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<鼓舞>

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「だから借りても嫌だって言ったのに……」



ぼやきながらも闘技場に駆け寄るルドエルの尻を叩き、ルミニーは笑いながら鼓舞する。



「そんな冗談言ってる場合じゃないよ」



ガルの三人はルミニーとルドエル前衛二人、リジョン後衛一人に並び。



「リジョン道を塞ぎな」



ルミニーの指示で、リジョンはケルマンとラタが駆けて行った道を岩石魔法で塞ぎ。



出入り出来る場所は、キラーアントの大群が入って来る一ヵ所のみになる。



「逃げ場も無しじゃやるしかねーな」



ルドエルの叫びに呼応する様に、キラーアントの大群は三人に飛び掛かり。



前衛二人が次々とキラーアントを薙ぎ倒していき、リジョンは支援魔法で援助に徹し。



三人は闘技場の形を上手く利用して、円を描く様に移動しながら出口を目指す。



其の間も次々と増えていくキラーアントは、四方からガルのメンバーに飛び掛かっていく。



作戦を伝える余裕すら無いが、幾ら死地とはいえルミニーに全く勝算が無い訳ではなかった。



キラーアントが入りきった所を脱出して狭い出口で叩く、其れがルミニーの思い描く唯一の勝算だった。



ルミニーが作戦を口にした訳でなくても、ルミニーの進行方向から二人は作戦を読み取ってくれると信じたのである。



そしてルドエルとリジョンは見事に其れを読み取り、歩調を合わしていた。



だが予想外だったのは、出入り口から入って来るキラーアントの数だった。



途切れるタイミングを幾ら待っても、キラーアントは変わらず増え続け。



其の数が七十を超えた辺りでルミニーは目算を止め、この場所で戦い切る覚悟を決めていた。



だが戦うスペースは無くなっていき、徐々にルミニー達の体力は削られていく。





一方。上空でルミニー達の戦闘を眺めるウスロスは、寝そべり他人事の様に寛いでいた。



「ククク……、そうそう、その調子ですよ。沢山入って賑やかにしないと……」



薄気味悪く笑いながらも、闘技場でキラーアントの生体反応が減っていくと。



「オヤオヤ減ってるではないですか……、もっと頑張らないと蟻らしく」



自分のせいで戦う羽目に合うキラーアントを小馬鹿にしながら、まるで応援の様な言葉を口にし。



其れでいて寝そべったまま、全く関与する気配は無く。



ウスロスにとっての鼓舞は、からかいの一種でしかない様だった。
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