過ちのままに

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 私とユーリアの寝室は扉一枚を隔てた隣であり、鍵はついていない。一般的な女性ではないから少し悩んだが、好みがわからないものは仕方がない。花と菓子を持っていくことにする。
 いくら鍵がついていないとはいえ、いきなり扉を開けられては落ち着かないだろうとノックをした。扉が開き、嬉しそうな表情をしたユーリアが現れる。

「エディエ様、こんばんは」

 頭ひとつ分小さなユーリアが、胸元で両手を握り私を見上げて微笑む様子は愛らしい。さらりと流れる金髪と女性的な丸みのない身体が清楚さを際立たせている。
 そのユーリアの初めてを私が……湧き上がる愛しさともに、期待が下半身にも集まってくる。さすがの私も、なんの問題も解決していないのに、昨日に引き続き今日もユーリアに手を出してはならないという理性が働く。

「結婚式でお疲れでしょう。甘いものはお嫌いではありませんか」

 極めて外交的な笑顔を貼り付けてテーブルセットに視線を向けると、ユーリアが私に抱きついてきた。

「エディエ様、わたくし、おかしいのです。エディエ様のことを想うと、身体が……」

 太腿に当たる硬いものは、ユーリアのアレである。なんということだ、私が教えてしまった悦楽が忘れられなくなってしまったようだ。気持ちはよくわかる。気持ちいいことは私も好きだ。

「ユーリア、何もおかしくありません。私も、貴方のことを想うと」
「あっ」

 ユーリアの手を取り私の昂りに触れさせると、潤んだ瞳で見つめてくる。思わず唇を奪い、そのまま寝台に押し倒した。互いの昂りが擦れ合う。

「わたくしたち、同じ……はずですのに、こんなふうになってしまって、良いのでしょうか」
「私たちは結婚したのだから、自然なことです」

 何も知らない様子のユーリアを騙すことに、僅かな良心の呵責を覚えつつ、肉体が反応しているのだからいいじゃないかと誰にともなく言い訳をする。

「幸せにする」
「エディエ様……」

 昨日は男であることを視覚で認知したら初夜を済ませられないかもしれないと、ユーリアをうつ伏せにさせたが、今は違う。正面からユーリアを見つめ、口づける。指を滑らせ艶ゆかな髪を撫で、滑らかな頬に触れた。髭の気配もない。
 ……偽っているのは性別だけだろうか。
 己の中の倫理観が頭をもたげたが、身体に満ちる欲望が気にするなとねじ伏せた。

 薄い胸に触れると、指先に小さなものが引っかかる。ささやかな主張も愛らしく、指先で撫でるとユーリアが「んん」と声を漏らした。もじもじと腰を揺らして私のものに擦りつけてくるのは、何も知らないから素直な反応なのだろう。私しか知らないユーリア……。

 明かりのもとで見た性器は、勃起していても私のものよりずっと清らかで愛らしく見えた。僅かに生えている金の陰毛に、子どもに手を出したのではないと安堵する。
 ユーリアのものと比べたら可愛げのかけらもない私のものをとともに握ると、吐息混じりの声が耳を擽る。

「ん、ぁ……エディエ様、もっと強くしてくださ……ぁあっ」

 困ったようにしがみついてくるユーリアの背を片腕で支え、もう片方の握る手をそのままに腰を揺らすと快感が背を走っていく。ビクビクと震えるユーリアに、同じ感覚を味わっていると思うと一体感が強くなる。
 互いに長くはもたず、ほぼ同時に絶頂を迎えた。
 乱れた息が整った頃、私に髪を撫でられながらユーリアが呟く。

「わたくしがエディエ様の子を産むことができたらよかったのに」
「子を産むことは危険な仕事だ。ユーリアにそのような役割を与えずに済むことを喜ばしく思っている」

 するりと出た自分の言葉に驚いた。あれほど女性を望んでいたというのに、私はどうなってしまったのだろうか。二度も裸で触れ合えば、ユーリアが男性ということは疑いようもない。

「ユーリア、私は貴方を愛している。しかし、貴方は何も知らされずに育った。これからたくさんの人に出会えば気持ちが変わるかもしれない」

 思いがけないことを言われたという顔をしているユーリアに微笑みかける。
 貴族の結婚に恋や愛があることは稀だ。誰もが釣り合いの取れた相手と婚姻し、正式な伴侶を尊重することを条件に恋愛は他所でする。私もそのつもりだったけれど、ユーリアにそのような行動を取られたら平静でいられる自信がない。

「ふふ……まるで、わたくしの心変わりを心配しているようです」
「そのようだ」
「いけません、御立場を思い出してください。それに、わたくしはエディエ様のお子にも興味があります」

 ユーリア自身は五人のきょうだいがいる。外交の場で会ったことがあるユーリアの兄、隣国の王太子はあからさまに性格が悪かった。ひとりいる弟王子への圧力は相当なもので、私という他国からの来賓がいる場でも弟下げの言動は酷く、彼はすっかり萎縮していた。継承権を持たない妹たちへの態度は優しかったから、ユーリアを女性として育てた側妃の判断を責めることはできない。
 育てられた環境が特殊すぎたユーリアに男性としての生き方を教えるべきかもしれないが、すでに私の心情的に手放すことは難しい。

「私が、貴方に触れるように、他の誰かに触れてもいいと?」
「意地の悪いことをおっしゃるのですね」
「ユーリア」
「わかっています。エディエ様の優しさも、わたくしの立場も。でも、いまさらどう生きていけばいいのか、わからりません」

「私の妃としてここにいればいい。後継者はどうにでもなる。考え方を変えれば、正当に競い合わせてより優秀な王を据えるチャンスとなる」
「そうなれば良いのですが」
「そうしてみせるさ。ただ、あなたへの無用な圧力が起きないよう手を打たねば。異国の水が合わずに病がちになってしまったというぐらいが良いだろう。そういう手を使っている者に心当たりがある」
「妻が病がちという設定、ですか」

「そうだ。ついでにバレない女装についても相談しよう。信用できる者だから大丈夫」
「楽しみです」
「その前に、あなたの侍女についても確認しなくては」
「侍女……ナーヤですね。彼女はわたくしが生まれた時から側にいます。お母様の乳姉妹として一緒に王宮に来て、そのままわたくしに仕えています」

 母親代わりなら厄介な存在かもしれない。いざとなったらユーリアを逃がす手段も考えていた可能性がある。

「ナーヤにはエディエ様がとても優しく、わたくしを大人にしてくださったことを伝えてあります。彼女も気を張っていたようでしたから、今日はゆっくり休ませました」

 無邪気に告げられた言葉に、私は自分一人で問題を解決するのが厳しい現実を思い知った。
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