3 / 44
一章
3 忘れたもの
しおりを挟む長い夢を見た。
俺がオメガで、あれ?
何の夢だ?
目が覚めたら、兄と兄の番だという人がいた。
「に、いさ、ん?」
「目が覚めたか。俺がわかるか?」
「はい」
「こっちは俺の番だ」
兄の番は男性だった。オメガなんだろう。あんなに男のオメガを嫌っていたのに。
「さ、かきばら、けんごです」
「榊原諒です。和久とは君が入院する前に籍を入れさせていただきました」
「あ、おめでと、ござい、ます」
話をするのがひどく難しかった。体も動かない。
それなのに皆普通に話してくる。優しくない……。あ、兄が優しかったことなんて、オメガとかアルファとかよくわかってなかった幼い頃だけだったかも。幼い頃からアルファ確定といった能力を見せていた兄は、俺にはわからない理由でいつも忙しかった。
「お前は栄養失調で倒れていた。倒れた拍子に頭を打ったようで昏睡状態になっていた。——どこまで覚えてる? 何月何日か答えてみろ」
「え、昨日、は、四月、十五日かな? 俺、どれぐらいねてた?」
「今は五月一日だ」
「うわぁ…」
二週間も寝てたのか。
人間って二週間でこんなに何にもできなくなるんだ。身体が重すぎて、全く自由に動かせなくて怖い。
そして倒れている間に検査した結果、子宮に異常が見つかり、全て摘出したと教えられた。
子宮なんて、元より使う予定もなかったものだ。構わない。でも、何かひっかかる……?
子宮を失ったことで発情期も恐らくほとんどなくなるだろうと聞いた。煩わしいものがなくなるのは嬉しい。
「それなら、生まれた時に取ってくれれば良かったのに」
オメガをあんなに嫌うなら、取ってしまって、ベータのように扱ってくれたら幸せになれたのに。
俺のぐちに、医者が何とも言えない顔をしている。優しい、いい人だ。困らせちゃ悪い。
「必要なさそうでも、生まれつきあるものは無くなれば体に変調を起こすこともあります。特に生殖器関係はホルモンバランスが崩れやすいんです。君は当分自宅療養ですよ」
「でも俺、療養とかできる環境じゃ……」
一人暮らしだし。ネット通販を駆使すればゆっくりできるかな? でも金がない、学費を流用すればいけるか?
あの父親がこんな事態になった俺に手を差し伸べるとは思えない。むしろ学費も生活費も打ち切られる可能性が高すぎる。
途方に暮れていると、兄が救いの手を差し伸べてくれた。
「俺のところに来い」
「え、新婚さんでしょ? ちょっとそれは」
「赤ん坊がいる。世話を手伝え」
「それって療養……?」
兄の番の諒さんは、派手な外見とは裏腹に性格は優しげな人で安心だけど、兄は苦手だ。けれども背に腹は代えられない。兄の圧力に負けて世話になることにした。
でも、結婚と出産近くない? 諒さん子供産んでたのか……。
兄の結婚も、子供が出来ていた事も全然教えて貰えなかったのか、俺。分かっていても寂しいものがある。体が弱ると心も弱るのかもしれない。
俺の意識が戻ってひと月後、何とか退院許可が下りた俺は兄達の新居にお邪魔した。
俺の体は、体力はまだまだだが、機能的には問題ない。歩けるし喋れる。
初めて踏み入れる真新しい高級マンションで待ち受けていたのは、愛らしい二人の赤ん坊だった。
「えっ!? 双子!!」
「そうなんだよー。大変だから助けて。あ、こっちが啓一でこっちが光一だよ。名前は変えれるからね!」
「別に変えなくても、良い名前じゃないですか?」
「あっ、最近は子供にも好みとかあるだろうし、ねっ!」
諒さんは不思議系らしい。赤ん坊の名前の好みとかどうでも良いだろう。デザイナーだそうだから違う世界に住んでるのかも。自分の名前が不満だったとか、そういう経験があるのだろうか。
双子は四ヶ月だと言う。
首が座ったばかりだそうで、まだふにゃふにゃの感触に、心が温かくなった。手を出すと、ぎゅっと指を握ってくる。思わず笑みが零れる。
「可愛い……」
「良かった……ぐすっ」
えっ、泣いてる?
諒さんの反応に驚いた。そんなに育児が辛かったんだろうか。双子だもんな、大変なんだろうな。
双子はミルク育児をしているから誰でも面倒を見られるそうで、諒さんと交代で見ることになった。
諒さんは不器用で、ミルクの粉をばら撒いてしまったり、オムツ交換では高確率で子どものオシッコを浴びるので、自然に俺が双子を見る時間が多くなっていった。
39
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
運命だなんて言うのなら
riiko
BL
気が付いたら男に組み敷かれていた。
「番、運命、オメガ」意味のわからない単語を話す男を前に、自分がいったいどこの誰なのか何一つ思い出せなかった。
ここは、男女の他に三つの性が存在する世界。
常識がまったく違う世界観に戸惑うも、愛情を与えてくれる男と一緒に過ごし愛をはぐくむ。この環境を素直に受け入れてきた時、過去におこした過ちを思い出し……。
☆記憶喪失オメガバース☆
主人公はオメガバースの世界を知らない(記憶がない)ので、物語の中で説明も入ります。オメガバース初心者の方でもご安心くださいませ。
運命をみつけたアルファ×記憶をなくしたオメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
落ちこぼれβの恋の諦め方
めろめろす
BL
αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。
努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。
世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。
失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。
しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。
あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?
コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。
小説家になろうにも掲載。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結】選ばれない僕の生きる道
谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。
選ばれない僕が幸せを選ぶ話。
※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです
※設定は独自のものです
※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる