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第一章 最果ての街キッパゲルラ

合格

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「見てた、見てた!?おとーさん、ボク達やったよ!!」
「えへへ!褒めて褒めて!!」

 勝負は、それでついた。
 幸いにも死者は出ず、オーソンも見た目の割には軽傷そうだった。
 それは、彼女の優しい性格のお陰だろう。
 そう、目の前の二人の笑顔を見ていると思う。

「あぁ、よく頑張ったな二人とも」

 そんな二人の頭を、ユーリは優しく撫でてやる。
 その感触に、二人はユーリのお腹に頬をぴったりと合わせると、そのまま為すがままになっていた。

「や、やりましたね!これで二人とも、文句なしに合格ですよ!!」

 そんなユーリ達に、トリニアが若干引いた様子でお祝いの言葉を述べる。

「・・・えっ?あ、そうだった!試験だったんだ、忘れたよ」
「あはははっ、ボクもボクもー!」
「わ、私は憶えてたよ!」

 トリニアの言葉に、僅かに流れた沈黙はそれを完全に忘れてしまっていた証拠。
 それを誤魔化すようにユーリが頭を掻くと、ネロとプティの二人もけらけらと笑いだしていた。

「それじゃ、これで二人とも合格って事でいいのかな?」
「はい!これで今度からは皆で―――」

 頑張った二人を誇るように、ユーリは彼女達の肩へと手を添える。
 その三人の姿にトリニアはにっこりと笑うと、改めてそれを祝おうとしていた。

「ちょっと待ちなさい!!まだよ、まだそうと決まった訳ではないわ!!」
「先輩?今更、何を・・・?」

 そんな雰囲気を掻き消すように、レジーの恨みの籠った声が響く。
 彼女はオーソンの巻き添えを食らったのか、うっすらと煙を立ち上らせながらユーリ達へ近づいてくる。

「ユーリさん!貴方、彼女達の試験の最中何かやっていたでしょう!?知ってる?試験に冒険者が手を加えたらその冒険者資格を剥奪されるのよ!!」
「っ!?まさか、先輩・・・!?」

 レジー口にした内容、それは彼女が今回の事で狙っていた全貌だ。
 それを口にしたのは自棄になったからか、それとも。
 トリニアが何かに気付き、動く。

「退きなさい!!ははっ、あった!これよ、これがその証拠よ!!」

 トリニアが隠そうとした書類、それはユーリが二人にスキルを「書き足し」たものだ。
 レジーはトリニアを突き飛ばし、その書類を奪う。
 そして、勝ち誇ったようにそれを掲げて見せていた。

「レジー君、それがどうかしたのかね?」
「ギルド長・・・見てください!!これが証拠です、試験で不正が行われた証拠!!」

 レジーに声を掛けてきた壮年の男性、それは取り巻きを引き連れながらこの訓練場へと足を踏み入れていた。
 その男性はこのギルドの長、フレッド・リンチであった。

「不正の証拠?これがかね?」
「その通りです、ギルド長!それにあいつが試験中ずっと何かやってて、絶対何か不正を!!」

 フレッドに手にした書類を渡したレジーは、そこに絶対に不正の証拠がある筈だと叫ぶ。

「ふむ・・・もう一度よく見てみたまえ」
「何を悠長な!!あいつは絶対に何か、を・・・こ、これは?」

 しかしフレッドはそんなレジーに対して、何か腑に落ちない様子を見せると、受け取った書類を彼女へと返していた。
 それを受け取ったレジーは、文句を呟きながらフレッドに言われた通りその内容へと目を落とす。
 そして彼女は、その内容に驚愕したように目を見開いていた。

「ギルドの規約を記した書類だな。それは試験についての項目か・・・娘のためによく内容を確認したんだろう所々ラインを引いて、勉強熱心で結構じゃないか」
「そ、そんな・・・」

 そこに記されていたのはギルドの規約、冒険者になるための試験の内容であった。
 その事実に、レジーはがっくりと項垂れ膝をつく。

「良かった、何とか間に合ったんだ・・・」

 その書類、このギルドの規約を記した書類は、トリニアがユーリに説明するために手にしていたものだ。
 それを彼女は、ユーリが二人にスキルを「書き足し」た書類とギリギリで入れ替えていたのだった。

「さて、ユーリ・ハリントン君だったか。うちの職員が失礼したね」
「はぁ、それはいいんですけど・・・それで、僕達はどうなるんでしょうか?」

 崩れ落ちたレジーに代わってユーリの前へと進み出たフレッドは、彼に対して頭を下げる。
 それにユーリは見知らぬ怖そうな大人の存在に、その背中へと隠れているネロとプティに手を添えながら尋ねる。

「どうなる?あぁ、そうでしたね。えぇ、勿論合格ですよ二人とも」

 不安そうな表情の三人に、フレッドはにっこりと微笑むと彼らを祝福するように手を広げ告げる。
 その言葉に、ネロとプティはお互いに顔を見合わせ抱きしめ合う。

「「やったーーー!!!」」

 零れる笑顔に、響く歓声。
 抱き合って喜ぶ二人の姿に、周りにも笑顔が溢れていく。

「「おとーさん!!」」
「あぁ、よくやったな二人とも!」

 そして二人は、それを一番祝って欲しい人の下へと飛び込んでいく。
 ユーリもそれを抱き留め、祝う。
 今度は、それに水を差す者も現れなかった。



「は?嘘だろ・・・何だあのガキんちょ共、化け物じゃねぇか」

 ユーリ達が逗留する宿屋の主人、マイカから言われてユーリに伝言を伝えに来た彼女の息子、タロン・ワットソンは驚愕していた。
 それは彼が目撃したからであった、ネロとプティその二人の力を。

「えぇ・・・何者なんだよあいつら」

 その余りの力に、彼は驚愕し立ち尽くす。
 そうして彼は自らの仕事を忘れ、マイカにしこたま怒られることになるのだが、それはまた別のお話し。
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