしたが、何かに気付いて動きが止まる。

新人は口から泡を吐き、手足は麻痺した様に痺れ震えていたのだ。

其の間も樽から流れ続ける液体は、異様な臭いを放ち。

抱えていた上司の手も震え始め、異常な事態を理解して叫ぶ。

「皆離れろ、積み荷に毒だ!! 」 

運搬の作業をしていた獣人達はバタバタと倒れていき、近くに居た獣人達は逃げ惑う。

阿鼻叫喚となった港に衛兵が駆け付けた頃には、重症者二名・負傷者八十名という凄惨な状況だった。

唯一の救いは、毒ガスの情報を事前に入手・共有していた為。

急ぎで集めていた回復薬が、運搬していた木箱の中身だったのが幸いしたのだった。


其の後。毒液が入った樽の密封処理が完了したと同時に、コボルト調査部隊が派兵される。

鼻の利く獣人の中でも、特別嗅覚に優れた精鋭。

すぐに犯人は見付かると誰もが思っていたが、現場に残る毒液の臭いが犯人特定を阻むのだった。



其の頃。獅獣王国の王の間では、現王レオンと重役達が緊急会議を開いていた。

「今こそ決断の時ですレオン様、人間共の仕業に間違いありません」

「まだ人族が犯人と決まった訳ではない、何をそんなに急いでいるのだ」

「攻め込まれてからでは手遅れです、現に毒が撒かれているのですぞ」

犯人は特定に至っていないが、毒が撒かれたのは事実。

人間が毒ガス兵器を所持している以上、避けれない議論だった。

「使者を送ってみては……」

「それは人間達を疑っていると、言っているのと同じだろう」

戦争賛成派と反対派で二分して、静まり返る王の間。

「其の件は犯人が特定してからだ、其れよりも被害者の救護と再犯防止策だ」

現王レオンの指示で、被害者が完全回復するまでの生活保障。

街の警備態勢見直しが早急に進められる事となり、緊急会議は終わるのだった。

すごすごと王の間を出た戦争賛成派の重役達だったが、まだ諦めた訳では無かった。

「レオン様は優し過ぎるのだ、このままでは獅獣王国は滅亡してしまうぞ」

「大丈夫ですぞ既に手は打っております、ガオン様を呼び戻すという手を…… 」

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