【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

文字の大きさ
120 / 210
第二章 王国動乱

ジョンは激怒した

しおりを挟む
「あの男を・・・あの男を今すぐここに連れてくるのだ!!余、自ら処刑してくれる!!」

 王城黒百合城、その黒く聳える威容から伸びる回廊は、王の妻達が過ごす後宮へと繋がっている。
 その回廊に立ち並ぶ柱の数は、両手の指では足りないだろう。
 それらの柱の影の間から、それよりも少ない数の一団の姿が覗いていた。
 集団の先頭を歩いているのは、その中でも一際小柄な子供でしかなかった。
 しかしその彼が一声上げただけで周りの者達は怯え、慌てふためている。
 それは彼こそがこの国の王、第十七代国王ジョン・カイル・リンドホーム=エルドリッチその人であったからだ。

「へ、陛下・・・実は、その男の事で分かった事がございます」

 回廊全体に響き渡るようなジョンの怒鳴り声に、彼の背後に控えていた集団の中の一人、眼鏡を掛けた気弱そうな若者がおずおずと声を掛けてくる。
 彼らは皆若くまだ経験も浅そうであったが、揃って学識の高そうな身形をしており、恐らく王のために用意された側近達であろう。

「素性が分かったのならば連れてくればよかろう!!何故そうしない!?」

 眼鏡の若者が怯えた様子でようやく声を発したのは、その相手がこの国の最高権力者というだけではないだろう。
 彼は怯えていたのだ、その振り返ったジョンの怒りに狂った血走った目に。

「そ、それが例の男、ユーリ・ハリントンと名乗っているようなのですが・・・彼はどうやらあのユークレール家の家宰を務めているようでして」

 家宰とは、その家の政務の一切を取り仕切る役職だ。
 つまりその職に就くという事は、その家のNo.2になるという事を意味している。

「それがどうした!?さっさとそのユーリ何とかというのをひっ捕らえてくればよかろう!!」

 眼鏡の若者はわざわざユークレール家の名を強調して、ジョンに何かを察して欲しそうに語っていた。
 しかしそんな彼の思惑など無視して、ジョンは再び怒鳴り声を上げる。
 ジョンの背後では、興奮の余り彼の頭からずれてしまった王冠をそっと直している側近の姿があった。

「そ、それは流石に・・・ユークレール家はあの四大貴族の一員であり、その中でも最も歴史のある名家でもあります。その家宰ともなりますと、そう簡単に手を出す訳には・・・」

 ユークレール家の名を出しても収まる事のないジョンの怒りに、側近達は顔を見合わせてはひそひそと話し合っている。
 そんな彼らから再び眼鏡の若者が進み出ては発言する、その発言には他の側近達も賛成だと何度も頷いて見せていた。

「だったら!そのユークレール家も取り潰せばいいではないか!!」
「ユ、ユークレール家をお取り潰しになさると!?いけません!そんな事をしては、陛下の名誉に関わります!!」

 眼鏡の若者の言葉に再び激高したジョンの動きは激しく、彼の頭から吹き飛んでしまった王冠を側近の者が慌ててダイビングキャッチしている。
 何とか王冠を拾った彼は、そのまま口論へと発展したジョンと若者の姿に戸惑いながらも、何とかジョンの頭へとそれを戻そうと試みていた。

「何故だ、何故いけない!?余は王ぞ!!王が何故、臣下である貴族の顔色なぞを窺わなければならぬ!!!もういい、貴様らには頼らん!!」
「陛下!?どこに行かれるのです、お待ちください!!」

 王冠を拾った側近がジョンの頭にそれを何とか戻しほっと一息をついていると、彼の目の前では決定的な決裂が起こっていた。
 もはや頼りにならぬと踵を返したジョンは、側近達を切り捨て後宮へと続く回廊を駆けていく。

「おい、ほっとけよ」
「え?で、ですが・・・」

 自分達を捨てて飛び出していくジョンを、眼鏡の若者は慌てて追い駆けようとしている。
 その手を他の側近達が掴み、彼を引き留めていた。

「私達はもう頼りにならないんだろう?結構じゃないか、勝手にさせておけば。それとも追い駆けて、ユークレール家のお取り潰しに関わろうとでも?私はご免こうむるな」
「その通りその通り、あのような歴史ある名家のお取り潰しなど・・・誰から恨みを買うか分かったものではありませんからな」
「それが賢明でしょう。王が勝手にやった、だから我々には責任はないと。いやはやチューダー君はよくやってくれましたな、彼のお陰で我々は陛下をお止めしたのだという言い訳も出来ましたからな。お手柄ですぞ」

 去っていった王の後姿へと視線を向けながら、側近達は口々にその行いを非難し眉を顰めている。
 彼らはそれと対比するようにチューダーと呼ばれた眼鏡の若者の行いを褒め称え、その肩を労うように次々と叩いていく。

「は、はぁ・・・それはその、お褒め預かり光栄です先輩方」

 自らを褒め称えてくる先輩達に、チューダーは何とも言えない表情でお礼の言葉を口にする。
 彼の目の前では側近達が慌ててその場を離れようとしており、これから行われる王の振る舞いにあくまでも無関係であろうとしている様子だった。

「陛下・・・」

 側近達の後ろをついて行くチューダーは最後に一度振り返り、そう口にする。
 その視線の先には、後宮へと消えていくジョンの姿が映っていた。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...