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二章
2-5 健吾の会社訪問 5 祐志
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ある日、健吾の兄、和久さんが会社に挨拶に来た。
和久さんは諒さんと結婚する時に実家と縁を切ったのだが、弟妹達が全員家を出てしまったので、あの義父が頭を下げて呼び戻したそうだ。
義父は最初、うちの子のどちらかを後継者にとかふざけたことを言っていたが、一刀両断にしたら和久さんのところへ行ったらしい。どうも癌を患ってしまって弱気になったようだ。
和久さんは容赦なく義父から権力をもぎ取って、うまくやったようだった。
元々提携していたうちの会社へ担当者交代ということで挨拶に来たんだが、威圧感がすごくて社員が怯えてしまった。どうも知らずに、どこかで目にした諒さんのデザインの悪口を言った者がいたようだ。
そこへ俺の夫が和久さんの弟だということが知れ渡り、何故か俺が無理やり和久さんの弟を押し付けられたのだと噂になっている。
全然違うのに、面と向かって聞かれないから訂正することもできない。
イライラする。
そりゃ初めの頃は健吾との生活を守るのに必死過ぎて、誰にも私生活を悟られないように振る舞っていたよ。
それが独身っぽく見えたのなら仕方ないと思う。でも、誘いには全部、結婚しているからと断りを入れているし、最近は子供たちの行事で仕事を休んだりもしている。
心無い奴らが言うには、若くして結婚しているのに、子供が最初の子だけなんておかしいんだってよ。
全部陰で言っているからたちが悪い。次から次へとよく下世話な噂を事実のように吹聴できるものだ。
俺は奥さん命で、子煩悩で、家庭大好きな普通の父親だ!
健吾が好きな気持ちを話し始めたら止まらないから会社では言わないのに、この事態は何なんだ。「愛人でもいいから」とか。必要ないから!
そうしてイライラが溜まって、家にスマホを忘れてきてしまったのに気が付かなかった。
会社に着いて、スマホがないことに気付いたが、今日大事なのは午前中の会議だけだ。
いっそ午後は半休にして健吾とお茶でもしに行くかな、なんて思っていたら受付から連絡が来た。
会議に来た和久さんと、何故か健吾が来ているという。
思いがけず健吾と会えたことが嬉しかった。応接室に通された健吾のところから離れがたい気持ちになっていたら、彼が会社に興味を示した。
そういえば健吾は就職していない。
俺の素晴らしい健吾を社員に見せびらかしたい気持ちもあって、会社を見学させることにした。
俺に無駄なアプローチをかけてくる者たちも健吾を見たら、有象無象なんて塵のようなものだと分かるだろう。舐められたら腹が立つので、健吾の服も用意した。
会議から終わって、スーツを着た健吾に会いに行ったら、いなかった。
着替えもなかったから、着替えに行ったトイレの帰りにでも迷ったのだろうと、一つずつ部屋を見ていった。社内は庭のようなものだから、危険はないと思っていた。
なのに、健吾に触ろうとしている奴がいた。
俺の健吾に。
思わず本気の威嚇をしてしまい、青ざめて両手を上げる室長の男。名前は何だったかな。
昇進していて良かった。俺の方が役は上だ。
「祐志、何怖い顔してんの。彼びっくりしてるじゃん」
健吾が何もわかっていない顔で俺を見ている。
だって俺の健吾に、こいつ触ろうとしてたんだぞ! 叫びたい気持ちを必死で押し殺す。
健吾を困らせる訳にはいかない。
「そうそう、綺麗って言われた! いやー、宮園の社員は口がうまいね。ここの営業? そんなん言われたの初めてだから、嬉しくなっちゃったよ」
え、俺言ってない?
いつも健吾は綺麗だと思ってるし、めちゃくちゃ可愛いし、大好きだけど、言ってない!?
「健吾は綺麗だよ」
「へ? 別に対抗して言ってくれなくても良いよ? 俺、自分の身の程ぐらい弁えてるって」
「いや、そうじゃなくて」
俺いつ言ってた?
