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<貸し一>
しおりを挟む「少し狭いけど、まるで闘技場みたいですね」
調査隊が最後に着いたのが、あの円形闘技場だった。
見渡すリジョンの言葉に、一行は頷く。
「こんな所で、目一杯魔物と戦ってみたいもんだね」
そう言って闘技場に立つルミニーは、踊る様にステップを踏み剣を回す。
「縁起でもない事を、俺なら絶対に御免だな」
嫌な雰囲気を感じてか、ルドエルは闘技場に上がろうともしない。
「デーモンバスター貸してあげようか」
「借りないし、借りても嫌だ」
ルドエルをルミニーがからかい、リジョンが笑う。
「何も無さそうだし早く行こうぜ」
不安そうにルドエルが急かしていると、崩壊した壁の穴から飛んで来た何かが闘技場の中央に落ち鈍い音を響かせる。
驚き一行が注目すると其の黒い物体は今にも死にそうなキラーアントで、全ての足が真逆に折れ曲がっていた。
「酷い……、幾ら魔物とは云っても何でこんな事に……」
「早く止めを刺してやるのが、せめてもの情けだよな……」
動揺するリジョンに代わり、苦しむキラーアントの止めをルドエルが刺す。
一行がそんなやり取りをしている間に、抜け穴から進入してきたキラーアントの大群は瞬く間に迫って来ていた。
「どうやら同情している場合じゃないよ」
そう言ってルミニーが身構えると、キラーアント達は次々と駆け寄り襲い掛かろうとしていく。
キラーアントの大群からすれば、仲間に起きた不可解な出来事の犯人はルミニー達であり。
通常のキラーアントは人間とは会話出来ないが、止めを刺した後の状況ではそうとしか見えないのである。
「ケルマン、ラタを連れて先にキャンプ地に戻りな」
「貴方達はどうするのです?」
「足止めだよ。早くしな、貸し一だよ」
「此れは高く付きそうですね」
そう言ってケルマンはラタを連れ足早に立ち去り、来た道を戻り城内を迂回してキャンプ地を目指す。
キャンプ地でも再び魔物に襲われる可能性は在ったが、ケルマンの実力なら大丈夫だろうというルミニーの判断だった。
何よりも数で比較すると、前回キャンプ地で襲われた時とは比べ物に為らない程にキラーアントは溢れていて。
キャンプ地に残るキラーアントの数は、少数だと予想していた。
だが問題は如何にルミニーが強いと云っても、此の大群相手に生存するのは難しく。
正に死地と云える今回の貸し一は、返る見込みの無い貸しだった。
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