偏執の枷〜わたしの幸せはわたしが決める〜

咲木乃律

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第二章

十ハ年前の顛末 2

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 そこからグラントリーが話し役となって、十八年前、エグバルトとグラントリー、それに文官である三番目の兄、ブライアンとで話し合い、神の里急襲へ至った経緯をアランに語って聞かせた。

 きっかけは今から十八年前、テンドウ族の神子と名乗る男を保護したとの報せが黄帝城へともたらされたことからだった。

 報せは神の里から程近いナナトの領主からだった。

 ナナトの領主からの報せによると、何でもその神子と名乗る男は左腕を失っており、神の里から命からがら逃げ延びてきたのだという。

 相手が神の里のテンドウ族だったこと、今までに前例のないことから、この男の処遇をどうすべきかとお伺いをたててきたナナトの領主は、しかしその神子と名乗る男が、妙な話をしているというのだ。

 男は、テンドウ族の神子として幼い頃から両親と引き離され、神殿で暮らしてきた。

 緑龍に仕える神子として、里の者にかしずかれ、敬われてきた。

 しかし十八の誕生日を迎えてすぐ、神子の務めと称して男に抱かれた。

 自分を抱いた男は里の人間ではなく、商人のような風体の者だったという。その後も不定期に様々な者に引き合わされ、その度体を開かれた。

 体がつらく、精神的にも病み荒んでいった男だが、しかしそれが神子の務めだ、ひいてはテンドウ族皆のためになると諭され、嫌々ながらそうやって生きてきた。

 それでもどうにも耐えがたく、ある夜、また男に抱かれそうになった時、とうとう寝所を逃げ出した。

 けれどすぐに見つかり、神殿の奥深くへと連れて行かれ、そこで左腕を切り落とされた。

 そこには寝所から逃げたときにいた男が控えており、切り落とされた自分の左腕にその男がかぶりついた……。

「なんですか、その話……」

 アランは堪らずグラントリーの話に顔をしかめた。

「ひどい話だ。人の所業とは思えない。なんだってそんなこと……」

「そうだな。人肉を食べるなど、人道にもとる行為だ」

 グラントリーは頷き、

「実はな、それまでにもうわさとして漏れ聞いたことはあったんだ。テンドウ族の神子と体を繋げると、寿命が延びると。もちろん眉唾もので、何ら根拠のない話だ。それにテンドウ族の神子の血肉は、病気を癒してくれるという話もある。テンドウ族の神殿は、緑龍を戴く神殿だ。緑龍自体、生命の源として信奉されてきたことから、テンドウ族の神子は生命力に溢れた存在として認識されたようだな」

「正気とは思えんな……」

 アランの言に、「その通りだ」とグラントリーは応じる。

「正気の沙汰ではないな。テンドウ族とはいえ、我々と同じ人間だ。人間の血肉が人間を癒す。そんな馬鹿げた話があってたまるか」

「では、兄上たちはその神子は、男たちの身を癒すために差し出されたと思っているんですか? 腕を切り落とされたのも、その男の病気を治すためだと」

「この話を聞いたとき、真っ先にそのうわさを思い出したな」とグラントリー。

 しかしその神子の話だけでは何もわからないのもまた事実だったとグラントリーは言う。 

 そこで神子と名乗るその男の身柄をひとまず軍へと移し、保護すると共に内偵を開始した。

 すると金回りのいい商人や貴族を中心に、密かに囁かれるその手の話があり、辿っていくとテンドウ族の折衝役と言われる一人の男に行き当たった。

 身分を隠し、その男に接触すると、莫大な金額を提示され、それに頷くと神の里への潜入に成功した。

 その者が何度かに渡って潜入した結果、神の里には神子と呼ばれる男女が数十人おり、金持ちの商人や貴族を相手にさせられており、中には逃げ出してきた神子のように腕や足を欠損している者もいるようだという。

 神子に体を差し出させ、資金を集める。

 統治一族が拠点とする神殿は、それは荘厳で贅を尽くしたものだった。

 神の里と称され、畏怖されてきた里の実体に、エグバルトもグラントリーも嫌悪感を抱いた。

 テンドウ族に関する奇妙なうわさは以前からあったが、まさか本当にそのようなことが行われているとは思ってもみなかった。

 腐敗は知らぬ間に帝国内に入り込む。

 すでに一部の貴族には狂信的にテンドウ族の神子を信奉している者もおり、今後帝国にとって大きな脅威となるかもしれない。
 
 とはいえ、内偵を進めるうちにわかったことだが、大半のテンドウ族は神殿で行われているこの所業を知らなかった。

 神子として神殿へ我が子を上げることは、大変な名誉だともされていたくらいだ。

 だが、実際には神殿に取られた子は性接待をさせられ、あげくに肉を切られる。その内実を知らず、我が子をみすみす差し出しているテンドウ族の、純朴で朴訥な様子が哀れだった。

 非人道的な神の里を急襲したのは、このような神子達の解放が目的だったのだという。

 神子を集め、神殿を管理しているのはテンドウ族の中でも一部の統治者一族と呼ばれる一派で、帝国はこれら統治一族を捕らえ幽閉。神の里を解体させ、テンドウ族は帝国各地の新天地へと散らばらせた。

「そのような事情があったのですね」

 アランは気分の悪くなるような話に胸の奥がちりついた。

 今でも非道と非難されるテンドウ族への帝国の急襲には、そのような事情があったのかと納得する。

 グラントリーは更に、帝国がテンドウ族の解放を声高に喧伝しなかったのは、神子の存在を守るためでもあったのだと言った。

「神の里で行われていたことが広く知られれば、神子の体が病気平癒に役立つと妙なうわさだけが先行するのではないかと恐れたんだ。そんな眉唾物の話、ほとんどの者は信じないだろうが、死病を得、藁にも縋る思いの者にとって、垂涎の的となるかもしれない。帝国内で万が一、テンドウ族の神子狩りなどというものが起これば、帝国の秩序の乱れにも通じるし、何より神子の安全が保てない」

 そこでテンドウ族解体の実情は伏せられたのだとグラントリー。

「おかげで私は極悪非道の面を被ることになったのだがね」

 エグバルトが苦笑した。

 しかしな、と続け、「テンドウ族が帝国内に住んでいる今、テンドウ族も帝国の一員だ。その一員を守るためならば、喜んで非道の仮面を被ろうというものだ」と不遜に笑う。

「それにな、戦争を仕掛けたんだ。いくら神子の解放という大義名分があったにせよ、命を落とした者は皆無ではないからな」

 エグバルトが背負うものの大きさを、アランは見た気がした。

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