絶対綺麗って言ってるはずだぞ。あ、セックスの時にしか言ってないかも……。健吾聞こえてなかったか……。普段は子供の目があるからあんまりイチャイチャできてない。
室長が「あーあ」って言いたげな顔をしている。あの野郎。
誤解は家に帰ってから解こう。こいつの前で健吾に弁明するのは、何となく癪に障る。
俺は健吾の手を取って、和久さんの待つ応接室へ向かった。
和久さんは諒さんと結婚する時に実家と縁を切ったのだが、弟妹達が全員家を出てしまったので、あの義父が頭を下げて呼び戻したそうだ。
義父は最初、うちの子のどちらかを後継者にとかふざけたことを言っていたが、一刀両断にしたら和久さんのところへ行ったらしい。どうも癌を患ってしまって弱気になったようだ。
和久さんは容赦なく義父から権力をもぎ取って、うまくやったようだった。
元々提携していたうちの会社へ担当者交代ということで挨拶に来たんだが、威圧感がすごくて社員が怯えてしまった。どうも知らずに、どこかで目にした諒さんのデザインの悪口を言った者がいたようだ。
そこへ俺の夫が和久さんの弟だということが知れ渡り、何故か俺が無理やり和久さんの弟を押し付けられたのだと噂になっている。
全然違うのに、面と向かって聞かれないから訂正することもできない。
イライラする。
そりゃ初めの頃は健吾との生活を守るのに必死過ぎて、誰にも私生活を悟られないように振る舞っていたよ。
それが独身っぽく見えたのなら仕方ないと思う。でも、誘いには全部、結婚しているからと断りを入れているし、最近は子供たちの行事で仕事を休んだりもしている。
心無い奴らが言うには、若くして結婚しているのに、子供が最初の子だけなんておかしいんだってよ。
全部陰で言っているからたちが悪い。次から次へとよく下世話な噂を事実のように吹聴できるものだ。
俺は奥さん命で、子煩悩で、家庭大好きな普通の父親だ!
健吾が好きな気持ちを話し始めたら止まらないから会社では言わないのに、この事態は何なんだ。「愛人でもいいから」とか。必要ないから!
そうしてイライラが溜まって、家にスマホを忘れてきてしまったのに気が付かなかった。
会社に着いて、スマホがないことに気付いたが、今日大事なのは午前中の会議だけだ。
いっそ午後は半休にして健吾とお茶でもしに行くかな、なんて思っていたら受付から連絡が来た。
会議に来た和久さんと、何故か健吾が来ているという。
思いがけず健吾と会えたことが嬉しかった。応接室に通された健吾のところから離れがたい気持ちになっていたら、彼が会社に興味を示した。
そういえば健吾は就職していない。
俺の素晴らしい健吾を社員に見せびらかしたい気持ちもあって、会社を見学させることにした。
俺に無駄なアプローチをかけてくる者たちも健吾を見たら、有象無象なんて塵のようなものだと分かるだろう。舐められたら腹が立つので、健吾の服も用意した。
会議から終わって、スーツを着た健吾に会いに行ったら、いなかった。
着替えもなかったから、着替えに行ったトイレの帰りにでも迷ったのだろうと、一つずつ部屋を見ていった。社内は庭のようなものだから、危険はないと思っていた。
なのに、健吾に触ろうとしている奴がいた。
俺の健吾に。
思わず本気の威嚇をしてしまい、青ざめて両手を上げる室長の男。名前は何だったかな。
昇進していて良かった。俺の方が役は上だ。
「祐志、何怖い顔してんの。彼びっくりしてるじゃん」
健吾が何もわかっていない顔で俺を見ている。
だって俺の健吾に、こいつ触ろうとしてたんだぞ! 叫びたい気持ちを必死で押し殺す。
健吾を困らせる訳にはいかない。
「そうそう、綺麗って言われた! いやー、宮園の社員は口がうまいね。ここの営業? そんなん言われたの初めてだから、嬉しくなっちゃったよ」
え、俺言ってない?
いつも健吾は綺麗だと思ってるし、めちゃくちゃ可愛いし、大好きだけど、言ってない!?
「健吾は綺麗だよ」
「へ? 別に対抗して言ってくれなくても良いよ? 俺、自分の身の程ぐらい弁えてるって」
「いや、そうじゃなくて」
俺いつ言ってた?
絶対綺麗って言ってるはずだぞ。あ、セックスの時にしか言ってないかも……。健吾聞こえてなかったか……。普段は子供の目があるからあんまりイチャイチャできてない。
室長が「あーあ」って言いたげな顔をしている。あの野郎。
誤解は家に帰ってから解こう。こいつの前で健吾に弁明するのは、何となく癪に障る。
俺は健吾の手を取って、和久さんの待つ応接室へ向かった。
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