【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

オリビア奪還計画

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「へ・・・っくし!!」

 王都クイーンズガーデン、その大通りに面した宿の一室からくしゃみの音が響く。
 そのくしゃみを盛大に放った男、ユーリは鼻をズルズルと鳴らしながら僅かに身体を震わせていた。

「大丈夫ですか、ユーリさん?」
「お待ちください、マスター!今、毛布を貰って参ります!」

 風邪の前兆に身体を震わせているユーリに、彼の隣に座っていたヘイニーが心配そうに声を掛ける。
 更にユーリの背後に控えていたエクスなどは過剰に彼の体調を心配し、今にもこの部屋から飛び出していこうという勢いだった。

「大丈夫です大丈夫です、何ともないんで。あぁ、エクス!別にそこまで心配しなくていいから、戻っておいで。何でしょうね、急にムズムズっときて・・・誰か噂でもしてるのかな?はっはっは」

 やけに心配してくる周りにユーリは逆に気まずくなると、逆に元気に振舞う事で彼らの懸念を払拭しようとしていた。
 そんなユーリの呼びかけによってエクスは不安そうな表情ながら席へと戻り、その前で彼は頭を掻きながら朗らかに笑い声を上げる。

「はっはっは・・・じゃ、なーーーーーい!!!」

 そんな朗らかな笑い声が響く平和な午後の団らんに、少女の怒鳴りつけるような大声が響く。
 その少女、ネロはユーリ達を集めた部屋の端っこで、どこから持ち出してきたのか不明な黒板を前に、それを叩きながら彼らの事を怒鳴り散らしていた。

「そーだよ、おとーさん!!今は、オリビア達をどうやって取り返すかの会議の途中なの!!もっと真剣にやらなきゃ駄目でしょ!!」
「そーだそーだ!!いいぞー、もっと言ってやれープティ!!」

 ごちゃごちゃと何やら記された大きな黒板の前で、ユーリの娘である獣耳少女ネロとプティの二人がユーリ達にもっと真剣にやれと怒っている。
 その黒板の上部に記された、赤文字で書かれ黄色で囲われ何やらイラストも施されている見出しを見るに、今はオリビア救出作戦の会議の真っ最中であるらしかった。

「・・・それ、一体どこから拾ってきたんだ?今朝はなかったよな?」
「私がゴミ捨て場から拾って参りました」
「へー、そうなんだ」

 しかしそんな二人の張り切りっぷりよりも、ユーリは彼女達が使っている黒板の出所の方が気になっているらしかった。
 その疑問に自分が拾って持ってきたと答えたのは、彼の背後のエクスだ。
 ユーリはそちらへと振り返り、何故か誇らしげに胸を押さえている彼女の姿を目にしては、気の抜けた感想を漏らしていた。

「もーーー!!そんなのどーでもいいでしょー!?もっと真剣にやって!!」
「そうだよおとーさん!やっとオリビア達が見つかったんだよ!?早く取り返したくないの!?」

 そんなユーリののんびりとした態度に、ネロとプティの二人はさらに怒りのボルテージを上げ、彼を左右で挟んでは大声を上げる。

「んー・・・そうは言ってもなぁ、どうしようもなくないか?向こうは王族なんだし・・・」

 オリビア達を早く取り返そうと躍起になっているネロとプティに対し、ユーリの反応は鈍い。
 彼はあの場についていけなかった二人と違い、王族として貴族達の前に立つリリーナの姿を目にしていたのだ。
 あの圧倒的なオーラを纏う彼女を目にした彼からすれば、彼女はもはや手の届かない存在に思えても仕方のない事であった。

「むー・・・だったら、もういい!!おとーさんは座ってて、ボク達だけで考えるから!はい、誰か意見のある人!!」
「よろしいでしょうか、ネロ?」
「はい、エクス!!」

 歯切れの悪いユーリの姿に、ネロはもう堪忍袋の緒が切れたと頬を膨らませると、そっぽを向いて腕を組む。
 彼女はもはやユーリは頼らないと、他の人の意見を求める。
 それに真っ先に手を上げたのは、ユーリの背後に控えるエクスであった。

「無理やり奪い返せばよろしいのではないでしょうか?見たところ、王城の警備は大したことはありませんでした。私にお任せいただければ、今からでもオリビア達を取り返してご覧にいれますが?」

