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父は私のことが好きではない。
家族の中で私だけが金の髪を持っていて、母も二人の弟も黒髪だ。
父は赤みの強い茶色の髪だから、先祖返りだろうと言われているけれど。
「兄さん、今日は俺と手合わせしてください」
「ああ、そうしよう。リュード」
上の弟の名はリュード。家族の中で、リュードだけが私を慕ってくれている。
テダグ侯爵家後継者としての能力を示せば、父に、母に、見てもらえるという希望を抱くのは諦めたけれど、努力の成果をリュードが認めてくれる。私は彼の明るさにずっと救われていた。
「わぁ、やっぱり兄さんは強いや。もうすぐ背は抜かせそうなのになぁ」
「リュードは父上に似ているから、きっと背も高くなる」
私の身長は平均的なものだけど、身長が高めの両親によく似た弟たちに追いつかれている。伸びが止まった私と、まだまだ伸びる弟たちとは違う。
そう、何もかも、私だけが家族の中で違っている。リュードが受け継いだ父の翠の瞳も、下の弟エレインが受け継いだ母の紫の瞳でもない。私だけが青い瞳を持っている。
「そういえば、父上がロレイニア伯爵家との縁談を持ってきたんですよ。ロレイニア伯爵家のご令嬢を知っていますか?」
「ロレイニア伯爵家のご令嬢……この間デビュタントされていた子だね。ちらりと見ただけだけれど、リュードとお似合いだと思うよ」
「そうですか? でも、俺は兄さんより先に結婚するのは嫌だな」
「私はリュードが幸せな結婚をできるなら、順番など気にしないよ」
侯爵家の嫡男でありながら、私には婚約者がいない。正確にはいなくなった、が正しい。
婚約していた子爵家の令嬢は、王太子に熱を上げた挙句、婚姻前に妊娠して破談になった。王太子にはすでに妃がいるため令嬢は側妃になるかと思いきや、流産して話も流れたそうだ。
私と同じ年の王太子は評判が悪い。
「……兄さんも幸せにならなきゃ嫌だ」
「私は……務めを全うするだけだよ。それでいいんだ」
私の婚約破棄騒動で父に次いで怒りを露わにしていたのがリュードだった。私自身は王太子を見ると気分が悪いので思い出したくない。婚約破棄騒動で彼が苦手だと言うわけではない。
王太子と私は非常によく似ているからだ。
父は、私に王都で過ごすときは髪を黒く染めるように指示をした。領地にいる間は何も言わないから、父は王太子と私が似すぎていると気付いているのだろう。リュードは王太子に会ったことがないから知らない。
そう、父は王の側近という要職に就きながら、家族を王家に近づけることを嫌っていた。母に至っては、領地に籠って王都へ足を踏み入れることすらしない。弟たちも母に倣っている。嫡男である私だけはそういうわけにいかないから、定期的にタウンハウスで過ごしている。
簡単な話だ。私には父の血が流れておらず、王の血が流れているのだろう。それは名誉でも何でもなく、両親にとっては非常に不本意なことだった。現王は賢王と呼ばれていても、評判の悪い王太子の親だ。
両親の愛が得られなくても、暴力や不当な扱いがあったわけではないことを感謝しなくては。
それでも、曇りのない笑顔を持つリュードが眩しくて、胸が苦しくなる時があるのは仕方ないだろう……
「兄さん? 俺も王都に行って兄さんにふさわしい令嬢を探そうかな!」
「気持ちだけ、有難く受け取っておくよ。リュード」
生まれはどうあれ、父が私を後継者として遇してくれているのに間違いはない。本当なら弟へ譲らねばならない地位を奪い続けていることが苦しいけれど、暗闇を彷徨い続けるような人生のなかで残されたよすがはこれだけだから許して欲しい。
そう、心に決めていたのに。
「ラヴィ。いや、ラヴィ殿下。王宮へ参りましょう」
「ち、父上」
「侯爵、もしくはテダグとお呼びください」
家族の仮面を脱ぎ捨てた父に連れられ、私は王宮へ向かった。
