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三上さんとメモ帳
ドラマ、観ない? その2
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「いやぁ~今週も面白かったぁ~!」
伸びをしながら噛み締めるように感想を述べる渋谷。
「あんまり見れなかったけど、それでも面白かったな」
「でしょでしょ? 間違いなく今季のイチオシなんだよねぇ~!」
俺も最初は舐めていたが、確かに面白かった。
「家政婦さんがロケットパンチを放つところなんて、危うく泣いちゃうところでした」
三上もこちらへ身体を向けて、しみじみと感想を述べている。泣いちゃうだって、可愛いな。
「わかる~! 私も家だったら泣いてたよね」
実際あのシーンは良かった。流石にロケットパンチを再現するのは予算的に厳しいのだろうが、まさかあんな方法で違和感なく表現するとは…。
「このドラマって、毎週こんな感じなのか?」
素朴な疑問が浮かんできた。
毎週放送される作品にここまで力が入っているなんて思わなかったからだ。
「そうだよ? この前なんか、後半に命を持った巨大ロボが出てきたしね」
さも当然かのように言い放つ渋谷。
命を持った巨大ロボが出てくるって、かなりテーマとして重くないだろうか。
どういうストーリーなのか気になる。
「最後、家政婦さんが身を張って手懐けたのが感動でしたよね」
「マジか……」
手懐けちゃうのかよ。世界で一番強い勢力に躍り出られるんじゃないか?
家政婦を辞めてパイロットに転職するのも良いと思う。
というか、そもそも家政婦さんと巨大ロボが関わり合うシチュエーションが気になるんだが……。
「最近の作品って凄いんだな」
最後にドラマを観たのはいつだろうか……自分が成長すると共に、ここまで技術が進歩していたとは。
「本当ですよね。話の構成とか撮影技術とか、革新的だなって感じました」
頷きながら答えてくれる彼女の姿も、十分ドラマとして通用する気がする。
「っていうか、三上もドラマとか観るんだな」
モデルとして活動している渋谷がドラマをチェックしているのはわかる。いずれドラマの仕事も来るかもしれないしな。
だが、三上がドラマを観ているというのは驚きだ。
なんとなく、部屋にはテレビを置いていないイメージがある。
彼女の部屋はもっとこう、白い壁に同じく白いベッド、そしてベッドの横に木製のローテーブルが――。
「い、いや、普段から考えてるとか、全然そういうわけではないぞ?」
「何がですか?」
「……ちょっと日差しにやられてただけだから、気にしないでくれ」
脳内で弁解したつもりだったのだが、勢い余って口から溢れていたらしい。
怪しいところを見せてしまって不審に思われていないか心配だったが、彼女は顎に手を当てて数秒ほど考えた結果、思い出したように口を開いた。
「あ、ドラマだったら普段はあんまり観ませんよ」
「そうなのか?」
あれ。口ぶりからするに、結構ドラマ通なのかと思ったが、どうやらそれは間違いだったようだ。
「でも、この作品は美奈ちゃんがおすすめしてくれたから毎週観てるんです」
「あぁ、そういうことか」
おすすめされたらきちんと観てくれるなんて、勧め甲斐があるな。
一人で感心していると、渋谷がこちらに身を乗り出して話し出す。
「しかも、毎週ちゃんと感想送ってくれるんだよ!? 優しくない?」
「ちゃんと観てくれてるって分かるのが嬉しいよな」
普通なら「面白かったよ」程度で済ませてしまう気がする。
そこで律儀に感想を送ってくれるのが三上の良いところだ。
「えぇ。なんか、共有したくなりません?」
「なるなる~! ありがとねぇ!」
ふにゃふにゃと三上に抱きつきながら撫で回す渋谷。羨ましい。
「そんなに面白いなら俺も観てみようかな。今からでも大丈夫かな?」
ほら、ドラマって一話見逃しただけで追えなくなることがあるだろう?
