【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

凱旋

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「帰ってきた、帰って来たぞー!!」
「英雄達のお帰りだ!!」
「おかえりなさーい!」

 王都クイーンズガーデン、その正面に聳え立つ巨大な門は今や英雄達の帰りを待つ凱旋門へと姿を変えていた。
 その門を潜り王都へと凱旋する英雄達に浴びせかけられるのは、通りに溢れた民衆の喝采だけではない。
 彼らはそれぞれに祝いの気持ちを込めて英雄達に何かを浴びせかけていた、それらは本来であれば摘み取った花の花弁かそれに模した造花の類であろう。
 しかし突然の王都急襲と、先ほどまで陥落寸前にまで陥った事態に彼らが十分な準備が出来た筈もない。
 そのため彼らが振りまいているのは、自分達の衣服や普段使いようの紙を千切って作った間に合わせの品であり、その中でも特に緊急用に備蓄されていた古米が景気よく振りまかれては、凱旋に華やかさを加えるのに一役買っていた。

「おぉ、凄いな・・・」

 そんな熱狂的な民衆の歓迎を一身に受ける英雄の一人、ユーリは思わずそう呟いていた。
 戦乱終結の立役者の一人として凱旋する集団の先頭を歩くユーリ、彼らに浴びせかけられる歓声の迫力は特に凄まじく、彼はその迫力に圧倒されてしまっていたのだ。

「きゃー、マーカス様ー!!」
「あーん、汚れたお顔が逆にそそられるー!!」

 この戦乱で活躍した英雄達が集まる先頭集団、その中でも特に人気を集めるのはやはりこの人、マーカス・オブライエンだろう。
 元々その容姿や生まれ、さらに人柄と能力にも恵まれ若い女性を中心に絶大に人気があった彼である、それが父親に裏切られ悲壮な覚悟を抱えたまま王都を命を削りながら必死に守り抜いたのだ、人気が出ない訳がない。

「おー、やっぱり人気あるんだなぁマーカスは」

 隣を歩くマーカスに対して、周囲の婦女子達が卒倒せんばかりに興奮しながら歓声を投げかけている。
 マーカスはそれに対して、爽やかに笑いながら手を振り返していた。
 ユーリはそんな様子を眺めながら、どこか嬉しそうにしみじみとそう呟いていた。

「あぁ、お姉様は今日もお美しいですわ・・・」
「王国の守護天使、君に祈りを・・・」

 マーカスに次ぐ人気を集めているのは、エクスであった。
 彼女は彼と人気を二分するほどに歓声を集めており、しかもそれはマーカスとは違い男女両方からのものであった。
 尤もそれはマーカスのミーハーな、ある意味カラッとした歓声と違い、どこか手の届かない存在に向ける崇拝のようなねっとりとした声の数々ではあったが。

「へー、エクスも人気あるのか。ははっ、照れてやんの。案外、可愛い所もあるんだな」

 周囲から妙に熱量の高いねっとりとした歓声を浴びせられ、エクスは戸惑うようにぎこちなく手を振り返している。
 そんな彼女の初めての姿を目にしたユーリは、微笑ましいものを目にしたと思わず頬を緩ませていた。

「おいっ、邪魔だよ!今回の戦いの一番の功労者、『姫将軍』オリビア・ユークレール様のお姿が見えねぇじゃねぇか!!」
「あぁん、一番の功労者だぁ?そんなのあのティカロン同盟を味方につけたボロア・ボロリアに決まってんだろうが!?」
「んだと、てめぇ!」
「あぁ?やんのかこら!?」

 そして意外な事に彼らに次ぐ人気を集めているのは、オリビアとボロアであった。
 元々この国でもトップの名家の生まれであり、女王の侍女として公の場に現れる事も多かったオリビアはともかく、ボンクラ坊ちゃんとして有名であったボロアのこの人気は意外であろう。
 しかし結果的にとはいえ彼の功績が戦況を決定づけたのは事実であるし、その振る舞いや言動がどこか憎めず、愛嬌があるのもまた事実であった。

「あの二人も?意外だなぁ・・・でもこれなら俺も、いけるんじゃないか?よ、よし!お、おーい、ここにも一人、戦乱終結の立役者がいますよー」

 オリビアとボロア、どちらが今回一番の功労者かで取っ組み合いの喧嘩を始めた観衆の姿に、ユーリはこれなら自分にも歓声が得られるのではないかと、存在をアピールするようにおずおずと手を振りだしていた。

「お、おい見ろよあれ・・・王殺しのユーリだ」
「あ、あぁ・・・何でも犯罪者の集団を率いて、ティカロン同盟を牛耳っていたとか。今回味方したのも、とんでもない額の報酬を約束されたからって話だぜ」
「俺が聞いた話では、あのカンパーベック砦をたった四人で落としたんだとよ。その時に使ったっていう恐ろしい手段は、そりゃもう言葉では表しきれねぇもんだとか」
「しっ!声がでかい!こっち見てるぞ」

 マーカスほどとはいかないまでも、暖かい歓声で迎えられると期待したユーリに返ってきたのは、そんな冷たい反応であった。

「あ、あれ・・・?お、おかしいな・・・」

 そんな周りの反応に肩透かしを食らい、戸惑うユーリ。
 しかし周りはそれだけでは許さず、彼をさらに追い詰めるように冷たい視線を向けるのだった。

「むー・・・そんなんじゃないもん!!おとーさんは凄いんだから!!」
「そ、そうだよ!!おとーさんを悪く言わないでください!!」

 周りからの冷たい視線に追い詰められ、その圧力に押しやられるように後ろへと下がるユーリ。
 そんな彼の背中を支え、さらには守るように前に立ち塞がったのは彼の二人の娘、ネロとプティだった。

