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好みではない手

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土日お休みで良かった。
ひどい顔で出社はできないから。
それにしてもなんで急に。
ダメダメ考えない!
戻らない!
前に進む!

紺野君のステキな手を見ればかきみだされた心が落ち着くかと思ったけど。
あいにく今日は新入社員研修で一日いない。
早く見たい。
早く見て気持ちを落ち着かせたい。
やっとお昼。こんなに一日を長く感じるなんて。

「今日もお弁当?」
「高田さん!きょ、今日はお弁当じゃないです。」

土日脱け殻のようになっていて。
全くお料理する気力がなかった。

「じゃ~ランチ行かない?」
「え?」
「久しぶりに行こう!」

返事をする間もなく行くこと前提で歩き出す。

「ここでいい?」
「はい。」

ここは私が好きだったお店。
金曜日からずっと過去に引き戻されている。

「奈美何にする?」
「ミートソースのパスタランチで。」
「あはは。相変わらずだな!じゃ~俺はカルボナーラで。」
「高田さんだって相変わらず。」
「好きなものはそう簡単には変わらないから。」

それって。
深い意味はないよね?

「…。そうですね。」
「ってか久しぶりだよな!こうしてランチするの!」
「はい。」
「二人でいる時敬語と高田さん呼びやめない?なんか変な感じする。」
「でも。」
「いいじゃん。」
「うん。分かった。」

高田さん。篤人さんは簡単にいなくなって。
簡単に戻ってくる。
まるで何もなかったかのように。

「紺野と付き合ってんの?」

唐突な質問に慌てる。

「えっ!?」
「やっぱり。」
「ち、違うよ!ホント違うから!」
「はいはい。」
「いや!ホントに!」
「分かったって。」
「うん。」
「付き合ってないなら。」
「ん?」
「もう一回奈美とやり直したい。」
「お待たせいたしました。ミートソースとカルボナーラです。」

え…。
今なんて?
頭真っ白。

「奈美と離れて分かった。俺奈美じゃなきゃだめだわ。」
「…。」
「…とりあえず食べよっか。」

食べていても味がしない。
心がざわざわして。
なんだかさぁっと血の気が引いて行く。
頭がくらくらする。

「奈美!奈美!?」

遠くで私を呼ぶ篤人さんの声。
気が遠くなる。

「ん。」

あれ?ここはどこ?

「気がついた?」
「あの。ここは?」
「会社の医務室よ。食事中に貧血起こしたみたいで。高田さんが運んできてくれて。」
「…。」
「まだもう少し休んでいた方がよさそうね。」
「すみません…。」

あぁ。なんでこんなことに。
土日まともに食べてなかったからかなぁ。
そんなにやわじゃないと思っていたけど。
篤人さんのことでこんなにゆらぐなんて。
私弱すぎ。

「少しは顔色よくなったわね。けどまだ無理しちゃダメよ。」
「はい。ありがとうございました。」

少し眠って身体は楽になってきたけど。
心が重い。
そして職場に戻る足取りも重い。
戻りたくない。
戻ったら篤人さんがいる。
どうしよう。

「奈美!」

不意打ち。
廊下の所ですでに会ってしまった。

「もう大丈夫なのかよ。」
「ん。」
「良かったぁ。」
「あの。運んでもらったって。ありがとう。」
「重くて大変だったんだぞ~!」
「えっ。あのホントごめん!」
「なんて嘘うそ!俺意外と筋肉あるから!」

細いのに力はあるの知ってる。
篤人さんとは入社二年目に一緒にお仕事させてもらう機会があって。
長い時間を共に過ごしていくうちにその優しさと明るさに惹かれていった。
初めて手から好きにならなかった人。
それまで私の好きの基準は手だった。
まずは手を見て。手が好みじゃなかったら恋愛対象にもならなかった。
好みの手ではないけれど。
初めて手から好きにならなかった人だから。
だからかなぁ。心が重い。
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