仮に追える作品だとしても、一話逃した時点で観る気がなくなる時もあるし。
いつの話だったか、そういう体験をしたことがあった気がするな。
最終的に組織を潰すとかなんとか……まぁいいか。
「全然大丈夫! 話自体は一話完結だから気にしなくてよし!」
親指を立ててアピールする渋谷。
そうか、一話完結なら見逃しても置いていかれることはなさそうだ。
「忘れちゃう人にとってはありがたいけど、一話ごとに完結させるのってだいぶ難しそうだよな」
「わかります。決められた時間内に上手く纏めるのって大変ですよね」
長い作品を作るのも、次回への引きを考えたりと色々と工夫がいるだろうが、一時間という時間内に収めるのも同様に大変そうだ。
「あーそれね。この間、このドラマの脚本家の徳本さんって人とお話しさせてもらったんだけど、徹夜しまくって倒れそうになりながら書いてるらしいよ……」
「「えぇ……」」
そこまで身を削っているのか……。
だが、素晴らしいものを生み出すためには、そのくらい体力や時間を使わねばならないのだろう。
「マジでやばいよね……私もいつかドラマの脚本とか書いてみたいなって思ってたけど、その話聞いちゃったらね……」
渋谷は額に手を当てて天井を眺めているが、それも無理はない。
自分より遥か高みにいる人間ですらそうなのだから、人生の厳しさというか、一種の絶望感を覚えてしまうものだ。
かくいう俺も、幼い時こそ想像力を活かして漫画家や小説家といった人に夢を与える仕事に就きたかったが、現在では有り余る妄想力を脳内でこねくり回しているだけである。
「なおちゃんは……なんか哀愁漂ってるから聞かないでおくけど……」
ありがたい。
「澪はどうなの? 自分で何か物語を作ったりするっていうのに興味はある?」
「なんでしょう……」
普段より少し目を大きく開けて、「え~~」と考え込む三上。
「……あ、でも、絵を描くのは好きです。人とか動物とか、モデルは選ばないんですけど」
「え、そうなの!? 仲良くなってから結構経つけど初耳だよ!?」
渋谷の言葉をそっくりそのまま心の中で唱えていた。
よくよく考えてみれば、美術史を取っているのも絵画への理解を深めるためかもしれない。
ちなみに俺は、なんとなく楽しそうだからというありきたりな理由で受講し始めた。
「そういえば言ってなかったですよね。今度何か描いたら見せますね」
「うんうん! めっちゃ楽しみにしてるし、モデルがいなかったら私となおちゃんがいつでもなるから!」
「……俺も?」
どっかの彫刻みたいに整った顔の渋谷がモデルになるのは分かる。
絵の造詣云々じゃなく、対象の圧巻の美しさで作品の出来も良くなりそうだ。
しかし、特に特徴のない俺を描いても楽しくはないだろう。
そんなどうしようもない事実を三上も感じているのか、こちらへチラッと目を向けて――。
「そうですね。もしかしたらお願いするかもしれないです」
少し困ったように笑っていた。
そして、頃合いを見計らったかのように、講義の開始を告げるチャイムが鳴った。
「あーあ。もう少し話したかったのになぁ」
残念そうに教卓近くの壁に掛かっている時計を見つめる渋谷。
「今日はこの後予定あるのか?」
「ううん。今日はお休み~」
てっきり予定があるのかと思っていた。
「それじゃあこの後、三人で遊びに行きませんか?」
「え、行く行く! もちろんなおちゃんも空いてるでしょ?」
「もちろん空いてるよ。バイトもないし」
むしろ俺から誘おうと思っていたところだ。
「よーし、それじゃあ90分頑張っちゃいますか! どこ行くか考えとこ!」
「勉強しろよ」
そうは言いつつ、おそらく俺も考えてしまうだろう。
……気になって三上の方を見てみると、やはりというかなんというか、その視線は机の上に置かれたメモ帳に注がれていた。