家族の中で私だけが金の髪を持っていて、母も二人の弟も黒髪だ。
父は赤みの強い茶色の髪だから、先祖返りだろうと言われているけれど。
「兄さん、今日は俺と手合わせしてください」
「ああ、そうしよう。リュード」
上の弟の名はリュード。家族の中で、リュードだけが私を慕ってくれている。
テダグ侯爵家後継者としての能力を示せば、父に、母に、見てもらえるという希望を抱くのは諦めたけれど、努力の成果をリュードが認めてくれる。私は彼の明るさにずっと救われていた。
「わぁ、やっぱり兄さんは強いや。もうすぐ背は抜かせそうなのになぁ」
「リュードは父上に似ているから、きっと背も高くなる」
私の身長は平均的なものだけど、身長が高めの両親によく似た弟たちに追いつかれている。伸びが止まった私と、まだまだ伸びる弟たちとは違う。
そう、何もかも、私だけが家族の中で違っている。リュードが受け継いだ父の翠の瞳も、下の弟エレインが受け継いだ母の紫の瞳でもない。私だけが青い瞳を持っている。
「そういえば、父上がロレイニア伯爵家との縁談を持ってきたんですよ。ロレイニア伯爵家のご令嬢を知っていますか?」
「ロレイニア伯爵家のご令嬢……この間デビュタントされていた子だね。ちらりと見ただけだけれど、リュードとお似合いだと思うよ」
「そうですか? でも、俺は兄さんより先に結婚するのは嫌だな」
「私はリュードが幸せな結婚をできるなら、順番など気にしないよ」
侯爵家の嫡男でありながら、私には婚約者がいない。正確にはいなくなった、が正しい。
婚約していた子爵家の令嬢は、王太子に熱を上げた挙句、婚姻前に妊娠して破談になった。王太子にはすでに妃がいるため令嬢は側妃になるかと思いきや、流産して話も流れたそうだ。
私と同じ年の王太子は評判が悪い。
「……兄さんも幸せにならなきゃ嫌だ」
「私は……務めを全うするだけだよ。それでいいんだ」
私の婚約破棄騒動で父に次いで怒りを露わにしていたのがリュードだった。私自身は王太子を見ると気分が悪いので思い出したくない。婚約破棄騒動で彼が苦手だと言うわけではない。
王太子と私は非常によく似ているからだ。
父は、私に王都で過ごすときは髪を黒く染めるように指示をした。領地にいる間は何も言わないから、父は王太子と私が似すぎていると気付いているのだろう。リュードは王太子に会ったことがないから知らない。
そう、父は王の側近という要職に就きながら、家族を王家に近づけることを嫌っていた。母に至っては、領地に籠って王都へ足を踏み入れることすらしない。弟たちも母に倣っている。嫡男である私だけはそういうわけにいかないから、定期的にタウンハウスで過ごしている。
簡単な話だ。私には父の血が流れておらず、王の血が流れているのだろう。それは名誉でも何でもなく、両親にとっては非常に不本意なことだった。現王は賢王と呼ばれていても、評判の悪い王太子の親だ。
両親の愛が得られなくても、暴力や不当な扱いがあったわけではないことを感謝しなくては。
それでも、曇りのない笑顔を持つリュードが眩しくて、胸が苦しくなる時があるのは仕方ないだろう……
「兄さん? 俺も王都に行って兄さんにふさわしい令嬢を探そうかな!」
「気持ちだけ、有難く受け取っておくよ。リュード」
生まれはどうあれ、父が私を後継者として遇してくれているのに間違いはない。本当なら弟へ譲らねばならない地位を奪い続けていることが苦しいけれど、暗闇を彷徨い続けるような人生のなかで残されたよすがはこれだけだから許して欲しい。
そう、心に決めていたのに。
「ラヴィ。いや、ラヴィ殿下。王宮へ参りましょう」
「ち、父上」
「侯爵、もしくはテダグとお呼びください」
家族の仮面を脱ぎ捨てた父に連れられ、私は王宮へ向かった。
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