独裁国家の王女に生まれたのでやりたい放題して生きていきます!〜周りがとんでもなさすぎて普通なのに溺愛されるんですが!?〜

パクパク

文字の大きさ
14 / 17
外交編:他国王族、リアナに接触す

第二節:お菓子の話をしたら、王族が来る国ってどうなの?

しおりを挟む

 

「……えっと、母様? いま、なんて?」

紅茶を一口飲みかけた私の手がピタリと止まった。

クラリス母は、今日も変わらず優雅に微笑んでいた。

「お客様がいらっしゃるの。アルステリア王国から王族のおふたり。王子様と王女様よ」

「……おう、じ……?」

いやいやいや、ちょっと待って。
え、今の会話の流れ、そこに王族が出てくるような展開だった!?

私はスプーンを置き、そっと手を上げる。

「母様、それってもしかして……わたしに関係ある?」

「ええ、もちろん。あなたに会いに来るのよ?」

「えっっ!?」

盛大にお茶を吹きそうになった。

慌てて口元を押さえながら、私は心の中で思いっきり叫ぶ。

(いやいやいやいや、待って!? なんでいきなり“他国の王族が会いに来る”の!?)

「ど、どうして……? なんで……王族が、わたしに?」

するとクラリス母は、さらりと恐ろしいことを言った。

 

「あなた、少し前に言ってたでしょ? “他の国にはどんなお菓子があるのかな~”って」

 

「…………え?」

「え?」じゃない。
私が固まってる間に、母はさらりと続ける。

「ちょうど他国との関係も整理し直したい時期だったし、あなたが興味を持ったことも素晴らしいきっかけになると思って。
だから、王宮から“第六皇女による親善謁見希望”として公式に通達したの」

「…………」

「……ふふ。立派な外交デビューね、リアナ」

 

(いやちょっと待って!?)

(お菓子の話だよ!?「クッキーって国によって違うのかな~」みたいな話をしただけだよ!?)

(それを勝手に“親善外交”に格上げして、他国の王族を召喚する母って何者!?)

 

あまりのことに思考が止まりかける私に、母は優雅に紅茶を注ぎながらさらに恐怖の追撃を放った。

「まあ、もちろんこれは建前よ」

「……え?」

「本当の目的は、あなたの“影響力”を他国に見せること。
あなたの笑顔や言葉が、誰かの心にどんな風に届くのか。
それを、実際に“外の世界”の人間に試してみたかったの」

 

(え、それ、わたしの知らないとこで実験始まってるの!?)

(母様、やっぱり怖いよ……!)

 

しかも、これを聞いていた兄姉たちが黙っているはずもなかった。

私の部屋のドアがカタン、と開いて、兄姉たちがぬるっと入ってくる。

 

「王子と王女、ね……」
シグルド兄が腕を組みながら唸る。

「外からの刺激には警戒が必要だ。王女であっても、発言や態度には政治的意味が生まれる」
ユリウス兄がメモ帳を片手にぶつぶつ言いながら入室。

「服装のチェックから言葉遣いまで、王族に失礼のないよう教育する必要があるわね」
ルチア姉、なぜか既に授業スケジュール作成済み。

「まさかリアナに近づこうってわけじゃないよね……? やだなあ、肖像画は俺の専売特許なんだけど……」
ゼクス兄、唐突に独占欲を出す。

「毒見体制は三重にするわ。王子でも容赦しないから」
レオノーラ姉、笑顔で怖いことを言う。

 

(え? なんでみんなそんなやる気に満ちてるの? 私、ただ“お菓子食べたい”って言っただけだよ……!?)

 

「ねぇ、わたしは……どうすればいいの?」

おそるおそるそう尋ねると、母と兄姉たちはそろって、ふんわりと優しい笑顔を向けてきた。

 

「――“いつも通り”でいいのよ、リアナ」

「……怖い……! その“いつも通り”が一番怖いんだけど……!」

心の中で絶叫する私を置いて、会議(という名の作戦会議)は続いていく。

どうやって護衛を張るか、謁見の時間は何分か、どの部屋を使うか。

そのすべてが、まるで戦の準備のようだった。

 

そして、私は部屋の片隅でちょこんと座って、考えていた。

(わたし、どうやってお出迎えしよう……)

(普通にしてるつもりが“聖女”って言われたりするし……)

(前に来た大臣の子はクッキーを出したら泣いたし……)

(あれ? わたしって、もしかして“普通”じゃないの……?)

「ふぇぇ……」と小さく頭を抱えた私の手に、侍女が試作の焼き菓子をそっと渡してくれた。

「リアナ様、少し甘い物でも。新しいレシピです」

「ありがとう……! これ、おいしい……」

 

お菓子を食べて、ちょっと元気を取り戻した私は、ぽつりと呟く。

「おいしいお菓子と、優しい言葉。
それで仲良くなれたら、いちばんいいのにね……」

 

その時、ふと窓の外から風が吹き込んできた。
少しだけ空気が変わった気がした。

どこか遠くから、重たい空気が近づいてくるような、そんな気配。

 

(……うん。やっぱり“普通の出会い”じゃなさそう)

(でも、わたしなりに――ちゃんと、迎えよう)

 

決意というほど大げさじゃないけれど、
少しだけ背筋を伸ばして、私は机の上のレターセットに手を伸ばした。

「お迎えのお菓子、何がいいか手紙にして聞いてみようかな……?」

 

そんな、私の小さな準備が。
この先、誰かの心を揺るがすことになるなんて、
――まだ、ちょっとだけ先の話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...