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三上さんとメモ帳
レポートを進めよう
しおりを挟むある日の昼下がり。
「わざわざ時間をとってくれてありがとな」
「いえいえ。レポート、頑張りましょうね」
俺は大学近くのファミレスで、三上と一緒にレポートを進めていた。
と言っても手付かずなのは俺だけで、三上のレポートはほとんど終わりに近いようだ。
それなのに時間をとってくれるとは、やはり三上はこの世に舞い降りた天使なのかもしれない。
考察はこのくらいにしておいて、彼女の貴重な時間を無駄にしないためにも真面目にレポートに取り組む。
「ここの判例って確か……」
「そうですね。この場合、甲の……」
教授顔負けの分かりやすさで教えてくれるおかげでレポートは順調に進み、時計の針が2周する頃には、後は誤字脱字がないか見直すだけになっていた。
「……これでよし。あぁー、終わったぁ~」
「お疲れ様です。がんばりましたね」
努力の甲斐あって、無事にレポートが完成した。
「これでまた一つ卒業に近付いた……。分かりやすかったです三上先生」
「黒木君がしっかり聞いてくれるからですよ。思ったより早く終わりましたね」
「そう言われてみればそうだな」
彼女の言う通り、こんなに早く終わるとは思ってもみなかった。
謙遜しているが、間違いなく100%三上のお陰である。
外はまだまだ明るい。彼女を遊びに誘うには絶好のチャンスである。
「せっかくだしちょっと話してから帰ろうか。どこか行ってもいいし」
「そうですね。今日は天気もいいから、お散歩とかもいいかもです」
追い風が吹いているように誘う流れができている。
ここは、こんなことがあろうと以前から調べておいた6つの人気の店。そのどれかを候補にしてみよう。
今日のお礼も兼ねて、ぜひご馳走させてほしい。
「そういえば、最近この近くに新しい――」
しかし、俺の渾身の誘いに被さるように、荒々しい声があげられる。
「ねえタケルくん、浮気なんでしょ!?」
「違うんだ! 信じてくれ!」
「何が違うっていうの!? 目が泳いでんのよ!」
近くの席で修羅場が繰り広げられていた。しかも中々の大声で。
昼過ぎのファミレスでよくやるなぁ……。
横目で渦中の人々を確認すると、スーツに薄めのメイク、社会人であろう茶髪の彼女が、大学生くらいの黒髪イケメンの彼氏を問い詰めていた。
大方、彼氏の浮気の証拠を発見して、会社を抜けて呼び出したんだろう。
まったく。周りの人もいるんだし、声のボリュームには気をつけてほしいものだ。
それはそうと。
――これは面白いものが見れそうだ。
ふと三上の方を見ると、視線は完成したレポートに向いているものの、その手は止まっていた。
予想通りだ。
三上は一見クールに見えるが、好奇心が強い。
さしずめ、この状況も気になっているんだろう。
誘おうとしたパンケーキの事は置いておいて、今はこの事態を楽しむことに決めた。
「本当に誤解なんだ! 俺が浮気をしているなんて、なんでそんなこと言うんだよ!」
確かにその通りだ。
今の状況では彼氏の浮気に対する確証がない。
何か決定的な情報でもない限り、彼氏の反論を覆す事は――。
「だって昨日の夜、タケルくんが他の女と歩いてるところを見たって会社の人が言ってたんだもの!」
あーあ。やっちゃったな。
完全に黒だ。浮気の現場を見られていたとは、さすがに不注意すぎやしないだろうか?
会社の人間がタケルくんの事を知っていたのは気になるが、おそらくメッセージアプリのアイコンやSNSで見たのだろう。
最近の若者は恋人の写真をすぐSNSにあげるからな。くそ、羨ましい。
さて、絶体絶命のタケルくんはこのまま素直に認めるのか、シラを切るのか。
しかし、ここでタケル君は、想像もしない反論に打って出る。
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