 ネロに指名されたエクスは立ち上がると、軽く咳払いをして話し始める。
 彼女がその真剣な表情で話しだしたのは、力で無理やりオリビア達を奪い返すというとても物騒な話しであった。

「よし、いいね!じゃあエクス、今から―――」

 エクスの提案にネロはすぐさま太鼓判を押し、彼女を奪還に向かわせようとする。

「駄目ですエクスさん、向こうは王家ですよ!?それに楯突こうなんて・・・絶対いけません!!あぁ、恐ろしい!」

 ネロの指示に早速とばかりに向かおうとしていたエクスを、ヘイニーが必死の形相で止めている。
 彼に制止させられたエクスはどこか残念そうにしゅんとし、再び席へと戻っていた。

「むー・・・どうしても駄目ー?」
「駄目です!!絶対に駄目!!」
「駄目かー・・・じゃーしょーがない。次の人ー」

 ヘイニーの反対にも諦めきれないネロが、彼に甘えるような上目遣いで尋ねる。
 しかしそれにも揺らぐ事なく、寧ろさらに激しくヘイニーは腕をクロスさせては絶対に駄目だと断言していた。

「は、はい!」
「おっ、じゃあプティ!」

 ヘイニーの頑なな反対によってエクスの提案を諦めたネロは、次の提案を求める。
 それにおずおずと手を上げたのは、その普段は寝ている耳をピンと立てたプティだった。

「え、えっとね・・・その向こうもオリビア達を誘拐したんだから、こっちも誘拐したらいいと思うな。それでね、うまくやればバレないと思うし・・・ど、どうかな?」
「おっ、いいじゃんプティ!じゃあそれで―――」

 ネロの指名を受けておずおずと喋り出したプティは、誘拐されたんだから誘拐し返せばいいと口にする。
 その提案に先ほど同様、ネロはすぐさま採用を決めようとしていた。

「いや、それってさっきの提案とあんまり変わらなくない?」

 しかしそれは許される事なく、ユーリの当たり前の感想によって突っ込まれてしまう。

「もー!!おとーさんはすぐそーやって反対するー!!じゃー、どうすればいいってのさー!!」

 折角まとまりかけていた案をまたしても駄目だしされた事で、ネロは頭を掻き毟ると地団駄を踏んでは悔しがる。

「いや、そう急ぐことはないんじゃない?少なくとも無事な事は確認出来たんだし・・・」
「そうですね、王家に楯突く訳にはいきませんし。一度会って、じっくりと事情を聞いてみたいところですが・・・」

 頭を抱えどうすればいいのだと暴れるネロに対し、ユーリとヘイニーの二人は取り合えず無事は確認出来たのだからそれでいいじゃないかと妥協を口にする。

「うー・・・でもさー、向こうは誘拐なんてしてくる奴らなんだよ?いつまで無事かなんて分かんないじゃん!」
「そうだよ!オリビア達、危険な目にあってるかもしれないんだよ!?助けに行かないと!」
「そ、それは・・・」

 取り合えず無事そうだからと口にする二人に対し、ネロとプティは相手は誘拐をするような危険な連中なんだと、大袈裟な身振り手振りを交えて力説する。
 そんな彼女達の振る舞いに、娘であるオリビアを攫われているヘイニーは不安が過り、顔を青くしていた。

「ほら、おじさんも不安なんじゃん!これでも駄目なの、おとーさん?」
「一緒にオリビア達を助けに行こ?ね、おとーさん?」

 過った不安に、胸を苦しそうに抱えるヘイニー。
 ネロとプティの二人はそんな彼を支えるように両側にくっつくと、その潤んだ瞳をユーリへと向ける。

「はぁ・・・しょーがねーなー!」
「「おとーさん!!」」

 二人の娘からのおねだりにユーリは頭をボリボリと掻き毟ると、盛大に溜め息を漏らす。
 そうしてさも仕方なくといった様子で了承を口にしたユーリに、ネロとプティの二人は瞳を輝かせては彼に抱き着いていた。

「いいんですか、ユーリさん!?」

 口では色々と反対していても、やはり本心では娘の事が心配だったのか、ヘイニーはユーリのその言葉を聞くと振り返り、嬉しそうな表情で彼を顔を見詰める。

「ま、何とかしてみますよ」

 そんなヘイニーに対してユーリは不敵に笑うと、何とかして見せると見栄を切る。
 彼の両腕には二人の娘が嬉しそうにぶら下がり、その前途を祝うように歓声を上げ続けていた。
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