「そうですわ。これでもこれは我が家の家宰ですの、余り悪く言わないでくださるかしら?」
「・・・マスター、ご命令とあれば排除いたしますが?」

 さらにそこにオリビアとエクスも加わり、彼女達の後からはマーカスやエスメラルダ、トムとダニエルといった有力者も加わっていた。

「あ、あれ?本当はいい奴なのか・・・?」
「ば、馬鹿!騙されるんじゃねぇよ!あいつは―――」

 ユーリの周囲に集まる、この戦乱終結の立役者達。
 彼らの姿にユーリの存在を否定し彼を批判していた周囲も勢いを失い、手の平を返す者も出てきていた。

「『王殺し』ユーリ・ハリントン」

 その時、今やこの国の宰相となったレイン・チューダーが凱旋した英雄を出迎えるために現れていた。
 そして彼は、その場に現れるや否やそう口にして、真っすぐにユーリへと視線を向ける。

「おぉ!そうだそうだ、もっと言ってやれ!!どんな事をしたってなぁ、その事実は消えないんだよぉ!!」

 彼の登場と共に口にした言葉に、周囲のユーリを非難する一団は勢いを取り戻す。
 彼らはレインがこのままユーリを処断してくれるものと、期待に声を張り上げていた。

「あ、やっべ。忘れてたっ!」

 そして当の本人であるユーリも、その事実を今思い出したと顔面を蒼白にさせ、この場から慌てて逃げ出そうとしているのだった。

「申し訳ありません!!調査の結果、貴方に掛けられた嫌疑は偽りだったと判明致しました!ここにこの国の宰相として、正式に謝罪させていただきます!!」

 しかし全ては、レインが次に口にしたその言葉によって覆る。
 彼はユーリに頭を下げると、ここにいる全員に周知するようにユーリに掛けられた嫌疑が冤罪だったと宣言したのだった。

「えっ、そうなの?」

 その声は、レインの言葉に呆気に取られた周囲の観衆の一人から思わず漏れたものだ。
 そして今まさに、歓声と共に抱き着いてくる娘達や周りの者達に囲まれている本人、ユーリ自身の口からも同じように漏れた言葉であった。

◇◆◇◆◇◆

「良かった、お許しくださいますか」

 謝罪を受け入れたユーリに、レインはそう安堵したように呟いた。
 彼らは民衆が溢れる大通りから離れ、そこから少し外れた人気のない通りを歩いていた。

「いえまぁ、感謝したいのこっちというか・・・それより、これはどこに向かっているんですか?あ、分かりました!祝勝会の会場でしょう?きっと豪華なご馳走がたっぷり用意してあるんだ」
「はははっ、それはまた後という事で。皆様にはまず女王陛下に勝利のご報告をと思いまして、向かっているのは・・・あぁ見えてきましたね、あそこです。あのおこもりの塔で、陛下は儀式を行っているのですが、それもそろそろ終わる頃ですので直接お会いになれると思いますよ」

 どこに連れていかれるのかと予想し声を上げたユーリに、レインは苦笑するように笑みを漏らす。
 彼は手を伸ばすと、建物の間に見えてきた目的の場所の姿を指し示していた。
 そこには王都の片隅の聳え立つ王位継承の儀式の場、おこもりの塔の姿があった。

「えー!?そんなのつまんなーい!ボク、行かないから!それっ!」
「あ、ネロ!ま、待ってよー!」
「貴方達は・・・全くもう、困ったものですわね!」
「こらー!ねーさまを置いてくなー!!」
「ん?何だか向こうの方が楽しそうだな・・・待て、ガキんちょども!僕もそっちについていくぞ!」

 女王陛下への公的な謁見というのは、考えられる最大級の名誉であろう。
 しかしそんなもの、子供達にとっては何の得にもならない。
 つまらないと飛び出していったネロを追い掛けるようにプティも飛び出していき、それに釣られるようにオリビアとエスメラルダも駆け出していく。
 さらには何故かボロアまでもがその後に続いていくのだから、困ったものだ。

「あっ、お前達!・・・その、すみません」
「はははっ、いいじゃないですか子供は元気で。おっと、もう着いたようですね」

 飛び出していった子供達に、その場に残ったメンバーは主にユーリの仲間達とこの戦乱で活躍した主要な人物達であった。
 そしてそこには、最後に裏切り戦乱の行方を決定づけたパトリックの姿もあった。

「・・・おかしいな、警備の兵が詰めている筈なんだけど」

 おこもりの塔、そこは王族以外には基本的に立ち入り禁止の場所である。
 ましてや今まさに、女王であるリリーナが儀式を行っているその場所には、当然のように厳重な警備が敷かれている筈であった。
 しかしそこには一切の警備の姿がない、レインはそれに疑問を感じながらも塔内部への扉を開く。

「・・・遅かったな」

 おこもりの塔、その内部に待ち構えていたジーク・オブライエンは、そう口にしながら振り返る。
 周囲にアーティファクトの数々を突き刺し、墓標のようになった場所の中心に彼は静かに立ち尽くしていた。
 その姿はまるで、世界の終わりを告げる魔王のようであった。
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