「今日はなんて書いたんだ?」
手が止まるのを確認した後、彼女に聞いてみた。
「今日は……『徳本さんは寝れてない』です」
あぁ……それは、大切な事だよな……。
伸びをしながら噛み締めるように感想を述べる渋谷。
「あんまり見れなかったけど、それでも面白かったな」
「でしょでしょ? 間違いなく今季のイチオシなんだよねぇ~!」
俺も最初は舐めていたが、確かに面白かった。
「家政婦さんがロケットパンチを放つところなんて、危うく泣いちゃうところでした」
三上もこちらへ身体を向けて、しみじみと感想を述べている。泣いちゃうだって、可愛いな。
「わかる~! 私も家だったら泣いてたよね」
実際あのシーンは良かった。流石にロケットパンチを再現するのは予算的に厳しいのだろうが、まさかあんな方法で違和感なく表現するとは…。
「このドラマって、毎週こんな感じなのか?」
素朴な疑問が浮かんできた。
毎週放送される作品にここまで力が入っているなんて思わなかったからだ。
「そうだよ? この前なんか、後半に命を持った巨大ロボが出てきたしね」
さも当然かのように言い放つ渋谷。
命を持った巨大ロボが出てくるって、かなりテーマとして重くないだろうか。
どういうストーリーなのか気になる。
「最後、家政婦さんが身を張って手懐けたのが感動でしたよね」
「マジか……」
手懐けちゃうのかよ。世界で一番強い勢力に躍り出られるんじゃないか?
家政婦を辞めてパイロットに転職するのも良いと思う。
というか、そもそも家政婦さんと巨大ロボが関わり合うシチュエーションが気になるんだが……。
「最近の作品って凄いんだな」
最後にドラマを観たのはいつだろうか……自分が成長すると共に、ここまで技術が進歩していたとは。
「本当ですよね。話の構成とか撮影技術とか、革新的だなって感じました」
頷きながら答えてくれる彼女の姿も、十分ドラマとして通用する気がする。
「っていうか、三上もドラマとか観るんだな」
モデルとして活動している渋谷がドラマをチェックしているのはわかる。いずれドラマの仕事も来るかもしれないしな。
だが、三上がドラマを観ているというのは驚きだ。
なんとなく、部屋にはテレビを置いていないイメージがある。
彼女の部屋はもっとこう、白い壁に同じく白いベッド、そしてベッドの横に木製のローテーブルが――。
「い、いや、普段から考えてるとか、全然そういうわけではないぞ?」
「何がですか?」
「……ちょっと日差しにやられてただけだから、気にしないでくれ」
脳内で弁解したつもりだったのだが、勢い余って口から溢れていたらしい。
怪しいところを見せてしまって不審に思われていないか心配だったが、彼女は顎に手を当てて数秒ほど考えた結果、思い出したように口を開いた。
「あ、ドラマだったら普段はあんまり観ませんよ」
「そうなのか?」
あれ。口ぶりからするに、結構ドラマ通なのかと思ったが、どうやらそれは間違いだったようだ。
「でも、この作品は美奈ちゃんがおすすめしてくれたから毎週観てるんです」
「あぁ、そういうことか」
おすすめされたらきちんと観てくれるなんて、勧め甲斐があるな。
一人で感心していると、渋谷がこちらに身を乗り出して話し出す。
「しかも、毎週ちゃんと感想送ってくれるんだよ!? 優しくない?」
「ちゃんと観てくれてるって分かるのが嬉しいよな」
普通なら「面白かったよ」程度で済ませてしまう気がする。
そこで律儀に感想を送ってくれるのが三上の良いところだ。
「えぇ。なんか、共有したくなりません?」
「なるなる~! ありがとねぇ!」
ふにゃふにゃと三上に抱きつきながら撫で回す渋谷。羨ましい。
「そんなに面白いなら俺も観てみようかな。今からでも大丈夫かな?」
ほら、ドラマって一話見逃しただけで追えなくなることがあるだろう?
