【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

書き足し

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「フレイム、ソード!!」

 高らかに響く必殺技の名前、大きく飛び上がった小柄な身体はその上段に剣を構えている。
 敵である大柄で強面の男は、碌に構えも取っておらず隙だらけだ。
 後はそれを振り下ろすだけで終わる、物語でいえば一番盛り上がるクライマックスのシーンだ。

「はっ!そんなんがなぁ・・・効く訳ねーだろがぁ!!」

 しかし現実は、物語のように甘くはない。
 敵である強面の大男、オーソンは思いっきり飛び上がりながら切りつけてきたネロを軽々と弾き飛ばす。

「何だぁ?必殺技の名前でも叫べば、力に目覚めるとでも思ったのかぁ?はっ、御伽噺じゃあるまいし、んな事ある訳ねーだろーが!!」

 まだ御伽噺を夢見るような年齢の少女が、御伽噺に出てきそうな悪役に蹂躙される。
 それはある意味、御伽噺のワンシーンのような光景であった。

「や、やらせないもん!!」

 そしてまるで御伽噺のように、そんな少女を守る王子様が現れる。
 王子様と呼ぶには余りに頼りなく、可愛らしい王子様が。

「はははっ、こりゃいい!!随分可愛らしい王子様じゃねぇか!!あぁ、それともお姫様って呼んだ方がいいかぁ!?」
「きゃあ!!?」

 地面へと倒れ伏すネロの前に立ち塞がり、両手を広げて彼女を守ろうとするプティは、恐怖にプルプルと小刻みに震えている。
 そんな彼女を馬鹿にするように笑い声を上げたオーソンは、乱暴な手つきで彼女の身体を引っ張り上げていた。

「プティちゃん!?ユーリさん、プティちゃんが!!・・・ユーリさん?こんな時に、何をやってるんですか!?」

 乱暴に引っ張り上げられたプティは、その服の裾をびりびりと破かれてしまっている。
 そんな彼女の痛々しい姿に口元を覆ったトリニアは、こんな状況になっても何やら手元でごそごそやっているユーリに怒りを募らせ、その肩を掴む。

「何ですか、これ・・・?二人のプロフィール?こんな時に、一体何を―――」

 トリニアがユーリの手元で目にしたのは、ネロとプティ二人のプロフィールを記した書類。

「・・・炎魔法は書き足せない?相性が悪いのか・・・なら、魔法剣ならどうだ?」

 ぶつぶつと呟きながらペンを動かしても、そこに文字が書き足されることはない。
 ユーリはそれに首を捻ると、別の言葉を呟く。
 ペン先からインクが滴り、近く置いてあったインク瓶から一気にインクがなくなっていく。

「あぁ、いけそうだ―――なら、『魔法剣Lv5』と」

 ユーリの呟きと共にペン先が動き、ネロのプロフィールのスキル欄に「魔法剣Lv5」が刻まれていく。

「何を、何をしてるんですか!?プティちゃんがピンチなんですよ!?そんな事してる場合じゃ・・・!!」
「さぁ、ネロ。もう一度だ」
「えっ・・・?」

 娘のピンチに、その父親が現実逃避のような妄想に耽っている。
 そんなユーリの姿に、トリニアは許せないと激しくその肩を揺する。
 ユーリはそんなことまるで気にも留めないように呟いていた、まるでその先の出来事が決まっているかのように。

「お前っ!!・・・プティを、プティを放せぇぇぇ!!!」

 オーソンに弾き飛ばされて少しの間意識を失っていたのか、目が覚めたネロは僅かの間ボーっと視線を彷徨わせていた。
 しかしそれも、オーソンに引っ張り上げられているプティを見つけるまでの話だ。
 その痛々しい姿を目にしたネロは、全身の毛を逆立たせると剣を拾い上げて、真っすぐに駆けだし始める。

「はっ、何だぁ?片手ならいけると思ったかぁ?何度やっても同じなんだよ!!」

 十分な助走に、ネロは大きく飛び上がる。
 それは先ほどと同じ展開だ。
 だから同じように、オーソンは自分が今度も勝つと剣を振るう。

「フレイム、ソーーード!!!」

 オーソンの鋭い刃が、ネロが振り下ろした剣を捉える。
 そしてそのままかつてと同じように、彼女は身体ごと弾き飛ばされる。
 そう、なる筈だった。

「ふんっ!だから言ってるだろ?何度やっても・・・何、だと?」

 確信した勝利に、オーソンは何度やっても同じ事だと唇を歪ませる。
 その彼の目の前で、その手にした刃が断ち切られていく。
 いや違う、それは焼き切られているのだ。

「うわあああああぁぁぁ!!!」
「おおおぉぉぉぉ!!?」

 焼き切られた刃に、それを燃やし尽くした刃が目の前に迫る。
 オーソンはその絶体絶命の状況に、もはや形振り構っていられずに引っ張り上げていたプティを手放していた。

「嘘!?だって、さっきはあんな事・・・」

 目の前の信じられない光景に、トリニアは口元を押さえて驚いている。
 それはその光景を目にした、他の者達も同様だった。

「っ!?そんな・・・もしかして」

 しかし彼女だけが、違う部分があった。
 それは、知っているということ。
 先ほどの光景、それを証明するかのような「魔法剣Lv5」が刻まれた書類の事を。
 奔った寒気に、トリニアは震える。

「ネロ、それ・・・」
「うん。おとーさんだ、おとーさんが助けてくれたんだ」

 燃え盛る剣をその手に抱えながら、ネロはプティへと手を差し伸べる。
 それを手に取り助け起こされたプティは、その剣を指差す。
 そして二人はそちらへと振り向いていた、その力を授けてくれた大好きなおとーさんの方へと。

「ねぇ、ネロ。それ、私にも出来るかな?」
「出来るよ」
「うん、そうだよね」

 握った手の平、握り返してくる感触。
 息を混ぜ合わせるように、二人は会話を交わす。
 そこに、迷いも疑いもなかった。

「「だって、おとーさんが助けてくれるから」」

 再び、二人は振り返る。
 そこに唱えるは、魔法の言葉。
 全てを授けてくれた存在、それへの祈り。

「そうか、プティ。君は魔法が得意なんだね、なら―――」

 ユーリが手にしたペンが、奔る。
 そこに刻まれる文字は―――。

「こ、こんなの聞いてねぇぞ!!?お、おいレジー!?あんた知ってたのか!?これを知ってたのかよ!?」
「知らないわよ!?私だってこんな事になるなんて・・・ひっ!?」

 楽勝だと思っていた相手の思ってもいなかった実力に、オーソンとレジーは取り乱し揉め始める。
 そんな二人に向かって、二人はゆっくりと近づいていく。

「な、何なんだよ!?何なんだよ、お前らぁぁぁ!!?」

 取り乱した戦士がとる行動は二つ、全てを捨てて逃げ出すか、全てを失う覚悟で突っ込むかだ。
 オーソンは後者を選んだ。

「やっちゃえ、プティ」
「うん!」

 必死な形相で向かってくるオーソンに、ネロは軽やかに笑うとプティの背中を軽く叩く。
 それに一歩踏み出したプティは頷くと、支給された棒を杖に見立てて空へと突き上げた。
 その向こう側で、雷雲が湧き上がる。

「えーーーい!!」

 そしてそれが振り下ろされると、周囲に激しい雷が降り注いだ。
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