仮に追える作品だとしても、一話逃した時点で観る気がなくなる時もあるし。
いつの話だったか、そういう体験をしたことがあった気がするな。
最終的に組織を潰すとかなんとか……まぁいいか。
「全然大丈夫! 話自体は一話完結だから気にしなくてよし!」
親指を立ててアピールする渋谷。
そうか、一話完結なら見逃しても置いていかれることはなさそうだ。
「忘れちゃう人にとってはありがたいけど、一話ごとに完結させるのってだいぶ難しそうだよな」
「わかります。決められた時間内に上手く纏めるのって大変ですよね」
長い作品を作るのも、次回への引きを考えたりと色々と工夫がいるだろうが、一時間という時間内に収めるのも同様に大変そうだ。
「あーそれね。この間、このドラマの脚本家の徳本さんって人とお話しさせてもらったんだけど、徹夜しまくって倒れそうになりながら書いてるらしいよ……」
「「えぇ……」」
そこまで身を削っているのか……。
だが、素晴らしいものを生み出すためには、そのくらい体力や時間を使わねばならないのだろう。
「マジでやばいよね……私もいつかドラマの脚本とか書いてみたいなって思ってたけど、その話聞いちゃったらね……」
渋谷は額に手を当てて天井を眺めているが、それも無理はない。
自分より遥か高みにいる人間ですらそうなのだから、人生の厳しさというか、一種の絶望感を覚えてしまうものだ。
かくいう俺も、幼い時こそ想像力を活かして漫画家や小説家といった人に夢を与える仕事に就きたかったが、現在では有り余る妄想力を脳内でこねくり回しているだけである。
「なおちゃんは……なんか哀愁漂ってるから聞かないでおくけど……」
ありがたい。
「澪はどうなの? 自分で何か物語を作ったりするっていうのに興味はある?」
「なんでしょう……」
普段より少し目を大きく開けて、「え~~」と考え込む三上。
「……あ、でも、絵を描くのは好きです。人とか動物とか、モデルは選ばないんですけど」
「え、そうなの!? 仲良くなってから結構経つけど初耳だよ!?」
渋谷の言葉をそっくりそのまま心の中で唱えていた。
よくよく考えてみれば、美術史を取っているのも絵画への理解を深めるためかもしれない。
ちなみに俺は、なんとなく楽しそうだからというありきたりな理由で受講し始めた。
「そういえば言ってなかったですよね。今度何か描いたら見せますね」
「うんうん! めっちゃ楽しみにしてるし、モデルがいなかったら私となおちゃんがいつでもなるから!」
「……俺も?」
どっかの彫刻みたいに整った顔の渋谷がモデルになるのは分かる。
絵の造詣云々じゃなく、対象の圧巻の美しさで作品の出来も良くなりそうだ。
しかし、特に特徴のない俺を描いても楽しくはないだろう。
そんなどうしようもない事実を三上も感じているのか、こちらへチラッと目を向けて――。
「そうですね。もしかしたらお願いするかもしれないです」
少し困ったように笑っていた。
そして、頃合いを見計らったかのように、講義の開始を告げるチャイムが鳴った。
「あーあ。もう少し話したかったのになぁ」
残念そうに教卓近くの壁に掛かっている時計を見つめる渋谷。
「今日はこの後予定あるのか?」
「ううん。今日はお休み~」
てっきり予定があるのかと思っていた。
「それじゃあこの後、三人で遊びに行きませんか?」
「え、行く行く! もちろんなおちゃんも空いてるでしょ?」
「もちろん空いてるよ。バイトもないし」
むしろ俺から誘おうと思っていたところだ。
「よーし、それじゃあ90分頑張っちゃいますか! どこ行くか考えとこ!」
「勉強しろよ」
そうは言いつつ、おそらく俺も考えてしまうだろう。
……気になって三上の方を見てみると、やはりというかなんというか、その視線は机の上に置かれたメモ帳に注がれていた。
「今日はなんて書いたんだ?」
手が止まるのを確認した後、彼女に聞いてみた。
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